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黒の剣姫 〜異世界転生したので世界最強を目指します〜  作者: 阿東ぼん
第二章 伯爵の町〈フォーン〉での闘技大会編
29/37

ライカはレティシエントの核心に迫った!

話の展開に不備があると指摘され、その自覚もあったため、前ページのラストあたりから書き直しました。

せっかくいただいた〝いいね〟等が消えるのは心苦しかったですが、清算の意味も込めて新たに投稿し直します。

今後ともお付き合い頂ければ幸いでございます。

いつも読んでくださって、本当にありがとう。

これからもよろしくお願い致します。

 私は彼女を踏みつけながら待った。


 立ち上がるも良し。音を上げるも良し。どんな選択でもいい。だがそれは本人が選んでこそ意味を成す。ゆえの待機だ。


「……………………」


「死んだ?」


「……………………」


「おーい」


「……………………」


「チッ」


 だんまりか。


 ま、無理もない。ご自慢の《飛竜剣技》は通用せず、父親には助けてもらえず、フォーン親子が掲げる〝弱さは罪〟という思想のもと、どんな目に遭おうと結局は弱いのが悪いという話に落ち着くので、必要以上に痛めつけてくる私を糾弾することもできない。抵抗する気力を失う理由としては十分だろう。


 ただ、意識はあるようなので試合はまだ続いている状態だ。なので降参するか気絶するか、もしくは第三者の介入があるまでは、私は攻撃の手を休めるつもりはない。


 沈黙を貫くレティシエントから足を離し、しばしの間を置く。すると、フォーン伯爵がほっとしたように安堵の笑みを浮かべる。


 私はそれを確認してから、レティシエントの側頭部を全力で蹴り飛ばした。


「なっ!?」


「助けたければいつでも助けて構いませんよ。ただし、あなたたちの思想の崩壊と引き換えにね」


 これが最後通告だ。もうこちらからの催促はしない。


「っ……ぁあ、あ……」


「ほら、立てよ。剣を手放さないってことはまだやる気なんだろ」


 こめかみを押さえてうずくまるレティシエントに発破をかけ、剣を構え直す。


「ふっ、ふ……う、うぁああ、あ……!」


 レティシエントは震える手で地面を掴み、産まれたての子鹿のような緩慢さでどうにか身体を起き上がらせると、怒りと憎しみに満ちた眼で睨みつけてきた。


「このッ……このぉオッ!」


「言いたいことがあるなら言えば? アルセラにやったみたいにさ。心無い言葉で傷つけてみろよ。百億倍にして返してやるから」


「言わせておけば!」


 斬りかかってきたので鍔迫り合いに応じる。


「お父様は悪くない! お父様は間違ってない!」


「それで自分が傷つこうとも?」


「わたくしが勝てば全部丸く収まりますわ! はぁああっ!」


 咆哮をあげて押してくるも、レティシエントの力はまったく足りておらず、私の身体は少しも退がらない。


「だったらまず《飛竜剣技》へのこだわりを捨てたほうがいいと思うけど」


「嫌です! わたくしはこの剣で勝ちますの! そうしないと、お父様の正しさを証明できない!」


「つまり負けたらフォーン伯爵の育て方が間違っていたと認めるのね?」


「うっ……!?」


 言葉に詰まる。墓穴を掘ったな。


「でも……それでも、わたくしは──!」


「気持ちだけで強くなれるなら修行なんかいらないんだよ」


 逆に私が強く押すと、レティシエントはそれだけで後ろに数歩退がった。その足取りはふらふらと頼りなく、転ばないのが不思議なくらいだ。かろうじて持ち堪え、剣を構えようとするが、もはや剣先が上がらない。剣を下げたまま私を睨みつけるのが精一杯といった具合だ。


「もったいないなぁ」


 やれやれ、と首を振る。


 そして縮地もどき。レティシエントの横に移動し、剣道で言うところの小手を叩き込む。銀色の籠手が砕け、大剣を落としたところで顔面にハイキック。通常よりも頭が低い位置にあったので楽だった。


 脳を揺らされたレティシエントは今日何度目かのダウンを味わう。でも気絶はしないように手加減(足加減?)はしておいた。


 ……のだが、今ので終わらせておけばよかったと少し後悔した。


 理由は単純。飽きてきたのだ。


 元より拷問は趣味じゃないし、概ね目的は達成した。これならアルセラの回復を待ってそちらと戦ったほうが楽しそうだ。


 よぅし、レティシエントにも最後通告をしよう。


「ねぇ、そろそろ本気を出さないとホントに死んじゃうかもよ? いい加減、身も心も限界だよね?」


 レティシエントが虚ろな目で私を見ている。その奥にはわずかに残った戦意が隠されている。


「勘違いしないでほしいんだけど、私が戦いたいのは《飛竜剣技》の使い手で〈剣聖〉だったっていうあんたのお母さんの劣化コピーじゃないんだ。私が興味を持ったのはあんたが隠している真の実力だけ。それを見せてくれないってんならもう用はないんだけど、まだ意地を張る?」


