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黒の剣姫 〜異世界転生したので世界最強を目指します〜  作者: 阿東ぼん
第二章 伯爵の町〈フォーン〉での闘技大会編
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ライカはレティシエントの友達になってほしいと頼まれた!

 新たに入ってきたのが場違いな執事服だったので、私はその初老の男性が誰なのか一瞬で理解した。さっき見たレティシエントの老執事だ。


 老執事は私を見つけると、歩み寄って挨拶してきた。


「こちらでしたか、ライカ様。お嬢様の(めい)により闘技大会用の戦闘装束をお届けに参りました」


 彼はそう言うと、手に持っていた紙袋を丁寧に差し出してきた。私はそれを受け取る。紙袋がすでにもう高そうだ。中身は気になるが、宿に戻ってから確認するとしよう。飲食店で広げるようなものじゃない。


「ほんとにくれるんだ。ありがとうございます。えーっと」


「おお、私としたことが名乗るのが遅れてしまい申し訳ありません。どうかセバスとお呼びください。お嬢様からいただいた大切な名ですので」


「わかりました。セバスさん」


 執事のセバスさん。なんとなくイメージ通りで覚えやすいや。


「して、今はお食事中でしたかな?」


「アルセラが注文に行ってくれたところです。──あ、おかえり」


「ただいまです、ライカ」


 ちょうど戻ってきたアルセラがセバスさんに頭を下げた。


「こんにちは、フォーン伯爵家の執事の方ですね? あらためてご挨拶を。アルセラ・ヴァンキッシュと申します。以降、お見知り置きを」


「こちらこそ。私のことはセバスとお呼びください。憩いのひと時を邪魔して申し訳ありません、アルセラ様」


「いいえ、邪魔だなんてそんな。私たちは先ほどのやりとりでレティシエント様に不敬を働いた身です。糾弾されることはあっても、フォーン伯爵家にまつわる方を邪険に扱うなどありえませんわ」


 うわぁ、貴族の会話だぁ……。こういうまだるっこしいのにはちょっとついていけそうにない。早く来ないかな、肉盛りカレーセット。


「ふむ……」


 セバスさんが顎をひと撫でする。


「やはりアルセラ様には貴族としての礼節が身についておられるように思えます。私の勘違いでなければ──あなたは先日没落したヴァンキッシュ子爵家の人間ではありませんかな?」


 あ、やっぱりわかるんだ。なんかそういうオーラを身に纏ってるもんね、アルセラって。


「ご推察の通りです。私はかつてヴァンキッシュ家から追放され、公式記録から抹消された存在です。此度の闘技大会には、魔物に奪われたヴァンキッシュ領と没落した当家を取り戻すために参加しました。優勝した暁にはフォーン伯爵家の支援を受けてヴァンキッシュ領の奪還に打って出たいと考えております」


 アルセラは包み隠さず自分の素性を伝え、果たすべき悲願を口にした。


 セバスさんは納得したように頷く。


「ではその旨を我が主にもお伝えしておきます。我が主、ガルバディア様は何よりも強さを重視するお方。アルセラ様が今大会で優れた成績を収めればたとえ優勝できずとも取り計らってくれるでしょう」


「そのような言い方をなさるのは、レティシエント様がいるからですか?」


 アルセラはちょっと不機嫌になりながら聞いた。


「ええ。お嬢様はいつか必ずや〈剣王〉になられるお方です。それだけの才能と日々のたゆまぬ努力を私はずっと見て参りました。今大会での優勝はお嬢様以外にはありえないと確信しております。身内の贔屓目にはなりますがね」


「確かに彼女からはただならぬ気配を感じました。しかし、死に物狂いで努力してきたのはこちらも同じこと。今申し上げたように負けられない理由もあります。その確信はアテになりませんよ」


 おー、言うねぇ。アルセラは一旦覚悟が決まれば恐れるものは何もないってタイプなのか。実に私好みの性格をしている。相手を睨んでるときの顔も良いし。


「それでもお嬢様の勝利は揺らぎませぬ」


 セバスさんも負けじと言い返した。レティシエントを心の底から信じているようだ。


「……ライカは何か言いたいことはないんですか?」


 アルセラが半ギレ状態で私にも話を振ってきた。微妙に剣気が強まっている。お腹が空きすぎてイライラしてるのかもしれない。


 私はぐでーっとテーブルにもたれかかった。


「ここでどっちが強いかなんて議論しても無意味でしょ。明日になれば嫌でもわかるよ。それよりお腹空いたね。早くこないかなー」


「「…………」」


 立ちっぱなしの二人は呆然とした表情で私を見下ろす。ん? なんか間違ったこと言った?


