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黒の剣姫 〜異世界転生したので世界最強を目指します〜  作者: 阿東ぼん
第二章 伯爵の町〈フォーン〉での闘技大会編
22/37

ライカは本選での対戦相手が決まった!

『え──……』


 何が起こったのか。


 レティシエントが何をしたのか。


 それは私が反芻するまでもなく、コニマちゃんが音響魔法を通じて会場全体に説明してくれる。


『……失礼。私としたことがあまりの衝撃に言葉を失ってしまいました。ですが、これは予想を遥かに上回る結果でした! レティシエント様は試合開始と同時にどこからともなく剣を召喚しました。そう、今彼女が携えている大剣がそれです! フォーン伯爵家の家宝でしょうか? 素人ながらすごい業物のように思えます』


 コニマちゃんは荒くなった息遣いを整えて、


『他の参加者が中央に向かって走り出す中、レティシエント様はその場から動きませんでした。そして密集地帯と化した中央に向けて剣を、たった一度、たった一度です、まるで団扇で扇ぐかのごとく軽々と振り払いました。すると衝撃波が巻き起こり他の参加者を一網打尽にしました!』


 会場がざわめきを取り戻す。観客たちも徐々に理解が追いついてきたようだ。


『私の見間違いでなければ、あの技は《飛竜剣技》のスキルを用いた戦技の一つ、『竜墜刃』です! 《飛竜剣技》の創始者たる剣士が飛竜を墜落()とすために編み出したという、あの……! まさかいきなりナマで見られるなんて! レティシエント様のファンからしてみればたまらない一瞬だったでしょう! もちろん私ことコニマちゃんもです!』


 ざわめきは勢いを増し、どこからかレティシエントコールが始まった。それは加速度的な広まりを見せ、やがて会場全体を揺り動かす。


『あらためて言いましょう! レティシエント様はその場から一歩も動かず、たった一度の攻撃で、一瞬のうちに勝負を決めました! これはもはや疑いようもない! ライカ選手やアルセラ選手以上のパフォーマンスです! 第三予選の勝者は『金色の竜王妃』──レティシエント・マリー・フォーン選手に決定です!』


 そしてコニマちゃんの勝利宣告をきっかけに、今大会最大の歓声が巻き起こった。


「大剣使いだったんだ。アルセラ、どう思う?」


 私はレティシエントから目を離さずに隣人に問うた。


「見た目は派手ですが威力は大したことありません。それより──」


「あのカリスマ性がヤバい?」


「はい」


 短く肯定される。


「こういうアウェイな空気を作られるとかなり戦いにくくなります。観客を味方につけるという点では間違いなく私たちより上ですね」


「だよねぇ」


 レティシエントは完全に観客の心を掴んでいる。つまり、彼女と戦う者は自ずと観客とは対立することになる。


 場の空気がもたらす力というものは意外と侮れないものだ。どんなに気にしまいとしても自分が悪役(ヒール)だと感じれば人間は多少なりとも萎縮してしまう。純粋な力比べがしたい私にとっても邪魔な力だ。


 しかし、それはどうあっても抑えられないだろう。アルセラがアイドルなら、レティシエントはスターだ。生まれながらに持つ人を惹きつける能力が段違いに高い。まさに天賦の才と言えよう。


 私は基本性能とシンプルな剣の技量。


 アルセラは判断力と攻撃のバリエーション。


 レティシエントはカリスマ性。


 それぞれの抜きん出た特徴の他、武器の性能、戦闘スタイルの相性、会場の雰囲気、あらゆる要素を考慮すると誰が勝ってもおかしくない。


 しかも本選はトーナメント方式だ。できれば総当たり戦であってほしかった。せっかくの大舞台なのに、私はアルセラとレティシエントのどちらかとしか戦えない可能性があるのだ。それでもしアルセラが一回戦でレティシエントと当たって負けたら──。


