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黒の剣姫 〜異世界転生したので世界最強を目指します〜  作者: 阿東ぼん
第一章 故郷〈ノホルン〉での修行編
7/37

ライカは新たな力に目覚めた!

2022/8/31

前後のページで文章を整理しました。

すでに読んでくれた方は混乱してしまうと思います。

申し訳ありません。

今後も読んでいただけると嬉しいです。

 七歳になった私は二年間の鍛錬によって大きく成長した。


 どんな角度で剣を振っても剣筋はぶれないし、お父さんと一日中打ち合えるだけのスタミナも身につけた。


 私たちの打ち合いは決まった角度かつ決まった回数の斬撃を同じタイミングでぶつけるという型の練習みたいなものだが、パワー以外は完璧に拮抗していると言っていいだろう。レベルアップやジョブの格上げでステータスが増えれば間違いなくお父さんより強いと思う。


 そして、私が持つユニークスキル《剣の申し子》に含まれる鑑定スキル《鑑定眼・剣》の新たな使い道も発見した。


 この《鑑定眼・剣》は〝剣カテゴリーに限り、全ての情報を理解できる〟のだが、なんと剣カテゴリーの概念には剣士としての能力や剣筋までもが含まれるのだ。


 わかりやすく言うと《鑑定眼・剣》を使うことで〈剣士〉のジョブを持つお父さんのステータスを看破し、戦闘中は一手先の未来を視覚的に予知できる。なんだこのチート。鑑定という言葉の解釈の幅が広すぎるだろ!


 おかげで私は相手の斬撃を避けるのがとても上手くなり、パワーの差があっても完璧なタイミングでお父さんと打ち合えるようになった。しかもいちいちスキル名を口にしなくても発動できることがわかったので戦闘中の使用も問題ない。一方的に情報を得られるのはかなりの利点だ。


 前世からの執念、女神グラウディア様から与えられたユニークスキル、二年間の努力。


 これらが今の私を形成し、私のこれからを導いてくれる。


 クロウという旅の道連れもいる。そろそろ魔物狩りをしてクロウのことも鍛えてあげたい。


 七歳の誕生日の朝、起床したばかりの頭でそんなことを願っていると、お父さんがいつにない神妙な顔つきで私の部屋に入ってきた。


「おはよう。どうしたの?」


「ライカ」


 普段より低い声音は真剣である証だ。私は表情を引き締め、ベッドから降りてお父さんに向き直る。


「今日は俺と試合をしよう。いつもの打ち合いじゃない。勝ち負けをはっきり決める試合だ」


「ってことは、勝ったら何かもらえるのかな?」


「ああ。おまえが勝ったら魔物狩りについてくることを許可する。負けたら来年の誕生日に再挑戦だ」


「……いいんだね」


 ついにこの日がやってきたか。


「私、勝っちゃうよ?」


「俺だって負けるわけにはいかないさ。可愛い一人娘を魔物の脅威から守るためにな」


「この二年の集大成を見せてあげる」


「強くなってるのはおまえだけじゃないってことを忘れるな」


 そう、お父さんは急成長する私に感化されたのか、以前より魔物狩りに精を出しレベルアップしているのだ。元から絶望的に開いていたステータスの差はさらに大きくなっており、剣の技量も二年前に比べて明らかに上達している。おそらく《鑑定眼・剣》をフル稼働して一手先を読み続けなければ勝負にすらならないだろう。


「俺はもう朝飯を食った。外にいるから準備ができたらこい」


「わかった。すぐ行くよ」


 そうしてお父さんは私の部屋を出て行った。


 私は素早く身支度を整え、お母さんが用意してくれた朝食を食べるため居間に出た。お母さんには悪いけど今日だけご飯を半分残す。満腹だと動きが鈍くなるからだ。


 お父さんがいない朝食の席はなんだか新鮮だった。お母さんは何も言わなかったが、ふと顔を盗み見ると複雑そうな表情をしていた。


 私が魔物狩りに行くことを心配してくれてるんだよね。


 ありがとう。でも、ごめん。


 私は勝つよ。


 シャツにズボン、腰にはクロウ。後ろから首が見えるくらい短く切り揃えた黒髪を手櫛で撫でつけ、軽い準備運動をしてから外に出る。


 玄関から十歩ほど離れた場所にお父さんが腕組みして立っていた。眉間に皺を寄せながら目を瞑っている。瞑想していたようだ。私の気配に気づくと、ゆっくりと目を開いた。


「きたか」


「こっちはいつでもいいよ」


 部屋から持ってきた木剣を片手で軽く振る。何気ない動作は日々の素振りで洗練され、それだけで周囲の草木を揺らがせた。


「わずか七歳でここまでの剣気とは……。我が娘ながら末恐ろしいものだ」


「お父さんのおかげだよ」


 剣気というのは剣士が持つ独特の気配のことだ。《鑑定眼・剣》の効果で私はそれを視覚的に捉えることができる。オーラと言えばわかりやすいか。


 私を褒め称えたお父さんの剣気も二年前に比べれば相当なものだ。


 実際のステータスはこんな感じだ。


 ────────


【名 前】ロディ

【年 齢】27歳


【ジョブ】剣士

【熟練度】100/100


【レベル】12

【経験値】2361/6800


【体 力】93

【魔 力】25

【攻撃力】34+15(+2)

