銃と甲冑
騎士の時代はボウガン、ロングボウ、銃の発達で終わったのに何を書きたいんだ?
と思うかもしれない。
だがそれは大昔の銃が拳銃以上の射程を持っていたからであって、一部の拳銃では現代でも大型野生動物には効きが悪く、下記のように特定条件下の住民にも通用しない物もある。
一般の兵、大型野生動物、過去の騎士や武士、ファンタジーの住人に通用する銃の下限は何処か穴だらけではあるがエネルギー量を元に推定してみよう。
米国が45口径信仰に目覚めるきっかけになった米西戦争に於いて、米軍は薬でハイになり牛革の防具を身に着け、木製の盾を構えて突撃して来たモロ族に対しM1892(224J、22口径拳銃弾の1.5倍だがトカレフの半分以下)を全弾撃ち込んでも阻止出来なかった。
報告を元に繋いだ牛相手に射撃試験を実施したところ、全弾射っても死亡しなかったのでコルトM1911(563J)が開発されたのだが、もし小動物の狩りか護身用にM1892相当の銃しか持っていない場合、まかり間違って一人ぼっちで異世界に迷い込み、現地人とトラブルを起こしたらそこで冒険は終わる。
史実では戦争時に支給されるかファンタジー世界の序盤の武器屋で売っている革鎧、木製の盾を身に着けた徴募兵や駆け出し冒険者が普通の状態なら通用するが……。
後衛の支援魔法より銃弾の方が早いが、戦闘前に掛けられた魔法の効果が続いているか呪われた装備の影響でモロ族状態になった冒険者には上記以下の火器では効かない。
野生動物相手にも同様。
近年暴力団の間でトカレフ(485〜688)に代わって使用されているマカロフPM(305)は旧ソ連の宇宙飛行士が僻地に不時着した際野生動物からの自衛用に所持していたが、タイガ地帯に不時着した時に威力不足を指摘されたという。
現地の大型動物といえばトナカイ、羆だが300台は初期の防弾チョッキでも防げるので、大型動物に効かないのも当然だろう。
当たりどころにもよるが、駕籠を突き抜けて剣の達人の井伊直弼を一発で行動不能にしたM1851(259J)より威力はあるものの体格の差は大きい。
更に威力のある銃の場合、アラスカ半島の湖で釣りをしていた3人組の2m横の茂みから襲いかかって来た熊に対し、唸り声で接近を察知していた人間が9㍉パラベラム弾(500未満)を6発撃ち込み返り討ちに成功。
残弾は1発だったという。
拳銃から発射される9㍉弾は7ヤード(6.4m)先に置かれた4枚重ねの鉄板(一枚板換算2.7㍉※1)を貫通するが、60㎞で走るヒグマを更に近くまで引き付けて複数発叩き込まなければ倒せないようだ。
上記例はかなり危険なので、現地では山に入る際.357以上(778〜)のリボルバーを御守りに持ち込む事が多いらしい。
.40(エネルギー量不明)でも4、5発撃ち込めば倒せる。
九九式小銃(3144)が戦後、熊を即死させる事からベア・ハンターと呼ばれたがエネルギー量から正しい事がわかる。
熊以上の体格を持つアフリカ/インド象に対し、1890年代まで使われた初速の低い黒色火薬では大口径でも30発以上撃ち込み失血死を狙うしかなかった。
初速が同程度で、弾丸重量が半分以下の拳銃(.50以下)は象使いには効くが群れには無力。
現代の密猟者はAK47(2132)を使う事が多い。
タイトルは失念したが、以前なろうで日本が異世界転移する物で、先祖代々伝わる甲冑を着込んだ騎士が嫌に撃たれ強いのでM2で仕留めたらチタン合金製だったという作品を読んだ事がある。
チタン合金は同じ厚みの時、軟鉄(鉄筋等一般鋼材、490N/㍉未満)の倍の強度(1000〜)を持つが、もし現地でミスリルやヒヒイロカネと呼ばれる金属がチタンで現地ドワーフやダンジョンで見つかる古代文明の遺物が現代レベルの加工技術だった場合、相手が西洋甲冑であれば9㍉以上は欲しい。
全身を覆うプレートアーマー(20㎏〜)の装甲は1〜2㍉だが、チタン合金製も同じ場合ヒグマ並みに硬くなり、重量が6割を切る。
スターリングラードの戦いの際、100m先のMP40(9㍉、542J)からの射撃に2㍉の鋼板で出来た防弾チョッキ、SN-42(3.5㎏)は米英独以下の品質だったが耐え、内蔵への衝撃も戦闘不能になる程ではなかった。
日本の当世具足なら気候や体格、通気性の問題から防御は薄い部分が多いが、通常の物の場合最厚部3㍉の鉄で要部を保護、伊達政宗率いる黒備えに至っては胴体正面5㍉に達した。
それでも兜込みで21㎏で済んだ。
伊達の甲冑は後世の検証では部位は不明なれど22口径に耐えたという。
黒備えを除けば最も普及している火縄銃で50m、9㍉でも6m以下なら鎧武者を阻止出来るが、チタン製具足相手にはトカレフ(6.4m先の鉄板合計厚6㍉貫通、一枚板換算4㍉)でも頭か手足を狙わなければならない。
まるで人型装甲車だが、100mで10㍉以上の鋼板を貫通するアサルトライフルの前には初期の防弾チョッキも着込んでいようと無力。
法医学で豚に各口径の弾丸を撃ち、銃創から口径を推定する実習があるようだが、.38口径の場合豚の湾曲した頭蓋骨にヒビが入るだけで跳弾したという。
日本で.38となると警官の使うニューナンブM60と思われる。
相手がオークの場合打ち上げる形になるので傾斜は緩くなるが、ヒビが入るレベルになると気絶するし口や鼻に当たりやすくなるので、警官でもくっころ状態の姫騎士を助ける事は可能。
だが普通の警官一人では熊を止められず、ゴブリン相手には弾が足りないので、地球なめんなファンタジーでも問題なく活動出来るのは傭兵が限界だった。
普段は最低9㍉、出来れば.357、狩猟や戦争にはアサルトライフルを携行した方が良いだろう。
1879年に豪州の盗賊、ネッド・ケリーは厚さ6㍉の錬鉄製の鍬を加工し鎧とした。
胴体全周と頭部を覆い、重量は44㎏に達したが数m以内からの警察の銃弾(コルトNo.2、.44、395J)を防いだ。
ただ素人が製造した為通常より強度は落ち、頭部に被弾した際には方向感覚を失う程の脳震盪と打撲傷を負った上に手足を守れなかった為失血により捕まり、報道を知ったコナン・ドイルは英軍歩兵が装備すべきと主張したが、第一次世界大戦の機関銃弾の前には無力だった。
チタンで軽くなっても手足を狙えば良いが、戦闘に用いられた立って行動出来る鎧の中で最も重装甲な為掲載する。
※1……対象は銃弾ではなく砲弾だが、独ソ戦時に30㍉2枚より50㍉1枚の方が防弾性は上とあり、強度が合計厚の2/3の一枚板と同等だった。
参考サイト
熊と拳銃
https://note.com/energesticgamer/n/ncd2accecf97a
伊達政宗の鎧
https://artne.jp/column/1749
wiki
M1851、M1892、SN-42、プレートアーマー、火縄銃、ネッド・ケリーの鎧(英語版)、コルトNo.2、トカレフ。




