ライカは〈フォーン〉へ向けて旅立った!
ステータス、スキルについて掲載されているページになります。
こういう数値を扱って書くのは初めてなのですが難しいですね……。
なおステータスについては某有名RPGを参考にしています。いわゆるDragonなQuestですね。
ぶっ壊れだけど作中で扱いやすい範疇を意識したいです。
お父さんとは〈スタッド〉の町で別れ、私は〈フォーン〉の町行きの大型馬車に乗った。
大人十人がかろうじて乗れる程度の広さの車内には、私以外の乗客が数人いる。見たところ彼らは全員が商人か冒険者らしかった。男性ばかりで居心地が悪いけど、私はうなじが見えるくらい髪が短いし、身体つきもまだ子供っぽいので変声期を迎える前の男の子だと勘違いしてくれるだろう。
実際、何度か声をかけられたが呼び方は「少年」や「坊主」だった。私の性別がバレなかったのは「はい」「いいえ」「確かに」「そうですね」と当たり障りのない返事しかしなかったのもあると思う。誰もいなければクロウとの会話を楽しんだんだけどね。
「相手できなくてごめん」
『気にするなライカ。話したいときに話してくれればいい』
私が小声で謝ると、クロウはあっけらかんと言った。
「ところで坊主は〈フォーン〉に行って何するつもりなんだい?」
先ほどからやたらと私に話しかけてくる商人風の男が切り込んできた。どうしようか。まあ、別に話しちゃってもいいか。
「〈フォーン〉の町で開かれる闘技大会に出るんです」
「ああ、あれか」
商人風の男はポンと拳を手のひらに乗せた。
「〈フォーン〉の闘技大会は何年かに一度のお祭りだ。記念に参加するのも悪くないだろうよ。俺も時期を見計らって商売しにきたんだが、どうだい、なんか買わないかい? これなんかオススメだぞ。なんと薬草6個に魔物除けの聖水を特売セットだ! ここで出会ったのも何かの縁だからまけとくよ。こんくらいでいかがかな」
商人風の男が示した金額は相場よりも少し高かった。それは魔物除けの聖水を計算に加えても同じだった。
なるほど、私が無知な田舎の小僧と思って売りつけにきてたのか。考える暇を与えないよう早口でまくしたて、人の良さそうな笑顔とセールストークで財布の紐を緩めるのは商売人の常套手段だ。
だけど、残念だったな。こっちには社会人として暮らした前世の記憶、エイダおばあちゃんから仕込まれた知恵と知識があるんだよ。答えはノーだ。貴重な資金を減らしてまで買うようなもんじゃない。
「魅力的な提案なのですが、生憎とそういった道具には間に合ってまして。あ、魔剣を売ってくれるならローンを組んででも買いますよ」
「魔剣だぁ?」
冗談のつもりだったんだけど、そんな反応してなくていいじゃん。
「ないない、ないよそんなもの。魔剣を仕入れるくらいなら魔槍や魔斧を仕入れるのが商人の常識だ。そもそも俺は武器屋じゃないしな」
「なんで魔剣だとダメなんです?」
それはエイダおばあちゃんのところでも知り得なかった話だ。
「なんでって、ここ何十年ものあいだ強い魔剣が一つも見つかってないからだろう。せいぜいが〈魔獣級〉止まりだ。他の武器は〈魔族級〉が見つかるのに不思議だよなぁ。噂じゃ魔王軍が人間界から強い魔剣を根こそぎ奪っちまったって話だぜ。それで大したことない魔剣だけが残ったとか」
「へぇ、そうなんですか」
今、私は怒りだけで人が殺せそうだった。魔剣という素晴らしい存在を独り占めにするなど神が許しても私が許さない。その横暴は万死に値する。
「ぼ、坊主? なんか怒ってる?」
「いいえ、まったく。ちょっと魔王軍を滅ぼしてやろうかなと思っただけです」
「怒ってるじゃねえか!」
「あはは」
いつか乗り込んで片っ端から奪ってやる。
「話は変わりますけど、おじさん商売に行くわりに身軽な格好をしてますね? 荷物はどうしたんですか?」
為になる情報を聞かせてくれたお礼だ。もう少しだけ彼の話に付き合おう。商売を抜きにしても話好きであることはこれまでの会話から推測できた。
「坊主も人のことも言えないけどな。なんだシャツにズボンって。しかもそれ麻で出来たものじゃないか。〈フォーン〉でその格好は浮くぞ?」
「お恥ずかしながらこれしかないんです」
「買う?」
