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幼馴染とレトロなクソゲーを始めたらいきなり異世界に飛ばされました〜チート勇者の幼馴染と奴隷の俺の理不尽な戦い〜

作者: 松野ユキ

 ピンポン! ピンポン! ピンポン!


零斗(れいと)。新しいゲームを買ってきたから一緒にやろう!」


 元気の良い声が2階にある俺の部屋まで聞こえてくる。


 今日はせっかく部活も休みなのだから寝ていたいのに……


 整える必要がないほど短く刈った黒髪を掻きむしりながら、ジャージのまま階段を降りて玄関に向かう。


 玄関のドアを開けるとそこには見慣れたポニーテールの少女が、目を輝かせながら両手に大小2つの紙袋を持って立っていた。


「――優香(ゆうか)……付き合いが長いお前なら、部活のない休日は俺がどうしてほしいか分かるよな……」


「もちろん分かってますよ折中零斗(おりなかれいと)くん。せっかくの休みの日は楽しく幼馴染とゲームでもしてリフレッシュしたいんでしょ?」


 全然分かってない……

 いや、賢いこいつならもしかして分かってて言ってるのかもしれない。


 どちらにせよこの厄介な幼馴染を追い返す方が疲れそうだから観念しよう……


「新しいゲームとかいいながらどうせまた中古のクソゲーを発掘してきたんだろ?」


「中古なのは確かだけど、これはクソゲーではなくてレトロゲー。それに今回は王道ファンタジーRPGだよ」


 目の前にいる幼馴染の結城優香(ゆうきゆうか)という少女は、ゲームショップで昔のゲームを買い漁るのが趣味だ。


 それだけなら本人の好きにやらせればいいわけだが、買ってきたゲームを定期的に俺に見せびらかしにくる。


 断ればいいのかもしれないが、こうなったのは幼い頃に俺が優香をよくゲームショップに連れて行ったせいでもあるので付き合ってあげているのだ。


「分かった。分かった。とりあえず上がれよ」


「はい。じゃあお邪魔しまーす! あ、これお母さんが零斗と2人で食べなさいって」


 小さな紙袋の中には俺の大好物である猫の屋のレモンミルクプリンが入っていた。この店のプリンはとても人気で特にこのレモンミルクプリンは夏季限定商品なので部活で忙しい俺はなかなか買うことができていなかった。


 優香のお母さんの気遣いに涙が出てきそうになる。俺も将来はこういう気の利く大人になりたいものだ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 とりあえず優香を先に俺の部屋にあがらせてから台所でアイスコーヒーを準備する。

 優香の分はいつも通り、ミルクと砂糖をたっぷりと入れたものだ。


 2階に上がり、部屋のドアを開けると早速テレビにゲーム機が繋がれ準備ができていた。


「ハイパーファミコンか……また懐かしいものを……」


「そうだよ。今回のゲームのためにわざわざ引っ張り出してきたの。上手く動いてくれればいいけど……」


 ハイパーファミコンは平成に発売されたカートリッジ式のゲーム機だ。優香のお父さんが子供の頃には大人気だったらしい。


 俺たちも小学生の頃にはこれでよく遊んでいた。少ないお小遣いを出し合って中古ソフトを買い、色んなジャンルのゲームを楽しんでいた。


「ところで優香、今回のゲームのタイトルって何なんだ?」


「えーっと……『ドレイトクエスト』だよ。光の勇者が奴隷と力を合わせて魔王を倒し世界を救うRPG。好きな奴隷を街で購入できるんだけど、奴隷は一度死んだら復活できないという珍しいシステムを採用しているの」


