偽・蛇と青春
「つ……!りつ……!!」
うるさいなぁ……ゆっくり寝てたのに。授業の終わり際に睡眠を取るという究極の睡眠を邪魔するなんて誰だ……?悪魔か?
「おい、独孤!独孤!!起きろ、起きろよ!!」
「ん、んんぅ〜。なんn……あ」
「気を付け……礼!!」
「さようならぁ……」
くそっ……くそっ……もう授業が終わる時間じゃないか……!!高校生にもなると周りの視線はブリザードのごとく冷たくなる。
さっさと部活にいって記憶から消してもらわないと平穏な日々は送れない。というわけで教室には居られない!
「ソイヤッサッ!!」
一応剣道部に入っている。練習はそこそこ辛いがなんとか着いて行けている。レギュラーには入れないが。
「はぁ〜……疲れたぁ。あ」
神社?なんだろう……夏の夕日と相まって古いのに神聖な雰囲気が漂ってくる。なんかお供えでもs
「」
うっわぁ……よりにもよって俺を持ち物の入れ違いでいじめてきたクソ野郎がいやがる。せっかくお参りしようと思ったのに。
こっちに来るっ……!!と、取り敢えず木の影に隠れよう。唾を吐いた?何に?後で寄ってみるか。良いことがあるかもしれない。
「蛇……蛇……?汚れてるな……あった」
神社によくあるあの手桶で蛇を洗った。うんうん、なんかアルビノに見えるし、神聖そうなモノに唾を吐く……さすがいじめっ子。
俺達常人とはちげぇや!ま、あんな奴気にしてても無駄無駄。さて、お参りをするとしますかねぇ……
「……」
「どしたどした?」
蛇が腕に巻き付いてきた。懐かれ……ることはないか。蛇は懐かない生き物だし……特に大きくもないし……連れて帰るか。
「……ただいま」
「……おかえり」
今日は機嫌が悪いな。面倒くさいなぁ……蛇を部屋のどこかに引っ掛けな……痛い痛い痛い!
なんか急に巻き付く力強くなった?風呂に入るのは後回しか……?まぁ飯を食うだけならバレないバレない。
「シュルルル」
「静かに……バレちゃうでしょ」
「痛い痛い……分かった分かったこれあげるから許して、ねっ」
隠し持ってきた今日のおかずを蛇に渡す。なんか尻に敷かれてる気がするなぁ……。寝よ寝よ……。
「ふぁ……あぁ」
「ふしゅるるるるっ」
「なになにっ!?」
「しゅるるるるるっ」
な、何を求められてる?あ、腕か……巻き付くの好きだな……蛇は棒状の物に巻き付きたがると聞くけど、こんなにか?
「いただきます」
「……」
まだ機嫌悪いな……どうせ俺になにか言ったのが聞こえてなかったのを無視と捉えて怒ってるんだろ。面倒くせぇ……
さっさとご飯を済ませて学校に行こう。謝るなんて面倒くさいし、そういうのは後回しにしよう。
「行ってきます」
「……」
さて、蛇は……落ち着ききってやがる。朝食のポテトを美味そうに食いやがって……というか蛇は食べられない物とかないのか?
「しゅるるるるるっ!」
「うわ、なんだっ」
異様に撫でるのを強要してきやがる。あ、例の神社だ。返してくr……剥がれない。無理そうだ。
「気を付け、礼!」
「「「「おはようございます」」」」
朝礼を終わらせて授業を受けた。トイレに行くときが一番大変だった。学校では鳴かないんだよなぁ……なんでだろう。
「気を付け、礼!」
「はぁ〜昼だ。ほら食べな」
音を立てずに丸呑み……さす蛇。さて、俺も美味しく半分くらい食われてる。今日部活休みでよかった。帰りになにか食べよ。
「気を付け、礼!」
「「「「さようなら〜」」」」
はぁ……今日も学校終わったぁ。さ、帰ろ帰ろ。今日は豪華に黒豚饅と焼鳥を買い食いしていくぅ。
「ん〜、美味しいっ」
「しゅるるるっ!!」
「はいはい、ほれっ」
おー、上手い上手い。キャッチしながら食べるとは中々やり手。まぁうまくやったところで何か出るわけでもないけど。
「ふぃ〜、結構満足」
電車に乗り、家路を歩いていく。いやぁ〜夏という事もあって明r……くない?黄昏時のような絶妙な空模様……あれ、神社?