【防御力】13+10

【知 力】18

【素早さ】26+5

【幸 運】30


【装 備】

〈木剣〉


【スキル】

《魔獣斬り》


 ────────


 恐ろしい数値だ……普通に考えたら勝てるわけがない。


 だって私のステータスはこうだぞ。


 ────────


【名 前】ライカ

【年 齢】7歳


【ジョブ】見習い剣士

【熟練度】0/10


【レベル】1

【経験値】0/1000


【体 力】30

【魔 力】1

【攻撃力】15+1(+2)

【防御力】3

【知 力】2

【素早さ】9

【幸 運】1


【装 備】

〈木剣〉


【スキル】

《なし》


【U・S】

《剣の申し子》

《無限収納》

《女神の試練》


 ────────


 無理ゲーだろ!!


 しかし、私はお父さんがつけてくれた稽古と二年間の自主トレのおかげでレベルアップしなくてもステータスが伸びているし、剣の技量も加えれば数値以上の強さを手にしているという自負がある。


 お父さんはただステータスで圧倒するだけの戦いを望まないだろう。今回の試合で見られるのはあくまで剣の技量と考えておくべきだ。


 私に秘められた〈剣神〉になれるだけの潜在能力と《鑑定眼・剣》の未来視。


 これらを駆使してお父さんから絶対に一本取ってやる!


「いくぞ!」


 掛け声と共に《鑑定眼・剣》を発動。私の視界は一手先の未来と現在を重ねて映した。


 先手は私から。何度も何度も練習した上から下への振り下ろし。渾身の力を込めて繰り出したそれは、未来視の通り片手で塞がれた。木剣と木剣のぶつかり合いによって生じた風が私の前髪をさらう。


「いい一撃だ。……だが!」


 お父さんはあっさりと力で私を押し返す。未来視でそれを知っていた私はあえて抵抗しないことで大きく後ろに跳び、体勢を立て直す時間を作った。


「本当に七歳か? その身体能力」


「毎日鍛えてたからね!」


 引くついた笑顔にそう返し、今度は子供の体格を活かして低く攻める。低空飛行にも似た踏み込みで狙うのは脛──いわゆる〝弁慶の泣き所〟だ。強く打たれれば大の大人でも悲鳴をあげる急所である。


「おっと!」


 お父さんの木剣が私の進路を塞ぐように降りてきて、本人は熟練の足捌きで後退。構わず打ち込むがこれも軽くいなされる。


「まだまだぁ!」


 さらにもう一歩前進。懐に入りアッパーカットの要領で顎を下から殴りにかかる。この攻撃に反応できないのは視えていた。だから多少無理してでもぶちかます価値があった。


「ぐっ!」


 顎を打たれたお父さんは一瞬よろけ、即座に袈裟斬りで切り返してきた。私は木剣を盾にしてなんとか直撃を免れ、全身のバネを使って再び距離を取る。強敵相手にヒットアンドアウェイは定石と言えよう。


「いてて……真剣なら今ので死んでたかもしれんな」


「さする程度にしかダメージを与えられてないならどっちでも変わらないよ」


 手応えのわりに効いてないのはステータスの差ゆえか。《鑑定眼・剣》で確認するとお父さんの【体力】は93から89に減っていた。


 私の【攻撃力】が18、お父さんの【防御力】が23。


 急所に当たったので【攻撃力】が1.5倍され27。


 27-23で4ダメージ。


《鑑定眼・剣》によるとそういう計算になるらしい。ダメージの内訳まで見せてくれるとか相変わらず高性能すぎるわ、このユニークスキル。


 とはいえ、未来視を使った上に相手が油断した状態でも4ダメージしか削れないのは最早負けイベだな。私じゃなかったら心が折れてるぞ?


『楽しそうだな、ライカ』


 クロウが私にしか聞こえない声で言った。ああ、楽しいとも。こんなに楽しいのは生まれて初めてだ。全身の細胞が悦んでいる。もっと戦えと魂が叫んでいる!


