Scene.14「遠距離恋愛」
彼女の積極的な行動には、十分すぎる理由があった。
どちらからともなく、たどたどしく交わしはじめた会話。基本的な自己紹介、時事ネタから興味のある話へ移り、それぞれの特異なエピソードを披露しあっては意外にも途切れることなく続いた。
結局僕らは“通りすがりのお人好し地元民、羽田”と“遠距離恋愛中、連絡が散漫になった彼を抜き打ちチェックしにきた貞淑(?)な彼女カオリ”ということで落ち着く。
最初のバス停は長い上り坂にさしかかることもあり、僕としてはちょうどよい確認をすることができた。
これから続く道のりをまだ歩くのか、バスに乗るか。そして歩くにしても僕と一緒でいいのかそうでないか。
あらかじめパターンを想定しては、どの選択肢にも甘んじて受け止める覚悟をしていた僕だったけれど、それはまったくの杞憂だった。
カオリはバス停の存在を認めつつ、足を止めず。いきなりの想定外に、僕は慌てて呼び止める。
「このバス停からでも駅までは……」
カオリは歩きながら顔だけふり返ると、
「この坂、全然丘じゃないよ。完全に山」
いい終えたときには背中を見せていた。
僕は「それはそうなんだけど……」と、一緒にいてもいい免罪符を得たとした何だかわからない喜びとともに小走りで追い駆けた。
勾配が続いても変わらず会話を続け、ハァハァ息を弾ませながらようやく頂上まで上りきる。
関所のように佇む能満寺のバス停を通り過ぎる。しばらく道は下り坂ということもあり、歩調を緩やかにして密かに息を整える。
連続ドラマの第何話目かを観終え、次回の予告では足りないストーリーの概要を知っておこうとばかり、僕は疑問を投げかける。
「ふーん、そういうことか……で、彼と会って何か話はしたんですか?」
「うん……それならまだよかったかもだけど」
ハキハキとした口調が特徴的だったカオリが、珍しく口ごもる。
僕が履いているスニーカーからはそんなに音はせず。周りの雑音でほぼ消されるのに対し、彼女のローヒールはかなり耳に届く。
コツッ、コツッ、コツッ……コツ……
だんだんとゆっくりになっては音が止む。
歩き続けていた僕が気づいては後方で小さく佇むカオリにふり返る。
カオリは地面の少し先に視線を向けながら、
「でも考えてみたんだけど……やっぱり、ちょっと会えなかっただとか、話が思うようにできなかったとかで、いちいち確かめるのもどうなのかなって」
「えッ?」
話が見えず、つい僕は聞き返す。
カオリは「だから……」といっては、しっかりと顔を上げ、
「相手のことを本当に思ってるっていうなら、それはひとりよがりでしかないかもって……今さらだけど、思い直したところ」
やっぱりよくわからず、僕は再びクエスチョンマークを頭の周りに作ってはカオリを見つめる。
カオリはすでに歩きはじめていて、僕を追い抜きざまふり返ると、
「ほら、よくあるドラマの純愛モノで、結局は“お互いを信じあう気持ちが大事”っていいながら、どんどん話がこんがらがるあたり。何か、遠距離恋愛こそ試されてる気がするの。私の理想がかなり入っちゃってるんだろうけど」
「何じゃそりゃ」
途中から口元で出かかっていた言葉を吐き、とりあえずオチをつける。茶化されたことで一瞬見せた照れ隠しのような満面の笑みに、僕はあろうことか心がときめいてしまった。
直線の下り坂の先に広がる交差点が見えてきた。S駅までの道のりもあと半分。
僕はいつしかすっかり気を許していた安堵と話の流れをいいことに、今抱えている悩みをカオリに話してみることにした。
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