 レティシエントが手を伸ばす。指先は大剣のほうを向いている。待ってあげてもいいが……熟考の末、私は大剣を後方に蹴り飛ばすことにした。


「イエスかノーか、はっきりしてよ。答え次第で終わらせるから」


 目標を失ったレティシエントの手が空中をさまよい、やがて緩く握り締められた。そうして出来上がった不完全な拳は上体を起こす杖となり、満身創痍のレティシエントを立ち上がらせる。


「ま、だ……おわって……ません、わ……」


 どう見ても無理です。本当にありがとうございました。


「その頑固さだけは評価する」


 そして、さようなら。


 答えはノーってことだよね。


 残念だよ。


 私は彼女への期待を破却した。


 そして、トドメを刺すべく剣を掲げ、


「っ、……へぇ」


 背後からの殺気に振り向き、急遽防御体勢に移行する。


 直後、叩きつけられる凄まじい衝撃。ガードは間に合ったはずなのに痛みが肩まで突き抜ける。生半可な研鑽ではこの威力を出すことはできない。新たな強敵の出現に思わずにやけてしまう。


「来るのが遅すぎませんか? フォーン伯爵」


 眼前には鬼の形相。私が蹴り飛ばしたレティシエントの大剣をフォーン伯爵が握っていた。


「それ以上、娘に触れてみろ。四肢を切断して魔物の餌にしてくれる」


「おお、怖い。ですが私に罪はありませんよ。〝弱さは罪〟なのですから、私より弱かったレティシエント様が悪いのです。このように怒りをぶつけられるのは筋違いではないでしょうか?」


「黙れ! そんなことはどうでもいい(・・・・・・)のだ!」


 ついに認めたか。判断が遅かったな。


「試合は貴様の勝ちでいい。だがこのままでは腹の虫が納まらん! 今だけは伯爵の地位を捨て、一人の父親として、貴様のような悪魔を成敗してくれる! 覚悟するがいいッ!」


 あ、そういうこと言っちゃうんだ。勝手な理屈で人に無礼な態度を取って、弱っているところに残酷な真実を突きつけて、それが正しいことだと主張してきたくせに。いざ自分たちがやられる側になったらあっさり被害者ヅラするんだ。ふぅん。


 ふざけんなブチ殺すぞクソ老害。


「あんたが言えた義理じゃねぇだろうがぁぁぁあ!!」


 消えかけの灯火に特大の油をぶっかけられ、私は怒りが生む灼熱を全身に駆け巡らせた。それは気の源であり、私の力をさらに高める。


「ぐぬぅ……! な、なんという……!」


「勝手すぎるんだよ!」


 私とフォーン伯爵の鍔迫り合いは拮抗していた。フォーン伯爵もなんらかの方法で身体能力を上げているのだろうが、それを考察するほどの冷静さはなかった。そして、言葉を選ぶ余裕も。


「ヴァンキッシュ領を見捨てたのも、さっきレティシエントを助けなかったのも、全部あんたの都合だろ! その結果を受け止めることもできないで何が父親だ! 無責任にもほどがある! 娘に対して恥ずかしくないのか!」


「だからこうして助けに来たのだ! 父親として!」


「父親として? あんたの言う父親ってのは、嫌がる娘に無理やり剣を持たせ、母親のコピーになることを強いて、自分も他人も傷つける愚かな思想を植えつけ、あまつさえそれが間違いではないと証明するために娘が苦しんでてもほったらかすクズのことか!? 父親だってんなら……大人だってんなら──! 少しは自分を省みたらどうなんだ、あァ!?」


「く、ぐぅ──……!?」


 フォーン伯爵は言い返せない。言い返せるはずがない。私が言ったことは至極真っ当な正論だ。下手に反論してもそれは単なる我儘になってしまう。


 そうして私はフォーン伯爵を押し返し、鍔迫り合いに終止符を打った。気勢の差が力の差となって表れていた。


「おのれ……まさかこの私が腕力で負けるとは……」


「まずは自分の犯した過ちを認めろっつうの。それが先にこなきゃ話になりませんよ、まったく」


 具体的に言えばレティシエントとアルセラに謝ることなんだけど、そこまで教えてやらなきゃいけないほど馬鹿じゃないよね、たぶん。


「わ、私は……うっ……!」


 大量の冷や汗をかき、ゼェハァと苦しそうに肩で息をしながら、服にしわができることも厭わず胸倉を掴むフォーン伯爵。剣を握るのは久しぶりだったのだろうか。異様な疲れ具合だ。