 酷い。


 奴隷の命をなんだと思ってんだ。


 今こんなゲームを発売したらクレームが殺到するだろう。昔もそうかもしれないけど……


「――まぁいいや……とりあえず始めよう」


 優香がハイパーファミコンのスイッチを入れると、何事もなく作動し画面にゲームが映し出された。


「ちゃんと動いてくれてよかったね!」


 懐かしい感じの音楽が流れ、ゲームタイトルが映し出される。


「どうやらセーブデータは残ってないようだな。まぁどっちにしても最初からやるからいいけど……」


 操作は優香に任せて俺はレモンミルクプリンを頬張る。

 うん、やっぱりこの甘酸っぱさは疲れた身体に沁みるな。


「じゃあ、最初から始めるね。あれ、何このメッセージ?」


『あなたは、あらたなせかいにたびだちます。じゅんびはいいですか?』


 謎のメッセージの後に「はい」と「いいえ」の選択肢が表示される。


「初っ端からこの選択肢に意味はあるのか? 何か怖いからまずは『いいえ』を選んで様子を見ようぜ?」


「こういうのはどうせループになるだけの脅しだよ。時間の無駄だし早く始めよう」


 優香は「はい」の選択肢にカーソルを合わせ決定する。


 そのとき、ハイパーファミコンに挿さっていたカートリッジが光りだし、テレビ画面にはマーブル状の模様が映し出さる。


「――何これ?」


 優香が呆然としていると、テレビ画面から謎の黒い手が出てきて画面の中に引きずり込もうとする。


「おい、優香!」


「助けて! 零斗!」


 すでに上半身が吸い込まれている優香を何とか引き抜こうとするが、さらに吸い込まれていくだけだ。


 そして、優香と俺は完全にテレビ画面の中に吸い込まれてしまった……



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 目を覚ますと、薄暗い所にいた。

 よく見ると部屋ではなく檻の中だ。

 布が被せてあって外の様子をうかがえない。


 周囲にはみすぼらしい服を着て、タグらしきもが付いた首輪をつけている少女や少年が10人ほどいた。

 とても窮屈だ。


 何でこんなところに……

 というか自分もいつの間にか同じような格好をしている……


 檻の中にいて、みすぼらしい服を着て、タグの付いた首輪をしている。


 これってもしかして俺も奴隷じゃないのか?


 困惑して頭を抱えていると檻を覆っていた布が取られて、光が差し込んでくる。


 目の前にゲーム世界のような西洋風の街が広がっていた。

 どうやらここは広場のようだ。


 周りの取り囲む人々は物珍しいそうに俺たち奴隷を見ている。


 檻の隣には小太りの商人らしき男が立っていた。


「皆さん、本日の奴隷販売を始めます!」


 奴隷販売?

 俺も売られるの?

 

 一生奴隷として劣悪な労働環境でこき使われるとか勘弁してくれよ……


 だが売れていくのは若くて可愛い少女の奴隷だけであった。


 若くて労働力になる男だから俺も売れるかもしれないと思ったが案外そうでもないみたいだ。


 ここで冷静になって考えてみる。


 優香とゲームをしていた俺がテレビ画面に吸い込まれて目を覚ますと奴隷になっていた。

 

 優香が持ってきたソフトは奴隷売買システムがあるドレイトクエスト。


 そして謎の選択肢。


 ――普通ではあり得ないがドレイトクエストの中に吸い込まれたって可能性がある……


 吸い込まれたのは仕方ないとして、何で俺が奴隷なんだよ!


 優香に操作を任せていたからか?


 奴隷たちは俺を残しどんどんと売れていった。


「おい、そこの若い男の奴隷をくれ」


 貴族のような格好をした意地の悪そうな男が俺を指差す。

 

「へっへっへ……この奴隷は若くて体格もよくて力がありそうだからよく働きますぜ。1500ガルタになります」


「よく見ると顔もいいな。これはいい買い物になりそうだ」


 貴族の男が舐め回すように俺を見てくる。

 いやいや勘弁してくれよ……


 神様!

 頼むからこの男だけはやめてくれ!

 どうせ買われるなら美女にしてくれ!


