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Scene.16「溢れる感情」

 上り坂は多少息を切らしながらようやく頂点へ。そこから坂を下りはじめただけで何ともいえない達成感があった。


 広がりゆく千年の交差点を目にしながら、僕はまるで小学生のころの遠足の気分で足を進める。

 上り坂の苦行からの反動か、単なる歩きやすさか。カオリも童心に返ったように、腰元のポーチを揺らしては大きな声で笑う。最近巷を賑わすニュースへの思い、仕事の鬱憤、果てはどうでもいいことまで、頭に浮かんでは各々喋りあった。

 最近観たYouTubeの話になるや、カオリは耳掃除する動画にハマっているらしく、たまに虫の死骸が出てくるといったのに対して僕は、人は生涯で就寝中10匹くらい蜘蛛を食べているらしいと返した。そして近況の仕事あるある話にいたっては、互いの職場を頭にイメージし、不平不満に同意したり、うらやましいと感嘆の声を上げたりした。


 千年新町を過ぎ、住宅街を縫うように歩いた先の十字路。横切る道沿いにある児童公園を目にしたとき。

 さすがに会話が途切れがちになっていたため、僕は何げなく聞いてみる。

 初めて会ったときに見た表情の強張りに「しまった」と思ったものの、カオリはすぐ微笑みに変えてからたったひとこと、


「エンレン……してる身なので」


 新たな流行り言葉かと思ったけれど、何てことはない遠距離恋愛の略と理解。わかる人がわかればいいという隠語の意味あいを保ちつつ「そう、なんだ……」と返事。

 彼氏がいないわけがないくらい魅力的な人というのが率直な感想。ただほんの少し気になったのは、まるで去年までそうだったかのようなさばさばした様子。


「えっと……それで結局……」

「会うのはやめておいた」

「えッ?」

「いいの。今日はもう満足」

「いやいや……!」


 今の僕にとってはまったく他人事には思えず、すぐに、


「カオリさんどうして……せっかくここまで来たんだし、彼と会って話さないと、何も解決しないんじゃ……」


 聞こえなかったとばかり、カオリは笑みを崩さず「道、こっちでいいの?」と僕を先導するように歩きだす。


 コツ、コツッ、コツッ…


 ローヒールの靴音を耳にしながら僕はしばらく無言。児童公園と脇に立つバス停、向かいに建つマンションには目もくれない。

 クネクネと曲がる一本道。

 ほぼ会話がないまま、靴音がまるで時計が刻む秒針のように聞こえはじめては突然、


「私はタカシ、あ、彼のことだけど……タカシに私の気持ちを知っておいてほしかったってだけだから」

「だからこそ……」


 僕は即座に足を止める。もちろん距離も時間もかなり隔たっていて、引き返すことなどできないのは承知していた。けれどポーズを示すことで足を止めさせたかった。

 カオリは僕に笑みを深くさせては前を向き、


「何だろう……女の勘?」

「会わないとしても、せめて連絡してみるとか……」


 背中に向けて僕はすがるようにいい放つ。

 カオリは本当にそれでよいのか。強がりではないのか。だとすれば、きっとその裏に本心が隠れているに違いない。


 コツッ、コツ、コツッ……


 靴音がまた遠のく。

 道の先に見えてきたガソリンスタンド。S駅まではそこを曲がった先のあと数百メートル。僕は一向に縮まらない距離にたまらず小走りで追いかける。


 細い道が交錯する五叉路は車が行き交い、人も一気に増えた。

 坂道と同じ、乱れた息を整えながら横並びになると少ししてカオリは、


「あ、あの高架のところでしょ」


 見覚えがあるとしては「歩いてだとやっぱり遠かったけど、意外とあっという間だったね」と微笑む。

 僕は軽くうなずき、同じ問いはしたくないと目を見て気持ちを伝える。

 するとカオリはピタッと足を止め、


「わかりあえてるって、信じていられるうちは大丈夫」


 カオリはひとりごとのように短くいい終えると、目で制する僕の脇をスルリと抜けてどんどん先へ行ってしまう。

 立ち並ぶ駅前界隈の中、遠くに駅とわかる高架がすでに見えている。人どおりも増え、このままでは見失ってしまうというくらい離れてしまってから僕は走って追いかける。

 すると先を歩いていたはずのカオリはいつのまにか立ち止まっていて、僕は傍らで膝に手をつき、弾んだ息を整える。

 僕を待ちかねていたようにふり向きざま発したカオリの声色は別人ほどに豹変。


「ねえ、どうしてだろう。もしかしてって思っただけで……」


 たどたどしくなってゆく語尾。

 僕を見つめる目は、それまでの輝きをまったく失っていた。わずかに斜めに首を傾げる表情は今にも崩れてしまいそうに思えた。


「私……やっぱり変かな?」


 これまでずっと順調に歩いてきては問題なくS駅に到着すると思っていただけに、僕は正直かなりとまどった。ただやはり僕の漠然ながらの見当は、あながち間違ってはいなかったと確信。

 赤らむ瞳を隠すように顔を伏せるカオリ。

 僕は「いや……」と口を開きかけるも、すぐに閉じる。瞬時に湧き上がった感情を抑え、意を決し……


A.カオリに近づき、言葉の続きを伝える

 →Scene.19へ


B.その場で静かに言葉の続きを伝える

 →Scene.20へ


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