ダクタイル鋳鉄と周辺技術
ダクタイル鋳鉄は1949年に米国で発明された鋳鉄である。
鋳鉄に1%程度のマグネシウムを添加した物。
従来のねずみ鋳鉄(10.2〜35.7kg/c㎡)より引張強度が高く、普通鋳鉄(10.2〜15.3kg/c㎡)の4〜5倍(40.8〜81.6kg/c㎡)に達した。
ねずみ鋳鉄の場合降伏点(此処を越えると金属は伸びても元に戻らない)が引張強度の70%。
引張強度10.2kg/c㎡の鋳鉄を使う場合ボイラーの安全係数が2(運用時の倍圧力が掛かっても変形しない=降伏点以下)なので運用圧は3.57kg/c㎡以下。
1気圧=1.0337kg/c㎡の為3気圧強。
ワット時代の運用圧力(3気圧=3.1kg/c㎡)とほぼ等しい事がわかる。
ピンホールに注意する必要があるが、ダクタイル鋳鉄の運用圧力は14.28気圧。
1880年代の英国製艦載ボイラーと同水準である。
水道管の場合は降伏点以下まで使えるのだが……。
英国に鉄鉱石を輸出していたスウェーデンでは1876年に舶用機関として世界最古の焼玉エンジンを開発しているが、この頃にはベッセマー転炉の製法が広まり同じ材料を使っているので強度は英国並みと見て良い。
尚ガソリンエンジンも同じ年に独で発明されており、使用鋼材の強度は9.12kg/c㎡である。
独の場合10年後まで強度は変わらなかったので、材料強度だけを見るとエンジンの知識や経験に19世紀後半レベルの工作精度もあれば史実より軽い自動車を作れる。
ディーゼルの発明は1893年だが、鋼材強度がダクタイル鋳鉄の下限と等しい為容積、重量共に変化はない。
上記の通りダクタイル鋳鉄を史実以前に再現出来れば素晴らしいが、マグネシウムの入手は非常に手間がかかる。
製法はドロマイトやマグネサイト等を真空下で1200℃に加熱して回収する熱還元法か、製塩時に発生する苦汁に塩素やドロマイトを加えて電気分解する電解法の2つ有り、熱還元法の一種のピジョン法が主流。
ピジョン法の場合、要求される真空度は約1/78000気圧、1.3Pa。
1Pa未満の白熱電球内部よりやや高いが、そのレベルの真空度を実現出来るポンプは1865年に登場するものの真空炉の発明が1917年、事業化が20年の為ピジョン法の導入はそれ以降である。
1870年代に真空炉が出来ればその限りではないが、商業生産が始まるのは1886年以降。
電解法はマグネシウムの地金を1t得るのに1万kw以上の電力を消費する。
おまけに発電効率は十数%と現代の1/3もない上に発生、使用する塩素ガス対策の為か設備費用が'09年時点でマグネシウム1t辺り1200〜1500ドル、電解法は15000ドルかかる。
日本企業が1990年代前半まで栃木産のドロマイトを原料に熱還元法でマグネシウムを生産していた事も設備投資、維持費が電解法より安い事を示している。
世界最古の発電所は1878年に個人利用の為建設された。
出力が明らかな最も古い発電所はエジソンが81年に建てた石炭火力発電所で、6台の発電機で構成されており合計出力は540kwh。
とてもではないが量産出来るような体制ではない。
塩素の商業利用(1799年)が始まり、翌年に電気分解が開始されているのでそれ以降で電気工学の知識、財閥レベルの資金、技術力がなければダクタイル鋳鉄の採用は無理。
関連技術の開発で一生が終わる上に種銭もかかる。
電気はにがりの電解や塩酸の製造の他にガスでは達成出来ない2000℃以上の高温で鉄屑を溶かし、従来より不純物の少ない鉄を作れる等メリットは大きいが……。
参考文献
鉄筋強度計算
参考サイト
ダクタイル鋳鉄
http://www.j-imono.com/column/daredemo/02.html
https://www.jdpa.gr.jp/products/history/history-05/index.html
マグネシウム地金の製造法
http://magnesium.or.jp/property/how-to-make/
https://www.ofic.co.jp/mg/mg08.htm#:~:text=%E3%83%80%E3%82%A6%E6%B3%95,%E6%B0%B4%E7%B4%A0%E3%82%92%E7%94%9F%E7%94%A3%E3%81%99%E3%82%8B%E6%96%B9%E6%B3%95%E3%80%82
真空炉
https://jp.kindle-tech.com/faqs/what-is-the-history-of-the-vacuum-furnace
wiki
ダクタイル鋳鉄、蒸気機関車、バーデンの機関車と鉄道車両のリスト、焼玉エンジン、塩素、ハンフリー・デービー、真空ポンプ
マグネシウム製造法の費用は、
・マグネシウムの精錬/溶解・鋳造
マグネシウムの添加率は、
・大型ダクタイル鋳鉄品製造におけるマグネシウムのフェーディング現象
を参考とした。