 私が視線を返すと、


「ライカはやっぱり大物です」


「さすが〈剣王〉を超えると豪語するだけありますな」


「なんでそこで意気投合してるの」


 頷き合う二人にツッコミを入れた。剣のことばっかり考えてるから人の気持ちが全然わからない……。


「いやはや、ですがこれではっきり致しました」


 セバスさんが脈絡なく言った。


「何の話ですか?」


 アルセラが私の分まで聞いてくれる。


「お嬢様の孤独を癒せるのはお二人しかいない、という話です」


「と、いうと?」


「お嬢様は長らく剣の修行に明け暮れております。そのせいで……と表現するのは忍びないですが、友人と呼べる者が一人もいないのです。他家とのご縁を作ろうにも剣の腕が立ちすぎて敬遠されがちで……」


 そうか。貴族だからもう縁談の話とかがくるのか。そりゃあ自分より強い女の子と結婚したいと思う男の子は少ないでしょうね。小さい頃からチヤホヤされるのに慣れきってプライドばかりが大きくなっているのであればなおさらだろう。


「そこで私を勝手ながらお嬢様に比肩する天才が現れるのを待ち望んでおりました。私も武人の端くれ。ジョブで言えば〈槍豪〉です。佇まいを見ればおおよその実力は掴めます。お嬢様のご友人になることができるのは、お二人を置いて他にはおりません!」


 セバスさんは力強く断言し、深々と頭を下げた。


「どうかお嬢様を孤独からお救いください。あのお方はある事情によって〈剣王〉にならなければいけないという重圧に囚われております。それを語ることはできませんが……どうか何卒……」


「そう言われましても、ご本人が望まなければ私たちではどうにも……」


 アルセラは困ったように眉根を寄せて私を見る。


「心配しなくても剣で語ればいいんだよ。あの感じだと口で言っても聞かないだろうし」


 逆に、実力を示さなければ何を言っても届かないと思う。


「簡単に言いますね」


「ようするに私たちのどちらかがあの子に勝てばいいだけだしね。持論だけど、強い剣士は惹かれ合うもんよ。私とアルセラみたいに」


「あ、あなたはまたそんなコト言って……!」


 なんで赤くなるのさ。怒るところじゃないでしょうに。


「セバスさん、あえて言わせてもらいますけど、明日は私が優勝します。レティシエント……様に伝えておいてください。──私が天才だ、と」


 ぶるっ、とセバスさんが震え上がる。


「天才とは何か。それを考えるときがあります。結論は未だ出ませんが……今、その一端をライカ様に見た気がします」


「語るには早いですよ。まだ剣を抜いてすらいませんから」


「失礼、先走る気持ちが過ぎました。私はお屋敷に戻ります。お二人の言伝は我が主たちに間違いなく伝えておきましょう」


「はい。届け物、ありがとうございました」


「ヴァンキッシュ領奪還作戦の旨、よろしくお願い致します」


 私たちは別れを告げ、セバスさんは店を出て行った。


「お話、終わった? ご注文のカルボナーラと肉盛りカレーセットです」


 終わるのを見計らっていた受付のお姉さんが二枚の大皿をテーブルの上に置いた。ガツンとくる肉と香辛料の匂いに、私は感動して泣きそうになった。よだれもダラダラ出てきた。


「うっほぉ……」


 あまりに感動しすぎてゴリラになった。うほうほ。


 だって肉だよ? カレーだよ? 前世だったらワンコインで食べられたけど、この世界ではそういうわけにはいかないのだ。肉は、村にいたときは一年に一度のお祭りやお父さんが狩りで大型動物を仕留めたときにしか食べられなかった。カレーなんか文献の中だけの存在だった。転生してから十余年。日本並みの料理にありつくことをどれだけ待ち望んだことか!


