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Scene.19「新しい恋のはじまりに」

 僕はスタスタ近づくと、相対する人の肩をとっさに掴んでいた。


 今にも崩れ落ちそうな心を支えてあげたいという思いから、そういう格好にならざるをえなかったといっていい。

 カオリも掴まれた肩をピクリとさせてから、体を預けるように自らも手を回してきた。

 あと数百メートル直線上にあるS駅を前に、僕らは周りで行き交う人の中でもかなり目立つ存在になってしまった。空港やせめて駅の改札前だったり、タクシーに乗り込むところならいざ知らず、道中で突然の密接。

 事情をよく飲み込めないながら興味深げにそばを通り過ぎる人たちと同じく、僕にも実のところどうしてこうなってしまったかがわからない。いや、何より言葉より行動で示したかったのだ。


 想いに自信喪失しかけている人をどうにかして介抱してあげたい。それは僕が今日、身を持って経験しているからに他ならない。


「カオリさんは十分魅力的な人―――

「これから何度だって出会いはある―――

「実は僕こそ、カオリさんを好きになりかけてるひとり―――


 自分本意の言葉が勝手に頭を駆け巡っては口元で制御。

 変な下心とは受け取られないよう、どうにかいい回しを考えていたところでカオリはスルスルと回した手を離す。

 一瞬顔を上げては再びうつむいたまま、


「何か、急に悲しくなっちゃって……もう大丈夫」

「こっちこそ、いきなりゴメン。実は……」


 カオリと出会ったあの橋に、僕がいた理由を教えようかとひらめく。でもそれはあえて伏せておくべきだと思い直し、結局言葉を足さなかった。

 カオリは目尻を軽く拭ってから僕を見つめると、


「実は……何?」

「あ、いや……何でもない」


 明らかに変な間ができてしまったけれど、僕はごまかしもせずあえて無言を貫く。少ししてカオリは了解というように体を斜に向ける。

 

 例えば恋をはじめようとするとき、それはまったく蛇足でしかないと直感。いずれ話さなければならないにしても、絶対に今ではないとして寸前でやめた。

 でもそれは結果的に、カオリへの想いを封印してしまうとまでは気づけなかった。


 駅までは残りわずか。

 僕は足元がわずかにおぼつかないカオリの体を前に向かせる。


「あと少しで、駅に着くよ」


 今までと変わらない表情に戻ったカオリは満面の笑みでうなずく。

 僕は何だかわからない自信を漲らせては手をつなぎ、そのまま駅まで並んで歩いた。


 →3年後へ


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