Scene.17「想定外」
正直にいえば、僕はカオリに愛おしさを感じはじめていた。
単に異性としてだけでなく、ポジティブな考えに。ほんの30分ほど前に出会い、道案内をする中で感じ取ったに過ぎないし、何より僕には愛すべき人がいるのだけれど。
千年新町の細い路地をいくつか曲がった先、児童公園が脇に広がる十字路に出る。
ちょうど自販機が目に留まり、僕はひと休みとばかり飲みものを勧める。
「飲みたいの、ある?」
カオリがうなずき、指を差した先を僕は追うとすかさず「これ?」とSuicaをかざし、ペットボトルをゴトンと落下させる。
「ありがとう」
カオリはポーチにかけた手を受け取り口に伸ばし、連続して僕も買う。そして公園の隅にあるベンチを指差し「あとちょっとだけど、少し休憩しよう」と先導。カオリは無言て後に続く。
真ん中の広いスペースには誰もおらず、対角線上に設置されたブランコに数人の女の子。横のアスレチックの高台に同級生らしき男の子数人がポータブルゲームで遊んでいた。
「公園に来てまでやるかね」
誰とはなしに僕がつぶやくと、カオリも「時代だよ」と短く答える。
しばらく他愛ない話をしてから立ち上がり、全身で大きく伸び。足腰は思いの外リフレッシュしたけれど、気持ちは時間が立つほど重くなった。
細いクネクネした一本道を歩き続け、ガソリンスタンドが目立つ五叉路に到達。
渡り終えては用水路沿いに進むと、周りはすっかりせわしなくなる。S駅まではあと数百メートル。
周りをの人たちとすっかり同化しながら、僕は極めて冷静にカオリの半歩先を歩く。
まもなく起こりうるだろうできごと、そのとき確実に取るべき行動を頭に想像を働かせながら、何とか顔には出さず足を進める。
ただそれはあまりに自分本位過ぎる考えだった。迷わずできると信じて疑わなかった行動を、実際目の当たりにしては怯んでしまうという典型的パターンに陥ることになる。
ビルとビルの間を抜け、S駅ターミナルを目にするや、カオリは明らかな安堵で瞳を輝かせる。
オレンジ色を帯びた空の下、僕もひとつの仕事を完遂させたような達成感でバス乗り場を遠巻きに進む。
多くの人が行き交う高架下の改札入口へ足を進めていたそのとき。
高架下にて店舗をかまえるスーパー。人通りが少なくなったタイミングで脇の従業員専用通路が突然開くと、出てきた白いコックコートは紛れもなく結菜だった。
大きなダンボールを胸に抱えたまま、器用にドアを閉める。
「ゆ、ユナ……!」
僕の思わず漏れ出た声にすかさず反応。
「あッ……」
僕は結菜に会ったらまずいいたかったこと、聞きたかったことを頭いっぱいにしていたにもかかわらず、実際は会ったとたんにすべて吹き飛んでしまっていた。
傍らのカオリにも空気が伝わったのか、僕らはしばらく無言で見つめあう妙なときの流れに巻き込むこととなった。
結菜は抱えていたダンボールに目を逸らしては足元に置き、まっすぐに背を正す。
結菜は再び僕を見つめた後、カオリを一瞥。僕が何もいわずにいたことで、足元のダンボールに手をかけようと腰を曲げる。
それは自分から話すことがないという意味であり、用がなければ帰ってという無言の圧力でもあり、僕がいいにくいことをいうのに時間がかかる性格を熟知した上での行動だった。
そんな結菜を見て、ようやく僕は……
A.カオリにかまわず、手紙の真意を問い詰める
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B.カオリを彼女に見立て、別れの意思を伝える
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