「がぁあああっっ!!」


「っ!?」


 のんきに観察していると、いつの間にか起き上がっていたレティシエントが倒れるように飛びついてきた。力を出し切ったばかりだったのと不意打ちだったのとで反応しきれず、レティシエントにマウントを取られる。


「お父様をッ! 悪くッ! 言うなッ!」


 言葉の区切りで殴ってくる。しかし、もはや防がずともよかった。ノーガードの私に痛いと思わせる力さえレティシエントには残されてなかった。


 ……哀れだな。


 そして、不思議だ。


 私は四発目のパンチを片手で止める。


「ねぇ、なんでそこまで庇おうとするの?」


 素朴な疑問。皮肉、挑発、煽りの意味を込めたつもりはない。本当に理解できないだけだ。剣士としての興味はすでに失ったが、一人の子供としては気になったから聞いてみた。


「子が親を想うことに理由なんていりませんわ!」


 シンプルな答え。ますますわからず、私は渋面になる。


「さらっとすごいこと言うね。でも、そのセリフは本来親から子に向けて使われるべきものでしょ。子供のあんたが言うにはちょっと背伸びしすぎている感じがする」


 理屈はわかる。だが、幼い子供が自分を押し殺してまで父親を庇う理由としては不十分に思える。


「本音は別のところにあるんじゃないの?」


「──ッ! う、うるさい! 何も知らないくせに見透かしたような口を聞かないで!」


「図星か。わかりやすい」


 私自身の洞察力もあるのだろうが、誤魔化しているのが丸分かりだ。やっぱり子供だね。


 そろそろ背中を地面につけているのが嫌になってきた。私は勢いをつけて跳ね起き、私にまたがるレティシエントを振り落とす。私の代わりに寝そべったレティシエントはいよいよ立ち上がることすらできなくなったらしく、掠れた呼吸音を鳴らすだけの存在になっていた。


 髪と服に付いた砂埃を簡単に手で払い、干からびたミミズみたいになっているレティシエントの傍らにしゃがみ込む。


 んじゃ、正真正銘最後の取引といこうか。


「聞かせてよ、あんたの本音。それで全部チャラにしてあげる」


 心の内を明かすだけでいい。それだけでこの地獄のような時間が終わる。


 レティシエントはかすかに身体をこわばらせたあと、溶けるように脱力していった。


「わたくしは──……」


 ここまで食い下がってきたレティシエントもこの誘惑には耐えられなかったようだ。息を整え、語り始める準備をしている。よくがんばったね。ライカおねーさんが褒めてあげよう。痛めつけたのも私だけど。


 ふと気配を感じ、周囲を見渡すと、セバスさんがフォーン伯爵に寄り添い、騎士団長さんをはじめとする大会スタッフの面々が私を取り囲んでいた。武器を構えて、私を捕縛する気マンマンだ。もしかしたら殺すつもりの人もいるかも。フォーン伯爵が乱入した上で倒れてしまい、さすがに黙っているわけにはいかなくなったのだろう。


 うん、邪魔。やるならレティシエントの話を聞いた後にしてほしいな。


 そう思って『神威』を全方向に放つと、私に向けられていた殺気がわずかに弱まった。そして、動揺が広がる中、なんとフォーン伯爵が片手を挙げる動作で騎士たちをさらに制した。


 彼も娘の本音が気になるらしい。って、そりゃそうか。


 かくしてその場にいた全員が聞く体勢に入った。


 さあ、答え合わせの時間だ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 剣に狂ってると言う割に剣に狂ってないし、 武に純粋な割に強さに酔ってイキリ散らしてるし、 試合を楽しみにしてた割に試合をせずに嬲りモノにしてるし、 中身が大人の割に残念なくらいキッズだ…
[一言] なるほど そう来ましたか こちらの方がどっちかと言うとライカさんに合ってるような気がします 作者でもない私が言うことでもありませんが ライカさん投獄されないですかね..剣が握れない
[良い点] 元の展開より良い、やっぱりレティシエントはちゃんと負けなきゃ、ちゃんと謝ってなきゃいけない
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