「そろそろお父さんからも攻撃してきてよ」


「そうする他なさそうだ」


 攻めのクオリティは理解した。ならば次は守りだ。格上のお父さん相手に私がどこまで守り切れるか確かめたい。好奇心と探究心、そして溢れる戦闘本能に従い私は剣を構えた。


「気合い入れろよ。──ぜぇあっ!!」


 は、


「っぅ!?」


 やい。


 速い。速すぎる。未来視を使っていたのにまるで動きが見えなかった。防げたのは奇跡に等しい。腕の痺れがなければ現実を疑っていたところだ。


「マ、マジか。結構本気だったんだが」


 お父さんは驚愕していた。


 だが〝結構〟という言葉を使うのだからまだ上があるのだろう。


 私は木剣を支えにしてなんとか立っていられる状態だ。今のより速いのがきたら今度こそ保たない。


 二度目の奇跡はなく、私の脆弱なステータスはたったの一撃で粉砕される。


「まあこれで勝負は決まりだな。魔物狩りは来年までお預けだ」


「……ダメだ」


 それはダメだ。


 私はもっと強くなるんだ。


「──今だ」


 今、勝ちたい。


 勝ちたい。


 勝ちたい。


 勝ちたい。


「私は今! お父さんに勝ちたい!!」


 これまでにない感情の発露。私は真に生の実感を得る。


 いつもどこか冷めていた。煮え切らなかった。本気になれていなかった。負けた悔しさに泣いたことも、こんなふうに勝ちたいと叫んだこともなかった。


 私は剣が大好きだ。だから誰にも負けたくない。


 それを今この瞬間はっきりと自覚した。


 たとえば恋に落ちたのをきっかけに灰色だった景色が一気に色づいたと表現する場合がある。


 同様に、己が真意を掴んだ私の視界には一つの変化が表れた。


 草木の揺らぎや人の動きといった景色の流れが突然スローモーションになったのだ。


 いわゆる高速思考による体感時間の遅滞。


 未来視も健在。


 私の気持ちに呼応して《鑑定眼・剣》は新たな能力に目覚めたらしい。


 これならいける。お父さんに勝てるかもしれない!


「うおおおおぉぉぉぉっっ!!」


 進化した《鑑定眼・剣》の未来視と高速思考によって活路を見出した私は、腹の底から剣気を搾り出し、余すことなく手元に集めた(・・・)。集約された剣気はさらに木剣へと伝わり私の両手と木剣をひとまとめに包み込む。


 理由はわからないが、勝ちたいならこうするべきだという直感が働いたのだ。


「……!」


 守りを固めた私を前にお父さんは顔色を変えた。完全に父親としての色を完全に失い、私と同じく勝利を渇望する剣士の顔つきになった。


 ゆっくりと木剣を肩に担ぎ、両足を踏み締めて突進の構えを取る。すると、この土壇場で新たな力を得た私が思わず怯んでしまいそうなほどの剣気を発した。ありとあらゆる筋肉が一秒後の爆発に備えて今か今かと脈打っている。


 ここから先に言葉は要らない。お父さんが攻撃し、私が防御する。たった一度のやりとりで全てが決まる。


 ほんのわずかな予備動作のあと、お父さんは上半身をやや前のめりにして低く跳ぶ。高速思考の中にいるのに一瞬でお父さんの姿が目の前にくる。おそらくさっきよりも速い。未来視がなければこの時点で詰んでいただろう。


 これがお父さんの本気か。娘の私に対して正真正銘の本気を出してくれたんだ。私は嬉しくなり、ならば応えてみせようと木剣を握り込んだ。


 お父さんの木剣が真上から垂直に振り下ろされる。剣士としての本能が反応し、私は剣を水平に構える。


 ぶつかり合った二つの木剣が十字を描き、剣気が炸裂して放射状に周囲を薙ぎ払う。


「くっ……!」


 全身がぶっ壊れそうだ。未来視と高速思考で完璧にタイミングを合わせたのに相殺できない。パリィとかないのかよこの世界は!


「ぁぁああああ!!」


 ないなら強引にやっちまえ──絶妙な加減で剣を傾け、お父さんの剣戟を地面方向に受け流す。その際、身体への負荷がさらに増して卒倒しかけるが根性で持ち堪える。


 体重をかければ支えを失ったときそれだけ不安定になる。大人と子供の体格差、縦に振るわれた剣の軌道、二つの要素によって条件はクリアしている。お父さんの大きな体がぐらりとよろけた。


 未来視はその先の攻撃を読んでいない。


 つまり、あと一手で私の剣はお父さんに届く。


「がぁああっ!」


 がむしゃらに突き出した。


 切っ先に全ての剣気を集中させた。


 空を破り、お父さんの胸を打たんとする一撃は──


「そこまでだ」


 しかし、お父さんに素手で止められてしまった。


 もう動くとはできそうにない。


 届かなかった、のか……。


「く、そ」


 全身の力が抜ける。


 どうやら心身共に限界らしい。


 私は剣を握ったまま倒れ、そして眠りに落ちた。

【簡易メモ】


 ユニークスキル《鑑定眼・剣》の効果一覧

「剣カテゴリーに限り、全ての情報を理解できる」

①能力看破

「対象が剣士の場合のみステータスを閲覧できる」

②未来視

「相手の剣筋を鑑定することで理解度が高まり、次の一手を視覚的に捉えられる」

③高速思考

「剣を装備している場合のみ、戦闘の流れを鑑定することで理解度が高まり、体感時間を遅滞させる」

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