日本軍装甲車の限界、防御力編
・防御力
戦訓では、100mで13㍉、タングステン弾で19㍉を貫通するマウザー徹甲弾に距離30〜70mから撃たれた八九式中戦車は12+3㍉の15㍉から最大17㍉一枚板の装甲を持つが良く耐えた。
ただ1例だけ弾着角85°で17㍉装甲を半貫通(弾の先端部分が車内に突き出)た。
これはタングステン弾と思われる。
通常の徹甲弾は12㍉+3㍉の増加装甲(15㍉の1枚板より防弾性能は劣り増厚×0.6以下)で防げた為最低14㍉欲しい。
この推論は、
・威力の近似する7.7×58㍉弾を用いた九二式重機関銃が、表面硬化装甲に対し200m12㍉、350m10㍉と500m以内では150m毎に2㍉増減する事。
・独も30m先からの7.92㍉弾に耐える為に表面硬化装甲8㍉、55〜60°の傾斜、実質倍の厚みを持たせた装甲車を開発している事。
・米軍の12.7㍉鋼板は、マウザーより威力の劣る7.92×33㍉クルツ弾に対し圧延鋼板で274m、表面硬化装甲で183m以上距離を取らなければ貫通され、増減率が九二式と同じ場合最低15㍉は必要な事。
・独を仮想敵国とする英国が14㍉装甲の車両を整備している事。
等からそう間違っていないだろう。
時期を考えると1928年に発生した済南事件時にオースチンやクロスレイがマウザー弾で撃破されたら装甲強化に進めると思われる。
表面硬化装甲ではないが、上下面を除き全周16㍉装甲を施した戦車は共に重量5.9tのL5とT-18が該当する。
伊ソはリベット接合で、溶接に転換すると15%軽量化可能だが日本の九二、九四、九七は砲の周辺その他にリベットが見えるものの全溶接を採用しているらしい。
まあ換装を前提とした箇所の為当然ではあるが。
となると3t台の九二、九四式は兎も角九七式は余裕がない。
足回りとエンジンの強化や無線機の搭載を行った上で、上下面以外に16㍉装甲を施せる九二式、上記に加えて乗員とエンジンの隔離を行った上で上下以外20㍉の装甲を施せる九四式と異なり、エンジンを軽くしてもベーラー砲で相殺されるので上下面を除く全周+2㍉、12㍉に増厚が精一杯である。
(改良前は砲塔、車体前面のみ12㍉。砲塔側背、車体側面10㍉、後部8㍉)
炎上しやすいガソリンに換えるか、威力不足を承知で搭載砲を25㍉に落とすか前話に登場したドイツ製ディーゼルエンジンが製造出来たら16㍉装甲も夢ではないのだが、現実は非情だ。
九二式は3人だが主砲が車体固定。
九四式軽装甲車は車体が小さいので2人乗り。
大きさを考えると九七式には3人乗れるがハ号並みの紙装甲。
ベルギーのT-13豆戦車を参考にするとエンジン重量を140㎏としてディーゼル化で310㎏、砲塔背面の装甲化と無線機でそれぞれ40㎏増えるものの全周14㍉相当が限界。
エンジンの体積が増えたので乗員はT-13の4〜5人から減少するが、それでも史実の2人は確保出来る。
BT-2戦車より10㎞遅く、貫徹力が1割下がり1㍉装甲が増えた装甲車を造るのが限界で、5t以下で最大47㍉砲を搭載し、小銃弾に対して完全に安全な車両の製造は時期と技術的に無理だった。




