第11章:ユリ / 「穴の向こう側」
夜。静まり返った寮の廊下に、靴音は響かない。ユリは壁にあるわずかな隙間を覗き込み、そっと呼びかける。
「トウマ、いる?」
「……起きている」
隙間の向こうから、いつもの沈着冷静な声が返る。だがその声には、少しだけ熱がこもっていた。
「廃棄ヤードで……“動く端末”を見つけたの。教育システムに繋がっていない、古いやつ。通信ポートも生きてる」
「それは──突破口になる」
トウマは素早く思考を巡らせた。回路図が脳裏に浮かび、そこに情報網と都市セキュリティのプロトコルが重なる。
彼の言葉は慎重でありながら、どこか希望を帯びていた。
「時間はかかる。だが、旧式の中継器に干渉できれば、学園ネットワークの“仮想境界”にヒビを入れられる」
「それって……逃げられるってこと?」
「仮想境界に、穴を開けられればな」
そのとき、ユリはようやく確信する。
隣室の天才──トウマは、自分と同じだ。壊れている。壊れていて、それでも世界に問いを投げかけ続けている。
「ユリ、計画を立てよう。君が廃棄ヤードに行くのを隠すには、協力者が必要だ。──リキと、ナナセ教官の説得が先だ」
「うん……。きっと、あの二人なら……」