Scene.11「ありがとう」
結局ものの5分と経たず、渡ったばかりの橋をすごすごと引き返す。
頭の中では決して答えが出ないとは理解しつつ、再び長い考えに浸ろうかとした矢先。
橋のたもと、先ほどとほぼ同じ場所に、道を尋ねてきた女性が辺りを見回していた。
それを目にした僕は、頭に渦巻く考えを瞬時にリセットさせるとともに出てきたあるひらめきのもと、呼びかけていた。
「あのー、すいませーん」
彼女は僕の顔を見るやわずかに表情を硬化させ、気づかなかったとばかり横断歩道を小走りで渡りはじめる。信号はすでに青色を点滅中。
明らかに聞こえたはずなのにと、誰かに見られたかのような恥ずかしさが急激に込み上げた僕。引っ込みがつかなくなっては久しく覚えがないほどの大声を張り上げて追いかける。
「ちょっ……すいませーん! すいませーん!」
横断歩道の半分ほどで赤信号に変わり、それでも強引に渡りきる。背後からはさっそく、渡るなら早く渡れといわんばかりに車が走り出す。
相手は道に迷っているくらいなので、すぐに追いついた。
「ハァッ、ハァッ……呼び止めてるのに、何で行っちゃうんですか……」
「もう話しかけてこないでくれますか」
膝に手をつきながら見上げる僕をキッと睨む。
半開きの口元は若干息を整えているのかもしれないし、まだいい足りないのを抑えているようでもある。
明らかな豹変ぶりを問いただそうとした僕より先に、彼女は、
「バスもタクシーなんかも使わずに、ひとりで行ってみます……っていうか、違う人に聞いてみようとしてただけですから」
早口でまくし立てる口調は俄然ヒートアップ。僕が先ほどいい放った言葉で彼女はかなりご立腹のようだ。
僕はすみやかに謝るとともに急用が一段落したなどと、とってつけたいいわけを述べ立てた後、最後に、
「なので……もしよかったら途中まででも、道案内しましょうか?」
真一文字になっていた彼女の口の両端がふと緩む。僕は彼女の未来の鏡のようにさらに口角を上げつつ、さっそく道を先導。
背中からかすかに聞こえたお礼。
何だか胸に巣食っていたしこりのひとつが少し和らいだ。
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