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黒の剣姫 〜異世界転生したので世界最強を目指します〜  作者: 阿東ぼん
第一章 故郷〈ノホルン〉での修行編
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リカはライカとして転生した!

 気づいたら産声をあげていた。止めようとしても止められないのは、転生した私が正真正銘の赤ちゃんだからだろう。


「う、産まれたのかっ! がんばったなぁ、アンナ! どっちだ?」


「女の子ですよ、ロディ」


 ロディという名の、部屋に飛び込んできたやたらとガタイのいい男性が私の父らしい。短く刈り込んだ茶髪と人懐っこそうな青い瞳が特徴的だ。見た目が日本人っぽくないからすぐに覚えられそうだ。


 対して産まれたばかりの私を抱いているのがアンナと呼ばれた女性。言わずもがな転生した私の母親だ。ロディよりも色素の薄い茶髪と緑がかった青い瞳はとても優しげな印象を受ける。美人というより可愛いタイプのひとだ。


「ふぉっふぉ、これでまた跡取りを作る口実ができたのう、ロディ?」


「茶化すなよ、エイダ婆!」


 暗に二人目作るのがんばれよ、と応援したのがエイダというおばあちゃんだ。小柄で白髪でいかにもって感じ。この人が私を取り上げてくれたようだ。サンキュー! ちなみにエイダばあちゃんの言葉に我が父は顔を赤らめ、母は意味深な笑みを浮かべていた。ラブラブなんだね、いいことだ。


「しかしまあ珍しい子が産まれたのう。黒髪に赤眼とは」


 ほう、どうやら私は黒髪赤眼らしい。かっこいいね!


「そういや死んだウチのじいさんが黒髪赤眼だったな。アンナ、覚えてるか?」


「ええ、ちょっと怖かったけど優しい人だったわね」


 ロディの祖父、つまり私からするとひいおじいちゃんからの隔世遺伝というわけだ。女神様が気を利かせて転生前とあまり変わらない見た目にしてくれたのかな。いつか会ったらお礼言っとこう。ところで会話からの推測になるが私の両親は幼馴染のようだ。うーん、ロマンティック。


「大きくなったらじいさんみたいなすごい剣士になったりしてな! 女の子だろうと強くなるのはいいことだ! 俺としてはそういう方向で構わんのだが、アンナはどうだ?」


「私は優しい子に育ってほしいです。強さだけでは人を傷つけてしまいますから」


「意見を合わせると強くて優しい子じゃな。それならライカという名前はどうじゃろか。〝ライ〟は稲妻のように激しく。〝カ〟は花のように優しく、あるいは火のように温かくという意味の言葉じゃ」


「お、いいんじゃないか? さすがエイダ婆は物知りだ!」


「私もその名前が素敵だと思います。私たちでは知り得ない知識をくださってありがとうございます、エイダお婆さま」


「それが仕事じゃからな、気にすることはないよ。それよりほら、その子の名前を呼んであげなさい」


「はい。──ライカ。あなたの名前はライカよ」


 満場一致の賛成。もちろん私も含めてだ。〝リカ〟から〝ライカ〟なら音がほとんど同じで違和感も少ないし、意味合いもとっても良いと思う。なんなら前の名前より気に入っちゃいそうだ。私を〝リカ〟と名付けた親とは仲が悪かったからな。


 私は慣れない身体で精いっぱい喜びを表現した。ロディもアンナも、ううん、新しいお父さんとお母さんもそれを見てすごく喜んでくれた。エイダおばあちゃんは私たち家族を見て満足げにうなずいていた。


 おはよう世界、グッドモーニングワールド、ってね。




 早く剣の道を歩みたいところだけど生後間もない赤ん坊にできることなんてほとんどないわけで、一般的に物心がつくとされる年齢になるまではこの世界〈イグナイト〉に自分を馴染ませていくよう意識した。


 最初に覚えたのは両親についてだ。


 父のロディは〈剣士〉のジョブについており、魔物や動物を狩ることで生活を営んでいる。狩人としての腕前はかなりのものだとあちこちで評判だ。人柄もよく、色んな人から頼りにされている。自慢の父って感じ。


 母のアンナはとにかく優しい。常に笑顔を絶やさずふんわりした雰囲気で家庭を温めてくれる。あと料理が上手い。エプロン姿が可愛い。体格は結構小さめで、大柄なロディと並ぶと大人と子供くらいの差がある。ジョブは〈魔法使い〉らしいがその道を歩むことはしなかったそうだ。単純に興味がなかったらしい。


 次に私が産まれた村について。


 ここは〈ノホルン〉というのどかな村だった。名前からしてのほほんとしてるな。まあイメージ通りの田舎だ。歩けば畑か牧場が目に入り、村人全員が顔見知りで、村の周辺にいるモンスターも弱いのばっかり。遊び盛りな若者からすればノホルン村での生活は退屈なことこの上ないだろう。だからこそ私の両親は「若いのに村に残ってくれたから」と愛され、私もたくさん可愛がってもらっている。


 村人はほとんど茶髪に青い瞳で、私のような黒髪赤眼は珍しかった。色合いだけで言えばひとりぼっちだ。だけど差別されたりいじめられたりすることはなかった。人は理解できないものや異質なものを排除したがるが、ノホルン村の住人はそういった悪意とは縁がないようだ。