まだまだ辿り着くような距離歩いてないのにどうして?どうしよう……無性に鳥居を潜りたい。鳥居を潜りたいぃいいいっ!!
「しゅるる」
「ちょっ……あっ」
鳥居を潜ってしまったぁぁぁあ!!絶対に入っちゃいけないパターンの場所に入ってしまったぁぁぁあ!!蛇もいないし!!
「おーおーおー……困惑しておるのぉ」
「ひうっ!!」
古風な……口調。そして、この異様な黄昏時の空模様のような景色の中にポツンと立つ社。振り返るとそこには……
「なんじゃ……?まるで口が裂け上半身は辛うじて人の形を保ちつつも所々下半身が蛇の化け物でも見たかのような顔は?」
「まさにそんな感想なんですけれども」
「ひどいのぉ……もしなこれまでの熱い夜は嘘……おーいおいおい」
これ、まで……?こんなのと知り合った覚えなんて全k……なんかこの音聞き覚えがあるぞぉ……ここ数日で聞いたなぁ?
「蛇……」
「おぉ……ようやく気付きよったか。愚鈍も過ぎると可愛げが無くなるぞ?」
「愚鈍……」
「褒めておる。素直に受け止れ」
褒められてるのかなぁ……なんかバカって言われてる気しかしないけどなぁ。蛇が着物を着始めた。
「ふむ……よしよし。ここに呼ばれた理由……検討は付くか?」
「……神隠し?」
「ふふ……その通り。妾は、お主が気に入った。ここで永遠に妾と戯れていようではないか!!」
俺の手を掴んで離してくれない。握力が強すぎて痛い。これはガチなやつだ。夢では無かった。
「ちょっと……見逃してもらえたりは」
「するわけないじゃろたわけ」
「デスヨネェ……」
「あぁ……現世の事が気掛かりなのか?なら案ずる事はない。鳥居を潜った時点でお前は事故死したことになっておる。死因は……倒木と言ったところかのぉ。お主の帰らなければならぬ場所などもうない。喜べ!お主は永遠の命と減らない腹……疲れぬ体、げに素晴らしき遊び相手を手に入れたのだ。現世の事など忘れ、ここで戯れようではないか」
死んだ……?死んだのか?こんな、こんな歳で?恋愛……積んであるゲーム……積み本……やりたいことが沢山あった。どうして……
「どうした?寒いのか……?仕方ないのぉ……よしよし……わしが居るからの……案ずる事などない」
「寂しい……帰してっ!帰してくれよぉっ!!」
「何も寂しがることなどない。いったであろう。妾とこれから永遠にこの社で戯れていればよいのだ。案ずるな……妾がずっと側におる。手始めになにをしようか?無論契りはする。案ずるな……お主一人ということはないのだ。安心して妾と戯れるが良い」
理解できない。何も理解できない……これは宇宙人かなにかだ。こんな、こんな寂しいところに二人きりなんて耐えられない。
「どうした?あぁ……追い掛けっこかえ?1人で始めるとは……余程楽しみだったのじゃな愛い奴め……5秒数えてやろう」
「はぁ……はぁ……はぁ……!!」
「いち……にー……さん……よん……」
逃げないと……逃げて、帰って……どうでもいいあの日常を取り戻すんだ。こんな所に宇宙人と一緒に居られ……
「捕まえた……惜しかったのぉ。疲れて周りが見えなくなったか?ほれ……ご褒美じゃ」
「うっ……ううっ……」
「そんなに悔しかったのか……?それとも妾の抱擁がそんなに嬉しかったのか?おーおー……愛い奴め。ほれほれ、遠慮するな。永い付き合いになるのだから……」