表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の剣姫 〜異世界転生したので世界最強を目指します〜  作者: 阿東ぼん
第一章 故郷〈ノホルン〉での修行編
5/37

ライカは剣の道を歩み始めた!

「それじゃあ今日から剣の稽古を始めていくぞ!」


「うん!!」


 翌朝、朝食を最高速で終えた私はお父さんを外に引っ張り出して稽古をせがんだ。お父さんもやる気だったらしく、家の前にはすでに稽古用の木剣が用意されていた。


「いきなり真剣を持つのは危ないから最初はこれを使う。まずは素振りだ。上から下にまっすぐ振り下ろしてみろ」


『素振りなら俺でもよくねぇ?』


 私の腰元で〈名無しの魔剣〉が訴えてきた。彼はこれからずっと一緒に戦う相棒なので、私は彼を常に装備すると昨晩のうちに決めたのである。錆だらけの刀身を持つ〈名無しの魔剣〉はダンゴさんが作ってくれた鞘に納めてあり、鞘は地面に先端が触れないようほとんど水平に取り付けてある。


「がんばる!」


 騒ぎになると面倒なので今のところお父さんの前で〈名無しの魔剣〉と会話するつもりはない。出番がほしいと嘆く彼を無視して私は木剣を振り上げる。子供用に調整されているが慣れない重みに身体がぐらついた。全身に力を込めて姿勢を正し、重みがそのまま威力に変わることを意識して振り下ろす。


 ブゥン!


 空気を引き裂く音がなんとも心地よい。これはクセになっちゃうな! いつまでも続けられそうだ。


「おー、さすが未来の〈剣神〉だ。なかなか筋がいいじゃないか」


「ほんと?」


 正真正銘ガチの初めてだから経験者にそう言ってもらえると自信になる。


「しばらくは今の振り下ろしを練習していこう。少しでも振りが雑になったと感じたら辞めるんだぞ」


「わかった!」


 テキトーに数をこなすだけじゃダメってことだ。一振り一振りに全身全霊をかけよう。効率のいい振り方とか力を入れたり抜いたりするタイミングとか色々研究することもある。何事も基本が大事なんだよね。


 私は最大限まで集中力を高めて木剣を振り上げ、今の自分が最高だと思えるやり方で振り下ろした。ビュゥン! と風が鳴いて嬉しくなる。気持ちいい! もう一回だ!


「はっ!!」


 ビュン! 今度はより鋭く振り下ろせた。でも振り終えたときに身体がぐらついてしまった。これはダメだな。いかに速く振れようと次の行動に繋がらなければ負けてしまう。


「う〜……上手く振れない」


「それはまだ身体が出来上がってないからだ。いくらすごい才能があってもいきなり会心の一振りに至れるわけじゃない。剣士の身体を完成させるには長い時間をかける必要がある」


「魔物と戦えるようになるのにどれくらいかかるかな?」


「それはライカ次第だ。この辺りの魔物ははっきり言って弱い。でも魔物は戦いになれば死ぬ気で襲ってくる。俺が安全だと思えるまでは素振りと打ち合いしか許さん」


「打ち合いもしてみたい!」


「素振りを完成させたらいいぞ」


「よーっし!」


 私は気合いを入れ直した。お父さんが厳しいのはそれだけ私に対して本気でいてくれてるってことだ。お父さんがつい認めてしまうような会心の一振りを必ず身につけてやる!


「うおおぉっ!」


 ブンッ! お、いい感じ?


「足幅が少し狭いかな。それと持ち手の間隔も広げて……そう、あとは脇の下に空間があることを意識しながら振ってみろ」


 と思ったらメッタメタにダメ出しされました。はい、言う通りにします。


「はぁっ!」


 ヒュバッ! ──おお〜、なるほどこういう感じか! 確かに違うわ! さっきまでの振り方はだいぶ窮屈だったんだ。だから余計な力が入ってしまい思ったよりも速度が出ないし次の動きにも繋がらない。やっぱり指導者がいるのといないのとではかなり差があるのね!