 さて、私は今日五度目の誕生日を迎える。ロディのことをお父さん、アンナのことをお母さんと自然に呼べるようになり、私はすっかり〝リカ〟から〝ライカ〟になった。生前の記憶を持ったまま幼女として過ごすのにはやや抵抗もあったが、人っていうのは不思議なもので周りがそういうふうに扱うと自ずとそれに合わせた性格になるのだ。


 ロディとアンナの娘〝ライカ〟として数年育てられた私は今では間違いなくこの世界の住人であり、〝リカ〟はもう私の知識の中だけの存在となったってわけ。


 生前に比べてすごく穏やかな環境で育てられてきたと思う。そりゃあ〝リカ〟より〝ライカ〟を優先したくなるってものよ。本質の性格は全然変わってないけど。


 ところで肝心の剣の道についてだが、私はまだ生まれてから一度も刃物を手にしたことはない。しかし、剣への愛はまったく冷めておらず、自分でも呆れるほどだ。お父さんが狩りに出かけるとき持ってくロングソードが気になってしゃーない。


 私にもくれ。


 という意思を子供らしく伝えたところ、五歳になるまではダメだと言われたので大人しく引き下がったのが一年前。お父さんが約束を忘れていなければ今日の誕生日プレゼントで念願の剣が手に入るはずだ。もうね、楽しみで楽しみで昨日は全然眠れなかったんだよ。日付変わる頃には寝落ちしてたけど。


 丸一年のお預けをくらい待望の日を迎えた私はいつも以上に緊張し、何から何までろくに手がつかない状態だった。


 そして、朝食を食べたあと、お父さんが満を辞して言った。


「誕生日おめでとうライカ。去年約束した通りおまえに剣を与えようと思う」


「やったぁぁぁーーー!!」


 子供ってのは自制が効かないものでねぇ! 嬉しさの余り椅子の上で踊り始めちゃったよ! あははは! やった、ついに手に入るんだ! ついに始まるんだ、私の剣への道が! うおおおおおおっ!!


「よかったわね、ライカ。でも扱いには十分気をつけるのよ?」


「うん! わかってるよ、お母さん!」


「ジョブの選定も一緒にやるから町に行くぞ。支度しておいで」


「はーい!」


 人生最速で支度を終え、私はお父さんと馬で最寄りの町〈スタッド〉に向かった。




〈スタッド〉の町はあちこちが花壇で彩られ、道は石畳で舗装された綺麗な町だ。新人冒険者を多く抱えていることもあり安全性が高く、私のような子供でも一人で外を出歩けるくらいの治安の良さがある。


 お父さんに連れてこられたのは町外れの古びた工房だ。おお、スキルとは関係なしに剣の匂いがする。


「ダンゴ、いるか!」


 お父さんが店の前で声を張り上げると、奥から団子っ鼻のヒゲモジャじいさんが現れた。肩には大きなハンマーを担いでいる。背丈はお父さんの半分くらいしかない。小さな身体にヒゲとハンマー。もしかしてドワーフ?


「おう、きたかロディ坊!」


 団子っ鼻のダンゴさんは空気が震えるくらいの大声で言った。うるさくてびっくりした。


「その子がライカちゃんか? 少し見ねぇ間にでかくなったな!」


「こんにちは。ダンゴさん」


「おお、ちゃんと挨拶もできるのか! ロディ坊の子供にしちゃ随分と聡い。さては母親似だな?」


「からかうのはよしてくれ。今日はこの子が五歳になるからジョブの選定にきたんだ。それと去年、この子に剣をプレゼントするから用意しといてほしいって話したのは覚えてるか?」


「あたぼうよ! どれが気に入るかわからねぇから片っ端から集めといたんだ。さ、中に入ってくれ」


 ダンゴさんに案内され、私たち親子は彼の工房へと足を踏み入れた。


 ……ふぉおおおお!?


「すごーい!」


 中はまさにイメージ通りの鍛治工房。溶鉱炉から漏れ出る火が煌々と室内を照らし、使い込まれた鍛治道具が影を長く延ばしている。


 いや、そんなことより注目すべきは所狭しと並べられた剣の数々だ! ロングソード、シャムシール、レイピアなど多種多様な剣が私を迎えてくれていた!


 やばい、全部が超絶イケメンの王子様に見える。蛇腹剣とかは……さすがにないか。でもゲームの中盤あたりで手に入りそうな品はほとんど網羅されているだろう。マジですごいわ。この光景を見られただけでも死んでよかったと思える。


「キラキラ目ぇ輝かせちゃってまあ……聞いてた通り本当に剣が好きなんだな、ライカは」


「うん!!」


「そうかそうか。なら好きなのを持っていっていいぞ。ただし鍛治道具には触るなよ? 溶鉱炉は近づくのもダメだ」


「はーい!」


 是非とも心ゆくまで物色させてもらおうかぁ!


 そしてぇ!


 このスキルはこういうときのためにあるッッ!


「《鑑定眼・剣》」


 お父さんとダンゴさんは工房の入口あたりで談笑しているのを確認してからこっそりとスキルを口ずさむ。


 すると、


 ────────


〈ロングソード〉   攻撃力+8

〈ロングソード+1〉 攻撃力+9

〈シャムシール〉   攻撃力+7 防御力+1

〈レイピア〉     攻撃力+6 素早さ+1

〈ロングソード〉   攻撃力+8

〈レイピア〉     攻撃力+6 素早さ+1

〈レイピア〉     攻撃力+6 素早さ+1

〈シャムシール〉   攻撃力+7 防御力+1

 etc...


 ────────


 剣の名前とステータスが視界全体を埋め尽くした。


 ふぉおおおお! たまらんっ!!

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