「いえ、それより先に寝泊まりするところを確保しなくちゃならないので」
あと男物を押し売りされそうで嫌だ。服にこだわりはないけど身体に合った代物のほうが動きやすいから結局女物がいい。
「むぅ……。ま、いいか。で、なんだっけ? 俺の荷物か。そっちは結構な量だから仲間が先に運び入れてる。つまり現地集合ってわけだ。もうそろそろ〈フォーン〉に到着してる頃合いだが……」
と、そのとき。
車の外から強烈な破裂音が響いた。
「救難信号!?」
商人風の男が窓から身を乗り出す。
私も彼の後ろから外を眺めると、雲一つない晴天の中に本物とは別の小さな太陽が輝いていた。
光の出どころには私が乗っているのと似たような大型馬車が横転していた。そしてそれは、複数の魔物に囲まれている。
遠目での判断になるが、魔物の数はなかなかに多い。パッと見の目算で二十体前後といったところか。種類はゴブリンがほとんど。ゴブリンよりも大きな魔物がそこに何体か紛れている。
周囲に馬の姿はない。おそらく魔物の襲撃を受けたことにびっくりして逃げ出し、そのとき自分が引いていた馬車を転倒させてしまったのだろう。
「なんてこった! あれは俺の荷物と仲間が乗ってる馬車だ!」
「そうなんですか?」
「間違えるわけねぇだろ!」
青ざめた顔から一転、真っ赤になって怒鳴る。
「護衛はついているんでしょうか?」
「乗客数と積載量を重視した馬車だ、そんなものいねぇよ。……ん? だとしたら妙だな。あの馬車はこっちより一時間早く〈フォーン〉に着くはずだ。なんでまだ魔物に囲まれてるんだ?」
「あの群れ相手に一時間持ち堪えられる手練れが乗っていたのでは?」
「そ、そうか! それなら辻褄が合う! でもやばいことには変わりねぇ! ああ、どうしたらいいんだ!」
パニックに陥った商人風の男は頭を抱えてうずくまるが、突然ピタリと止まった。おもむろに顔を上げ、期待を孕んだ目で私をちらちらと見てくる。
「そういや坊主は剣士だよな?」
「そうですけど、それが何か?」
「闘技大会に出ようと思うくらいの腕はあるんだろ?」
「自分でもそこそこ強いと自負しています」
助けに行けってことだろう? 確かに私は世界を良くするために戦うつもりだが、それでも無償奉仕はごめんだ。割高セット売りつけられそうになったし。助けてほしくば商人らしく交渉してこい。
「う〜……わかった! 礼はするからあの馬車を助けてくれ!
「交渉成立ですね。そのクエスト、承りました」
私は腰に提げたクロウに一度触れ、ちゃんと武器があることを確認してから馬車を飛び出した。
「仕事だよ、クロウ!」
『あの群れを殲滅するのだな? 思いきり暴れてやろう、ライカ』
まだ冒険者登録を済ませてないから公式に記録は残らない。だけど魔物の群れは私たちにとって値千金の宝の山だ。経験値と魔石よこせ! できれば熟練度も!
ちなみに〈ノホルン〉での修行を終えた今の私のステータスはこんな感じだ。
────────
【名 前】ライカ
【年 齢】11歳
【ジョブ】剣士[全ステータス1.2倍]
【熟練度】100/100
【レベル】9
【経験値】21593/25617(累計70831)
【体 力】200[240]
【魔 力】58[70]
【攻撃力】89[107](+99)
【防御力】60[72]
【知 力】34[41]
【素早さ】81[98]
【幸 運】25[30]
【装 備】
〈魔剣グロウリー〉
【スキル】
《魔獣斬り》
【U・S】
《剣の申し子》
《無限収納》
《女神の試練》
────────
そして、クロウがこちら。
────────
〈魔剣グロウリー〉攻撃力+99
《魂喰いLV2》
①装備者の必要経験値を10倍にする。
②喰らった魔石の数に応じて攻撃力を加算する。
③この装備に成長限界はない。
④この装備によってドロップした魔石を自動回収する。
────────
色々とツッコミを入れたい部分はあるだろうが、一つずつ解説していこう。
まずジョブだ。
〈見習い剣士〉から〈剣士〉に格上げしている。
それによってもたらされる効果はお父さんと同じ攻撃力+15、防御力+10、素早さ+5。
……ではなく全ステータス1.2倍。
いやいやいや、固定値加算じゃなくて倍率アップかよ!
