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Scene.18「擬似」

「ふーん……そうなんだ」


 カオリは的確な相槌を打っては最後に小さく唸り、しばらく黙り込む。時折短く挟み込んだ質問は、まるで自分の行動の是非を回顧するようでもあった。

 僕は話に熱中するあまり、交差点を渡るあたりから脇道に入るまで、足を向けてはカオリがついて来るのを目で確認するだけ。話しが終わったのは千年新町の十字路にさしかかったころで、左手奥には児童公園が見えてきた。


 狭い路地を歩く中、ようやくカオリは「でも、それって……」と口を開く。僕は心の中でわだかまりを理解してくれたと信じ、あからさまなフォローはいらないまでも何かしらの手立てがないかとほのかな期待をしていた。

 溜め込んでいた鬱憤も発散でき、依然高ぶった気持ちでいる僕を、カオリは一気に冷ます言葉を紡いでゆく。


「こういうと、ひどく聞こえるかもだけど……彼女はもう、羽田クンへの気持ちが本当になくなったあらわれだと思う」


 いいづらいけれど、それでもできるかぎり傷つけないと配慮した伏し目がちの姿勢。目をあわせずにいる断言が逆に信憑性を持たせ、僕はかなりショックを受けた。


「えッ……」


 傍らの公園内では小学生の男女数人ずつのグループが鬼ごっこをしていて、女たちは早々にブランコに集まって避難。残る男数人は執拗に走り回ったあげく、鉄棒の柱を使ってヒラヒラと体をかわしては力尽きた鬼が大の字で転がる。何やら文句をいいつつ顔は笑っている。

 近くにあるバス停に並ぶ人、対岸を歩く歩行者など視界に入る者を全人類としたならば、今誰より僕が不幸を背負っているなと思った。

 女の子たちの遠くからはやし立てる声を耳にしながら、僕はカオリに顔を向けずに「本当に、なくなった……?」と、いわれた言葉をくり返す。


 僕はすでに自分で都合よくストーリーを作り上げていたのだ。カオリの多少なりとも現状を打開するアドバイスを受け、お互いまだ望みはあるなどと締めくくりたかった。

 そもそも僕が勝手にカオリを同胞としたのがいけなかった。こちらは完全に別れを切りだされているのだから。

 同じように寄り添うスタンスで話をしていたのがまるっきり裏目に。当のカオリも「一応女の勘みたいなところで、私だったらっていうか……同性としての意見として、そんなに間違ってはいないと思う」と念押しする始末。

 僕はカオリに対してというより異性の根本的な価値観の違い、単純な嫌悪感を抱かずにはいられなかった。

 それでも男としてのメンツ、せめてもの強がりからか「ハハッ、そうなんだ」と、いつになく乾いた笑い声を上げては急降下したテンションを悟られないよう気を配る。

 意識するやとたんに目頭が熱くなってきたものの、


「そっか、やっぱりそうだよね……いや、まあ、薄々わかってはいたことだけど、男にありがちな変な自信というか執着心というか」


 恥ずかしいとばかりこめかみをポリポリかいて、込み上げた感情を紛らわす。今しがた会ったばかりの人の横に、不覚にも泣きそうになってしまっていた。

 何としても今はこらえ、駅に着いてお別れした後にでも、無理そうならトイレに駆け込んでしまおう。落ち着いたところで、夜中にそれこそ初恋に破れた乙女のように枕を涙で湿らせるのも十分ありえるだろう。


 カオリは少し時間を置いてから僕の顔をおそるおそる伺っては、さも伝えてよかったというような実に晴れやかな表情。それでも細いクネクネした一本道を歩きながら、僕の表情から奥底に秘めた気持ちを読み取ろうと時折鋭い眼差しを送り続ける。

 僕は残りわずかな駅までの道のりを、ただひたすら歩くことに専念。


 カオリのふと向ける視線を警戒しつつ僕は、頭の中で女性への偏見を助長させてしまっていた。

 どうして女はそんな数少ない一端で、物ごとを決めつけるんだ……?

 この想いの深さ、所以からすべてを理解しているとでもいうのか……?

 だいたいこちらは同情を込め、全身全霊寄り添ってあげたというのに。どうしたらそんな全否定するような意見をさらりと返せるのかね……などと、大いにふてくされていた。

 ただよくよく考えてみれば、カオリにせめて喜んで帰ってもらうことはできないかという、上っ面の感情だけで僕がひとり突っ走ってしまっただけのこと。至極まっとうな答えを突きつけられたあげく予想以上に落ち込み、カオリはある意味自身の想いを確かにしたといえる。

 そんな自分本意な考えがいかに浅はかだったかというのを、いやが応にも知らしめられることになる。


 五叉路を越え、用水路上にある小さな公園沿いに歩きはじめてまもなく。遠くにはS駅高架も見える駅前界隈が見える直線上。

 同じ方向へ歩く人、すれ違う人が増える中でも遠くからこちらを凝視し続けるひとりの男の存在に僕は気がついた。

 男は探し当てた人に手をふるでもなく、その場から動くことなく立ち尽くすだけだった。その瞬間、僕はカオリが先ほど発した“女の勘”をまざまざと知らしめられる。


「あッ……タカシ」

 

 カオリは小さくつぶやくと同時、今までずっと歩いてきた僕をなきものとして彼のもとへ駆け出していた。

 僕は途方に暮れつつ……


A.2人のなりゆきを遠くから見守る

 →Scene.23へ


B.経緯を説明するため、後を追う

 →Scene.24へ


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