「アルセラ。もし私と当たらなくても、いい試合を見せてくれたら約束は守るから」


「ふふ、そういうライカが情けない試合を見せたら協力はお断りしますからね? 危険な場所に足手まといは連れて行きたくありません」


「っと、悪いね」


 気遣ったつもりが、こりゃ一本取られたか。ヴァンキッシュ領奪還作戦への参加はほぼ決まりだな。


「でも、ありえなくはないです。レティシエント様もまだまだまだ力を隠しているでしょうし」


「スキル《飛竜剣技》の戦技『竜墜刃』だっけ? 飛ぶ斬撃って初めて見たからちょっとかっこいいって思っちゃったよ。あれ、私にもできるかな?」


「どうですかね……。無理ではないんじゃないですか?」


「私、そのへんのことあんまり詳しくないんだよね。スキルってそもそもどんなものなの? 村にあった本だと感覚的なことしか書いてなくて」


 ここはアルセラ先生にご教授願いたい。


 アルセラは頼られたことが嬉しかったのか、少し得意げな表情で教えてくれた。


「スキルとはいわば技のレシピ集です。スキルがあれば使ったことのない技でも自在に使いこなすことができます。また、武器を介したスキルの使用を戦技、武器を介さないスキルの使用を魔法と呼びます」


「ふむふむ」


 たとえば『竜墜刃』は大剣を介して《飛竜剣技》を使った技だ。なので戦技に分類される。で、もしレティシエントが無手で《飛竜剣技》を使った場合、そちらは魔法に分類される、と。


「スキルなしでも戦技と魔法は使えますがオリジナルの威力を再現することは不可能に近いとされています。まったく知らない料理をレシピ抜きで作るようなものですからね。習得できたとしても一生を費やすことになるだろうというのが通説です。また、スキルにはジョブとの相性もあるらしいですよ」


 確か女神様が言ってたな、そんなこと。魔法剣士は『気功剣技』と相性が悪いんだっけか。


 それで言うと《四元使い》を持つアルセラは『気功剣技』を習得できず、『気功剣技』を修めた私には魔法の適性がないということになる。


 魔力と気。二つの異なるエネルギーを同時にコントロールするのは至難の業なのかもしれない。


 でも、もしこの二つを完璧にコントロールし融合させることができれば……。


 うわー、夢があるなぁ! ロマンだ、ロマン!


「ジョブの派生も戦い方によって変わるんです。ライカはまだ〈剣士〉でしたよね? だったら次は〈剣客〉になると思います。同じカテゴリーへの派生なのでこれを同種派生と言い、私は双剣を使い続けた結果〈剣士〉から〈双剣士〉という別のカテゴリーへ派生しましたので、こちらは亜種派生と言います。どこまで派生できるかは……まあ才能次第です」


「普通の人はそこで限界を決めつけちゃうんだね」


「努力で補える範囲もありますが基本的にジョブの上限は変えられませんから。──続きはまた今度にしましょうか。レティシエント様がこっちを見てますよ」


「ほんとだ。めっちゃドヤ顔してる」


『わたくしの実力はいかがでした?』とでも言いたそうだ。こういうところは子供らしくて可愛げがあるな。よし、笑顔で手を振り返してやろう。メリーゴーランドに乗る子供に対して親がするように。


 あ、怒っちゃった。


「なんでそうなるんですか」


「あの子、からかい甲斐があるからさー」


 いざこざが終わったら友達になりたいな。アルセラに続く2号ちゃんだ。三人で集まればきっと楽しい。思う存分斬り合ったり剣について語り合ったりしたい。


 でも、今のレティシエントは剣を振ることよりも父親の思想の体現者であることを優先している。


「……もったいないなぁ」


 強さへの執着に目がくらみ、剣への愛が見えていない。私はそう思う。それが私とレティシエントの決定的な差だ。だから勝てるという確信がある。そして、あの親子を打ち砕く理由である。


 逆に、もしフォーン伯爵が無理やり剣を持たせるようなことをせず、自由気ままに育てていたとしたら、私は自分の勝利を信じきれなかっただろう。彼女は放っておいても勝手に強くなったはずだ。いかに強烈な使命感があろうと、剣への愛なくしてあれほどの剣気を持つには至らないのだから。


