Scene.7「タクシー」
いつのまにか周りを取り巻いていた重たげな空気。僕の口調はそれを打破したい気持ちが強かったあまり、出だしから敵意むき出しのような鋭い口調に。
「何なら、いっそ……」
うつむいていた彼女が体をビクッとさせたと同時、視線を持ち上げる。
「た、タクシーでも使ったらどうですか……っていうのは」
僕は目があった瞬間、すぐに視線を逸らしながらも、
「ここからS駅まで歩くには微妙に遠い……道を知らないならなおさら時間がかかります。バスが一番だけど、1本で行けるのは本数が少ない。1回乗り換えるとすればすぐに乗れるでしょうけど……わざわざ運転手に聞くのは面倒でしょう? ゴメン、教えるの下手クソで」
最後には何だか込み上げてきた怒りに、まかせ、早口で言葉を締めくくる。
簡単な質問と思いきや真意は計り知れずに謎深く。とまどいながらたも解決をはかろうと苦慮しては責められ、あげく散らかりまくって終了。何だか今の僕自身を象徴しているかのようだ。
(申し訳ないけど、だいたい僕は……)
道を尋ねられるためにここへ来たわけじゃないという余韻をありありと残し、さっそうと彼女を横切る。
スマホが入ったポケットの反対側をまさぐり、2つ折りの封筒に触れる。それはまさに八つ当たりのようになってしまった感情の源。
背後から「どうしよう……」というため息混じりの声が聞こえても、僕は中断された考えごとの再開にとりかかる。
誰に見られようと別にかまわない。悪いことをしたわけではない。僕は今できるかぎりのことをしたまで……迫りくる罪悪感を跳ねつけるように背を丸めて歩き続ける。
橋を渡りきるころにはあらためて強い決意に胸が満ちていた。
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