「ちょっと待って! その奴隷は私が買います!」


 フード付きのマントを着た少女が割り込んでくる。

 顔はフードで隠れていてよく見えない。


「お嬢ちゃん。この奴隷は私が先に目をつけたんだ。順番は守ってくれないかい?」


 貴族の男が少女に詰め寄る。


「いくらで買うつもりなの? 言い値で買い取るよ」


 少女は不敵に笑う。


「ほぅ……貴族の私から言い値で買い取ると……じゃあ100倍の15万ガルタなら売ってあげようじゃないか」


「いいよ。はい」


 カバンから札束を取り出し男に渡す。


「う、嘘だろ……こんな少女がこれほどの大金をポンと出せるわけがない。お前、何者だ!」


「名乗るほどのものではない。この国の王から魔王討伐の命を受けた勇者ってだけだよ」


 少女がフードを取ると、そこにはよく知っている幼馴染の顔があった。


「優香!」


「何とか間に合ってよかった。今助けるね」


 優香がこちらをむいてニコリと微笑む。


「なるほど……勇者様でしたか。王の命を受けた方ならばお譲りするしかないですね。でも約束通りお金は頂きますよ?」


「うん。約束は約束だからね」


 貴族の男は優香が勇者だと分かると、商人に代金を支払い、足早に去って行った。


「おじさん、見ての通り話はついたからこの奴隷はもらっていくよ?」


「もちろんですよ。勇者様」


 小太りの商人が檻の扉を開けて、俺を外に出す。


「大丈夫? 零斗?」


 差し伸べられた手を掴み立ち上がる。

 何だか久しぶりにちゃんと立ったような気分だ。


「本当にヒヤヒヤしたよ。あと少しであの男の奴隷として一生奉仕されていたところだった」


「可愛い女の子に買われてよかったね」


 優香が意地の悪そうにニヤついた顔でこちらを見てくる。


 まぁこいつの顔がいいことは否定しないけど……


「助けてくれたことはサンキューな。でも、お前が始めに選択肢を慎重に選んでたら吸い込まれなかったかもしれないことは忘れるなよ?」


「そんなことはないよ。どちらにしてもこのゲームには吸い込まれることになっていたから」


「なんでそんなことがわかるんだよ」


「デバッグルームで見てきたからさ」


 何だよそれ。

 チートじゃねぇか……


「いきなりデバッグルームにたどり着くなんて、このゲームに呼んだ奴も呆れてるだろうな……」


「うーん……まぁ最初は驚いてはいたけど『ここまで来られたなら仕方がないわ……適当に楽しんでさっさとこのゲームから出ていってちょうだい』って言ってたよ」


 まぁこのクソゲーマニアに留まられて好き放題されたくないよな……


「とにかくチートのおかげで大金が手に入って助かったわけだ。もちろん俺のステータスもMAXにしてきたんだよな?」


「え? してないよ? 零斗はまだ仲間になってなかったし……」


 つまり俺は初期状態ってことかよ……


「でももう一度デバッグルームに行けばいいんじゃねぇの?」


「今回だけは許すけどもう駄目なんだって。だけど、私はレベルもアイテムも所持金もMAXだし、零斗のことはちゃんと守ってあげるから安心して!」


 もし俺が操作をしていたらこんな目にあっていなかったのだろうか。


 いや、初めて買ったゲームのデバッグルームを探し当てるなんて芸当は俺にはできないからこれが最善だったのだろう。


「もう優香様におまかせしますよ……で、今後はどうなさるおつもりですか?」


 せめてもの抵抗として嫌味を込めた口調で今後の方針を聞く。


「このゲームから出るには魔王を倒せばいいんだって。まぁレベルはMAXだからいつでも倒せるんだけど今行く?」


 コンビニに誘うようなノリで魔王を倒しに行こうなんて言われると困惑するけれど、こんな世界からさっさと脱出したいから行くしかない。


「今すぐ行くぞ! 俺の休日をこれ以上メチャクチャにされてたまるか!」


「分かった行こう!」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 色々あったが、レベルはMAX、アイテムもMAX、所持金もMAXの優香のおかげで俺は特に何もすることはなく魔王城にたどり着いた。


 また、優香の効率的なレベル上げにより、俺のレベルは40まで上がっていたので自分の身は自分で守れるようになっていた。


 しかしレベルが上がっていくうちに気がついたことがある。

 俺は魔法が使えないタイプの奴隷だった。


 しかもまともな武器を装備できないので素手で敵をボコボコにするくらいしかできない。


 せっかく異世界に来たのなら魔法くらい使ってみたかったのに……


 その怒りを目の前の魔物にぶつけながら俺たち2人は魔王の間へと突き進んだ。


「零斗は準備いい? 扉を開けるよ?」 

 

 俺がコクリと頷くと、優香は仰々しい巨大な扉を開けた。


 赤絨毯が敷かれた長い道を進み、階段を昇るとそこには大きな角の生えた魔王が座っていた。


 何の捻りもなく、いかにも魔王という魔王だ。


「勇者たちよ。よくぞここまで来た。しかし貴様らの旅もここまでだ――――なぜならここで我に殺されるからだ! さぁ来るがよい!」


 魔王はいかにも魔王という台詞を吐いて立ち上がった。


 まぁ、相手が魔王といえど優香はレベルがMAX。

 優香が適当に片付けるだろう。


 そう思っていたのだが……


「『シニーサラーセ』!」


 魔王が呪文を唱えると優香の周りに死霊がまとわりつき、パタリと倒れる。


 即死魔法?

