Scene.15「同士」
一度はもの別れになったとはいえ、話しはじめるや同世代というのもあり、すぐに打ち解けることができた。
彼女、カオリ(苗字より名前で呼んでほしいとのことで)から語り続けられた多くの言葉の裏には、やはりひとことでは語り尽くせない想いによるものがあった……というのを、能満寺の坂をヒイヒイ息を弾ませて歩く中で僕は確信。
些細な言葉の行き違い。
ときに激しい口論になっては沈黙。冷却期間と謝罪を挟んでは再び同じようなくり返し。それにより心の隅に溜まっていった無意味な気泡の集まり。
それらを表現するとすれば心配、嫉妬、不安、寂しさ……2人が幸せになる未来のためにはできるだけ取り除きたい感情が、すでに喉元まで迫ってきてはどうしようもなくなっていたのだ。
カオリが発した「遠距離恋愛」に、僕はとても引っかかった。
高校の同級生……
最初からどちらも好感を持っていて、つきあいはじめた……
就職を機に彼は上京、カオリはひとまず地元に留まることに……
まだ将来を漠然とでしか考えられないまま、離れ離れの生活が続いている……
ひとつひとつにエピソードを添えては、淡々と語り続けるカオリ。
そして今置かれている僕の状況。
一方的に手紙を送りつけられているとはいえ、すぐに会える距離でさえこんなにもひとりさ迷っている。
ただ、同じというなら僕に対してカオリの様子は明らかに違う。
(底知れない、妙に落ち着いた雰囲気はいったいどうして……?)
僕ほど決定的な虚無感はないにしろ、もう少し後悔なりの感情に耽るのがふつうではないのか。
女性ならではの感覚なのか。
現在進行形ながらとっくにふっきれたといいたげな、昔の思い出のようにさばさばとした状態。
第一その彼とどこまで話しあえたのだろうか?
会って、それなりに話をつけて、いや、心ゆくまで散々話しあって。で、どうしてもわかりあえないからと、暴れるまではいかないとしても、言葉を荒げたり、感情を剥き出しにし、ときに涙し、あげくようやく見出だせた結論だったとしても……どうしてそんなに冷静でいられれるのか、僕にはわからない。
そこまで考え尽くしてから、たまりかねたように、
「今日……彼氏さんには会ったの?」
カオリはそっけなく首をふりながら、
「会うために、ここまで来たっていうのにね」
一度僕に目を向け、フッと息を吐いてから再び前を見ながら、
「何か変だけど、ここまで来て実際、会ってどうにかなるのかなっていう……別の私に引き戻されたみたいな、今」
「えッ、じゃあ……?」
僕はカオリと最初に言葉を交わしたあげく“タクシー”などと口走ってしまった教訓から、絶対に反応的にはならないよう気をつけていた。硬い決心が揺らがないよう、とりあえず空を見上げ、開きかけた口を何とか閉じる。
気持ちを抑え込んでから視線を送り、口元を緩ませたカオリと同じくらいの笑みで受け流すことにした。
言葉なしでは表現しづらいけど「君は君なりに、頑張ったんだろうね」というような意味あいの顔を向ける。
これからカオリに、身を持って見せてやりたいと思う。
僕が持っているこの想いがどれほどのものなのか。そしてわかってもらえるまでにどれだけの言葉と時間を費やすか。
それはもともと追いかけるべき男の性かもしれないけれど、この思いを信じて疑わず行動してきた僕にとってはどうしたって引くことはできない一大事。言葉、表情、態度、僕のすべてを洗いざらいぶちまけるべきではないか。
それくらいの覚悟で、僕は今の気持ちを精一杯伝えてみるつもりだ。
綺麗な表現をするならば“運命”、もしくは“勝手に仕立て上げたリアルな展開”。
S駅近くで働いているという結那のアルバイト先まであと半分。
下り坂を歩く中、目の前に広がる大きな交差点を見下ろす僕はある決意を固めはじめていた。
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