──と、当時の私は叫ばずにいられなかった。必要経験値が《女神の試練》によって10倍、《魂喰い》によってさらに10倍、合計で100倍になっているとはいえ、この効果はあまりにも強すぎる。完全に私だけの特別仕様だ。
しかも《女神の試練》の恩恵で基礎ステータスも馬鹿みたいに上がっており、お父さんがレベルアップしたときと比べると(どうにか思い出した)約3倍の成長率だ。特に攻撃力の伸びがエグくて基礎ステータスとジョブ効果を合わせたら三桁に届いている。レベル一桁なのに。
《鑑定眼・剣》の応用範囲といいさすがに調整ミスでしょうこれは。はっきり言ってぶっ壊れです。
でもまあ10倍の努力に対して3倍の成長率だから納得できなくもない……か?
うーん、一ゲーマーとしては調整の甘さがどうしても気になってしまうな。必要経験値の上昇幅も1.5倍固定みたいだし、ユニークスキルだけじゃなくて仕様の面でもかなり優遇されている。なんていうかこっちのほうがチート臭い。
次に熟練度。
こちらは〈剣士〉がカンストした時点で止まった。いくつか仮説を立ててみたのだが、おそらく魔物より上位の存在である魔獣を倒さなくてはいけないのだと思う。
熟練度の加算は戦闘終了時に行われる。倒した数ではなく戦った数を参照しているのだ。私は四年間ほぼ毎日魔物狩りに出掛けていたから戦闘回数だけが条件なら確実に格上げされているはず。
しかし、実際には〈剣士〉で止まっている。ならば倒した相手の格が影響していると考えるのが妥当だろう。
私の仮説が正しければ、魔獣を倒した戦闘が終わった瞬間、次の〈剣客〉になれるというわけだ。
続いて我が愛剣クロウこと〈魔剣グロウリー〉について。
魔物狩りで得た魔石を喰わせまくったことで、攻撃力がなんと+99にもなった。一般市場に出回っているロングソードなんかが+8なのでこちらもかなりイカれている。さすが魔剣だ! 私の成長率が通常であってもクロウを使えば魔物はおろか魔獣さえ怖くないだろう。さらに上の魔族はたぶんキツいと思う。
だが魔物からドロップする魔石ではもうこれ以上攻撃力は上がらない。たぶんジョブの熟練度同様、魔獣の魔石が必要なのだ。魔獣討伐が今の私たちの目標だ。
そして、《魂喰いLV2》になったことで新たに魔石の自動回収ができるようになった。
これはかなり便利だ。何せ魔石を拾う手間が丸々なくなる。自動回収された魔石は私のユニークスキル《無限収納》が生み出す亜空間に送られ、いつでもいくつでも取り出すことができる。暇なときに確認してみたら累計経験値の半分くらいまで貯まっていた。
魔獣の魔石を回収した場合はそのままクロウの攻撃力に変換されるんだろうな。ズボラな私として大助かりだ。正直めんどくさかったんだよね、いちいち魔石を拾い集めるの。せっかくのドロップ品を無駄にしなくていいのも精神衛生上よろしい。
最後にスキル。
記念すべき初スキル《魔獣斬り》は、お父さんから遊び半分で教わったものだ。このスキルを使うと魔獣以下の敵に対していつもより大きなダメージを与えられる。私が使うとオーバーキルになってしまうので今後出番はないだろうが、お父さんとの修行の日々を象徴するスキルなのでこうしてステータス画面に載っているだけでいいのだ。
以上が私の成長記録およびその解説である。
ゴブリンなんぞいくら束になってこようが今の私の敵じゃない。
サクッと終わらせて〈フォーン〉へ向かおう。
【簡易メモ】
ライカのジョブ〈剣士〉の効果
①ステータスに1.2倍の補正がかかる。
②魔獣を倒さなければ〈剣客〉になれない。
ユニークスキル《女神の試練》の効果
①必要経験値が10倍になる。
②ステータスの成長率が3倍になる。
〈魔剣グロウリー〉の格について
四年間の修行の中で〈魔獣級〉に至った。
攻撃力+99。
さらに攻撃力を伸ばすには魔獣の魔石が必要。