 そんなのありかよ!


 優香のもとに駆け寄ると息をしていないし、心臓が動いていない。


「そんな嘘だろ……」


 優香が死ぬなんて……


『奴隷は一度死んだら復活できないという珍しいシステムを採用しているの』


 ゲームの中に入る前の優香の言葉が脳裏によぎる。


 俺は死んだら復活できない……

 

 俺は魔王を倒すしかないんだ。


 それより魔王は優香を……


「どうした? 攻撃してこないのか?」


 ターン制の戦闘だからか魔王は律儀に待ってくれている。


 その律儀さには感謝するけど優香を殺したことは許せねぇ。


「――チート使った罰かもしれねぇけどよ……俺の大切な幼馴染に何してしくれてんだ! このクソ魔王及びクソゲー!」


 壮絶な戦いの末、なんとか魔王を倒すことができた。


「我が人間ごときに倒されるとは……しかし、光の勇者があるところに闇の魔王はまた現れる。これで終わりだと思うな!」


「分かりきった台詞吐いてないでさっさと消えろ!」


 魔王に殴りかかろうとするが、すでに消失してしまい殴ることは叶わなかった。


 ところでこの状況どうすんだよ……


 エンディングテーマの後に帰れるのか?


 腕を組んで悩んでいると、突然魔王の玉座辺りが光りだし、謎の女性が現れた。


「私はこの世界の女神。よくぞ魔王を倒してくれました。あなたの願いを叶えましょう」


「俺たちを元の世界に戻してくれ。もちろん優香を蘇生させてだ」


 冷たくなって横たわっている優香の方をチラリと見る。


「――ぶっちゃけこの子はチート行為をしていたので助けたくないのですが、あなたの頑張りに免じて今回だけは助けてあげましょう」


 元はといえば現実の人間をこんなクソゲーに引きずり込んだあんたが悪いんだろと思ったが、こちらにも非があるのでそれは口にしなかった。


「ありがとうございます。本当にご迷惑をおかけしました」


 女神に礼をすると、優香が輝き出して目を覚ます。


「――あれ? 私は魔王に即死魔法をくらって……」


「俺が魔王を倒して、この女神様がお前を復活させた。ちゃんとお礼を言っておけよ」


「でも元はとい……」


「優香!」


「チート行為をしたにも関わらす助けてくださってありがとうございました……」


 優香が不服そうにお礼をする。


「それではあなたたちを元の世界に返します。さようなら」


 俺と優香の身体は光に包まれたと思ったら意識を失った。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 目を覚ますとそこは見慣れた自分の部屋だった。


 壁の時計を見るとほとんど時間は進んでおらず、アイスコーヒーのグラスに入っている氷もまだ残っている。


 優香は横たわり何やら寝言を口にしている。


「ムニャムニャ……私は世界の英雄……」


 ふざけんな! お前は肝心なときに死んでただろ!


 ――と怒鳴って起こしてやりたいところだが、チート行為とはいえ助けられたのは事実なので優しく起こしてやろう。


「おい、優香起きろ」


「あれ? ここは零斗の部屋? 私たち現実世界に戻ってきたの?」


「そうみたいだな……ほら、アイスコーヒー」


「ありがとう」


 優香はアイスコーヒーを一口飲んで落ち着くと大きな紙袋をゴソゴソと探り始める。


「あった! 次はこれをやろう! 『奴隷とパァン!』。これは主人公が奴隷を操ってブロックを消していくゲームで……」


 新たなゲームを提案してきたか。

 しかもまた奴隷……


「――やるわけねーだろ!」


「そんなぁ……これはプレミアもので高かったのに……」


 カートリッジを見つめながらしょんぼりしている。


「しょうがねぇなぁ……今度は二人でやるぞ?」


「うん! やっぱりゲームは二人でやらないとね!」


 結局はこの幼馴染のペースに乗せられて、俺の貴重な休日はクソゲー三昧になるのであった……

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