「うむ……少しのアドバイスでこうも変わるか。やはり並大抵の才能じゃないな」


 お父さんはしばらく考え込み、


「よし、そしたら俺は基礎だけしっかり教えるとする。応用についてはライカ自身の才能が導いてくれるだろう。〈剣士〉でしかない俺が下手に教えるよりはいいはずだ」


 そう結論を出した。


 無理に師匠ぶらないあたりやっぱりいいお父さんだなぁ。


「お父さん、私がんばるね!」


「おう! おまえがどれほどの剣士になるか、俺も楽しみにしてるぜ!」


 それからお父さんが狩りに出かけるまで素振りをしっかり見てもらった。お父さんがいなくなったあとも私は木剣を振り続けた。


 気がついたらお昼になっていて、いつまで経っても家に入ってこない私を心配したお母さんに連れ戻されて昼食を食べたあと、私は再び素振りに没頭する。


 そしてまた気づいたら夕方になっていて、今度は狩りから戻ってきたお父さんの手によって家に戻された。夕食のあとに素振りに行こうと思ったら止められてしまった。残念だ。


 素振りって楽しいんだね。今日一日やってわかったが、没頭するあまり時間の進み方を正確に把握できなくなる。一種のトランス状態というやつか? 頭の中が剣を振ることだけで埋め尽くされて疲労も空腹も感じないのだ。手はマメが潰れて血まみれになっていたが、素振りしている途中はまったく痛みがなく、ご飯を食べている最中に気づいて悲鳴をあげた。若いからか筋肉痛がくるのも早かった。


 腰に携えた〈名無しの魔剣〉を枕元に置き、満身創痍になった身体に鞭を打ってどうにかベッドに入る。こんなに疲れたのは前世も含めて人生初だ。ランプを消したがそんな動作ですら全身が痛い。


『おいおい大丈夫か? 初日から随分トばしてたな』


 私を労わる〈名無しの魔剣〉の声に思わず笑みが浮かぶ。なんだか秘密の親友みたいで楽しい。


「明日は動けないかも。素振り、楽しすぎ」


『すごい集中力だったよな。俺も何度か声をかけたんだがまるで気づかれなかった。まあ無視されるのには慣れてるからいいんだが』


 大して傷ついている様子でもないので本当にそうなのだろう。


「ごめんごめん。あ、そういえば名前考えてなかったね」


『魔剣において名前ってのは成長方針を決める大事な要素だ。ゆっくり考えてくれて構わねぇよ』


「ありがとう。ところであなたはどんな魔剣になりたいの?」


『とにかく最強になりたいってだけだから具体的なことはなんにも考えてねぇな。あんたが思う最強の能力がつくような名前でいい』


「私が思う最強か……」


 最強とは何か?


 字面を見れば最も強いことであるのは確かだ。


 しかし、何をもって最強とするかは条件や状況によってかなり違ってくる。


 最強の定義が近接戦闘のみとするならばあらゆる剣の中で最も攻撃力の高い剣が最強となるだろうし、魔法を使う場合は魔力や知力のステータスが著しく上昇するものが最強になりうるだろう。


 私が思う最強。


〈名無しの魔剣〉の名前を決める前に、まずそれを定義しなくては。


 思案を巡らせているうちに強烈な眠気が襲ってくる。疲れきった五歳の身体に頭脳労働は過酷だったようだ。


 夢と現実が入り混じる朧げな意識の中、私は最強とはなんたるかを突き詰めて考える。


 最強とは、無限に成長し続けることではないだろうか?


 たとえ世界最強の攻撃力を持った魔剣になろうと、成長が止まってしまえばそれ以上強くなることはない。いつか同じ道を辿る他の魔剣に追い抜かされるかもしれない。もしそうなったら、その魔剣は最強ではなくなってしまう。


 最強で在り続けたいなら成長を終わらせてはいけない。


 終わりがないことが最強である。


 夢と現実の狭間で。


 私は最強という言葉の意味をそう定義した。


 ならば、その名前は。


 成長(Grow)繰り返し(Re)、最強という栄光(Gloly)に至る魔剣。


「〈魔剣グロウリー〉……」


 夢に落ちる寸前、私は私が思う最強の名前を口にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