「ライカ、私もいますよ」


「あはは、わかってるよ。妬かない妬かない」


 むぅ、とほっぺを膨らませるアルセラ。可愛いね。アルセラも装備か何かで基本火力を上げてきたらかなり苦戦しそうだ。そう考えるとワクワクする。


「あら? 試合が終わった途端、レティシエントが走り出したね。トイレかな」


「たぶん違うと思います」


 その答えは1分と経たずにやってきた。


「ライカぁ! さっきのあれはなんなんですの!」


 ドアを蹴破る勢いで入ってきたレティシエントは私を見るなりそう叫んだ。


「わたくしは宣言通り貴女に力を見せつけましたのよ! それをへらへら笑って手まで振って……舐めてますの!?」


「舐めてないよ。それより予選突破おめでとう」


「あら、ありがとうございます。……じゃないですわよ! 予選で一番の強さを見せたわたくしに何か言うことはございませんの!?」


 賑やかだなぁ。絶対悪人じゃないよ、この子。


「うーん、そうだね。期待外れだったかな」


「きたっ……!?」


 レティシエントは赤くなるのを通り越してむしろ青くなった。


「あんなのステータスとスキルでゴリ押ししただけじゃん。あれじゃ同格には通じないよ。アルセラのほうが遥かにいい戦いをしてた」


「ふ、ふざけるんじゃありませんわよ! アルセラなんてこそこそ逃げ回ってただけじゃない! わたくしのほうが強かったですわ! 観客の皆様だってきっとそう思ってます!」


「お言葉ですがレティシエント様、あれはあくまで乱戦向けの作戦です。正面からぶつかり合えばきっと今のようなセリフは吐けなくなりますよ」


 お、アルセラもさりげなくキレてるな。だんだんレティシエントに対する遠慮がなくなってきてる。いい傾向だ。今後もこの調子でどんどん打ち解けてほしい。


「〜〜〜〜〜っ! ああもう、そこをお退きなさい!」


 レティシエントは私とアルセラを突き飛ばすように押し分け、部屋の奥にあるソファにどかっと座ると、優雅に腕と足を組む。


「ほんっとにムカつきますわ、貴女たち!」


「第四予選は見ないの?」


「どうせ雑魚しか残っていませんもの。瞑想でもしていたほうが有意義ですわ! 試合が終わるまで話しかけないでくださいまし!」


 そう吐き捨て、精巧に作られた西洋人形みたいな顔を険しく歪めたまま、レティシエントは目を閉じた。


「なるほど、一理ある」


 アルセラやレティシエント並みに強い人がいたら気配でわかるもんな。レティシエントは運営の元締めだから情報として知っているんだろうけど。


「騎士団長さん、第四予選が早く終わったとしても本戦が始まる時間って変わらないんですか?」


「……おそらく予定通りに進むかと」


 いつのまにか部屋の隅に移動していた騎士団長に尋ねるとくぐもった小声で答えてくれた。


「そしたら私も身体動かそうかな。アルセラはどうする?」


「ぜひ一緒に! ……と言いたいところですが、そろそろ気持ちを切り替えたいです」


 アルセラは残りのポーションを一気に飲み干し、袖で乱暴に口元を拭った。


 そして、戦闘用の目つきで私を睨んでくる。


「ライカもレティシエント様も自分の勝利を疑っていないようですが、私だってやるからには負けません。言い訳は聞かないのでしっかり準備しておいてくださいね」


「あは」


 そんなこと言われたら──興奮するじゃんか。


「心配しなくてもコテンパンにしてあげるよ」


 身体に熱が入る。自分の中の狂気が目覚める。早く剣を振りたいと指が震える。


 私はクロウの柄に触れようとする右手を左手で掴んで押さえた。


 その後、第四予選が始まった。


 第四予選は私たちが早めてしまったタイムスケジュールを埋め合わせるかのように長引いた。おかげで私たち三人は結構な時間を本選に向けての調整に費やすことができた。


 全ての予選が終わったあと、本選での試合順と組み合わせを決める抽選会が開かれた。


 四人の予選通過者が試合場に並び立ち、観客が見守る中、第一から第四の順で紙のクジを引いていく。


 抽選結果はこうなった。




【第一試合】


 アルセラ・ヴァンキッシュ


 対


 レティシエント・マリー・フォーン




【第二試合】


 ライカ


 対


 ミルフィーユ




 第四予選の勝者ってあんたかよ、ミルフィーユちゃん!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ライカの狂気いいね、ドSぽい [一言] まさかのミルフィーユさん!
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