Scene.10「友達」
「友達」って、いったい何だろう?
男女におけるそれは、とても微妙なものだと思っているし、少なくても現時点の僕ではどうしてもわからないことがある。
男女の友情。
どういうこと?
友情とは相手を思いやり、意見し、ときに力を貸す。あるいはあえて何もいわずそっとし、陰ながら見守る。それはとてもすばらしい感情であり、ともすれば「恋人」と何ら大差ない関係にも思えてしまう。
かといって「恋人」と「友達」が同じでないことはさすがにわかる。
友達……結那は僕との関係にそれを望んだ。
今日はバイトが休みで、特に出かける予定もなく、朝から部屋のベッドでゴロゴロ。
そんなところに母親が、毎度のごとく起こしにくるかわりに僕宛の郵便を持ってきた。
「女の子からみたいだけど、何かしらね?」
いつまで定職に就かずにいるのかというニュアンスが込もったひやかし。聞き捨てならないといういつもの強気な遠吠えはせず、冷静さを保って受け取る。
指に折り目が触れ、すぐに封はされていないとわかる。もしかしたら中身を見られたかもしれない。何より受け取った瞬間、あまり芳しくない予感と差出人の見当がついてしまう。
母がいなくなってから、はやる気持ちを抑えて封を見返すと裏に名前のみ。
その時点ではまだ異性の交遊関係を知られてしまった恥ずかしさが優勢。結那が現在つきあっている彼女だと話すいい機会ではないかと思いつく。
わずかにくすぶる不安な気持ちの中、ベッドに寝そべって中身を取り出す。
入っていた紙を広げ、数行を読みはじめたとたんすぐに感情が激しく波立った。
飛び起きてはベッド上で正座になり、もう一度最初からじっくり読み返す。
お世辞にも綺麗な文字ではなかった。いや、わざと雑に書いているような気もする。
消印はなく、おそらく結那自らポストに入れたのだろうと想像。
いつのまに?
何で手紙?
家の前まで来ているのに会わない理由……いろいろな憶測が頭の中で飛び交う中、紙の状態にも注目。便箋ではない、ノートの切れ端。何箇所かの書き損じもそのまま。
『ハネちゃんへ
突然ごめん。いわなくちゃいけないことがあります。
告白されたとき、すごくビックリしたし、うれしかった。
だから、友達ならってことでいいよっていいました。
でも、やっぱりハネちゃんが望む関係にはなれそうにない。
実は好きな人がいます。
今まで黙ってて本当にごめんね。』
気づいたときにはビリビリ手紙を破っていた。細かい紙片となったときには視界が涙で歪んでしまっていた。
何だよ、これ……
結那、どうして……?
今年に入ってからスマホ上のやり取りが明らかに変わりはじめた。
返事は数文字程度、場合によっては数日に渡りスルー。今月何度目かの食事の誘いを断られてから2週間近くぱったりと連絡が途絶えるなど、すべての理由を自ずと理解。
取るものもとりあえず、気づいたら僕は結那が住む団地へ向かっていた。
これまで結那は何度か僕の家の前まで来たことがあったため、手紙を投函できたのだろう。けれど僕が結那の家へ送ったのは結局この橋の前まで。
向こう側へ行くのは今日が初めて。
橋の手前から手をふりつつ眺めていたせいで、後を追うように迷わず向かう。何棟か前後に並ぶ中の一番手前、右端の入り口。
郵便受けを見て結那が住む部屋をいくつかに絞る。手をふり別れた後もしばらく佇み、ちょうどいいタイミングで窓の灯りがついた場所から推定。それでもノックする勇気はなく、出てくるまで待っていようと思い直す。
気持ちだけ先走ったかなり無茶な計画。
とにかく本人に会って直接話をしなければとあらためて決意を新たにしたとき、ふと気づいた。
いつものように見ていた景色の中で、何かが欠けている違和感。結那がいつも乗っている自転車が見当たらない。そう、だいたいこんな日中家にいることが考えにくい。
いろいろ考えた末、引き返すことにした。
A.僕がポケット内を確認している場合
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B.僕が遠くから女の姿を見ている場合
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