「すごい量ですね。食べ切れそうですか?」


「モチのロン! いっただっきまーす!」


 早速スプーンで掬えるだけ掬い、大きく口を開けて食らいつく。


 うっっっっっっっっっっっめぇ!!!!!!


 これはもう〝やめられない止まらない〟だよ! 麻薬的な美味さだよ! 全細胞が喜びに打ち震えているのを感じる!


 たまらん! もう一口! うおおおおおお!!


「すごい食べっぷりね。やっぱり可愛いわ……」


「お姉さん、そろそろ職務に戻ったほうがいいのでは?」


「あら、ごめんなさい。心配しなくても横取りしたりしないわよ。眺めてるだけで十分だわ」


 何やら意味深な会話が繰り広げられているけど、でもそんなの関係ねぇ! 私は一心不乱に食べ続けた! 飯がうまけりゃ水もうまいなぁ! さすが都会! 今度絶対お父さんとお母さんとエイダおばあちゃんを連れてこよう! 余裕があれば他のみんなもだ!




 その後、〈フォーン〉行きの馬車で一緒になった冒険者のおじさんがたまたまギルドに訪れ、幸運にも食事代を丸ごと奢ってくれた。しかもフォーン伯爵家の執事と話していたことで興味を持ったという他のお客さんからも声をかけられ、私たちは店を出るまでの間ずっと注目の的になった。


 話の流れで腹ごなしの模擬戦を行い、見事に全戦全勝したが、みんなレベルが高いだけだったので特筆すべき戦いはなかった。まあ、とにかく楽しかったとだけ言っておこう。勝ち抜いたあとに私のレベルが9であることを告げると、椅子から転げ落ちる人が続出した。


 お店が大いに盛り上がって受付のお姉さんも嬉しそうだった。またきてね、って言ってくれた。みんな優しいし、ご飯は美味しいし、冒険者として活動するときはここを拠点にしようと思う。ほんと人間関係に恵まれてるな。なんだったんだ、私のクソ前世は。今がスーパーレアなら昔はノーマル以下のゴミだ。


 宿に向かう途中、アルセラとは別れた。別の宿を予約していたようだ。明日のことがあるから私としてはちょうどいい。しっかり気持ちを切り替えていこう。


 今夜は早めに寝るとする。準備は手早く終え、私はクロウを枕元に置き、ふかふかのベッドに入った。


『今日は騒がしい一日だったな』


 クロウが話しかけてきた。ほったらかしてごめんね。そう言おうと思ったけど、俺は魔剣なのだから構わない、とか言ってきそうなのでやめておく。


「うん、すごく楽しかった! 明日はがんばろうね、クロウ」


『ああ、力というものを思い知らせてやろう。ところで俺のことは公表するのか? 魔剣は貴重だと聞くが』


「優勝したら勝手にバレると思うから成り行きに任せるよ」


『そうか。アルセラとレティシエントのステータスは読まなくてよかったのか?』


「なるべくフェアな戦いをしたいからね。どっちも闘技大会が終わったら、かな。特にアルセラの魔剣が気になったけど今は我慢」


『あの魔剣、魔剣のわりに少しも意思が感じられなかった。妙な代物かもしれない。気をつけるんだぞ』


「クロウが特別なだけだったりして」


『そんなまさか。魔剣は意思を持つものだ。だからこそ使い手になれる人間は限られる。誰にでも扱える魔剣など存在しない』


「そのへんもアルセラの魔剣を鑑定してみればわかるかもね。ふわぁ……」


 眠気が強くなってきた。そろそろ本格的に寝よう。


「もう寝るね。おやすみ、クロウ」


『朝になったら一応起こすぞ。おやすみ、ライカ』


 私は相棒に目覚まし時計係を任せ、充実感に包まれながら眠りに落ちた。

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