垂れ流せば害、集めれば資源、その1
マナーの話ではなく大気汚染の話。
石油、石炭燃焼時に光化学スモッグの原因となるNOx及びSOxが生じる事はよく知られているが、史実以前にSOxを除去可能な物として、石灰−石膏法、水酸化マグネシウム法、ソーダ法、活性炭法がある。
石灰−石膏法はアンモニアを添加した排ガスに霧状の石灰水を噴射し、硫黄酸化物を石膏に置換する物。
他に格子状の構造物からスラリー(石灰水)を流す物もある。
石灰水の濃度は理科の実験や飲用時に薄めたカルピス程度では薄い為、溶いたてんぷら粉やヨーグルト並みの濃さが必要。
噴射室に次の反応となる酸化促進の為、空気吹き込み口を設ける吸収塔内酸化方式と酸化塔を分離した酸化塔別離方式の二種類ある。
メンテナンスの簡単な噴射式兼空気吹き込みの為塔を高くすれば面積を減らせる吸収塔内酸化方式が主流。
SOxを97〜100%除去出来、副産物の石膏はセメント原料や耐火建材等に使えるが、欠点は用排水及び石膏搬出設備が必要な為、中〜大型設備の火力発電所や金属精錬工場にしか向かない事。
足尾銅山鉱毒事件を阻止出来るだろう。
SO2+CaCO3+0.5H2O→CaSO3・0.5H2O+ CO2(吸収反応式)
CaSO3・0.5H2O+0.5O2+1.5H2O→CaSO4・2H2O(酸化反応式)
水酸化マグネシウム
石膏の回収設備がないので小型向き。
工程は石膏法と変わらない。
SO2+Mg(OH)2→MgSO3+H2O(吸収反応式)
SO2+MgSO3+H2O→Mg(HSO3)2(吸収反応式)
MgSO3+0.5O2→MgSO4(酸化反応式)
ソーダ法……SOxの吸着剤に苛性ソーダ又は炭酸ソーダを用いた物。
反応後に生じた硫酸ナトリウムは紙パルプの蒸解に使える為パルプ工場で用いられた。
乾式法
石炭の煙路に粒状の活性炭を配置し、上記二種他重金属等の有害物質を吸着する。
SO2+0.5O2+H2O→H2SO4※
H2SO4+NH3→NH4HSO4※
※は吸着状態
活性炭がコークスの場合SOxを85%、NOxを20〜40%(産地により異なる)吸着し、加熱すると硫黄か亜硫酸ガス、窒素と水に分解する為黒色火薬のように爆発する事はない。
粉塵も処理前の1/12に減る為SLや軍艦のばい煙に悩まされる事も減るだろう。
NOxはアンモニアを添加した状態で二酸化チタン、パナジウム、タングステンで構成された触媒で反応させるのが一般的で80〜90%除去可能だが、史実以前に再現導入する場合日露戦争以降が限界※1。
触媒を使わなくても排ガスを850〜1000℃に加熱してアンモニアを添加すればそれとの反応で(アンモニアは石炭1t辺り2〜3㎏含まれているがそれでは不十分)NOxを40〜60%程度窒素と水に分解出来るが温度のモニタリングが必要。
効率は落ちるが汎用性や使い易さ、安全性を考えると活性炭処理が無難。
他の排ガス無害化方法として、70℃の排ガスを硫酸の入ったタンク下部から5〜6kPaの圧力で吹き込み、アンモニアと硫酸が硫安となって析出する方法①や、60℃の排ガスを1.5〜2kPaの圧力で硫酸の降り注ぐタンクに上部から吹き込み析出した硫安を下部から回収、上部からアンモニアを除去した空気を排出する方法②がある。(下図)
↓
60
①┌┘排気口└┐② ℃│排│↓
│──── │ │排│気│硫│
│ 硫酸 │ │ガ│口│酸│
│硫│↑│安│ │ス │
└─┘ └ ┘ \ 硫 /
70℃排ガス 安
↓
沈殿した硫安の除去が必要かつ高温高圧で硫酸と排ガスの触れる時間が長く、密度の軽い不純物が混ざりやすい①より回収しやすく高純度な硫安が得られる②が主流。
硫酸と排ガスの流量を連動させる必要があるがクランクの応用等で可能だろう。
石油、石炭は水銀やトランジスタに使うゲルマニウム等も含んでいるが、上記では水銀が反応しない為捕集出来ず、ゲルマニウムは沸点が二千℃を超える為石炭灰に残る。
※1……二酸化チタンとバナジウムは日本では砂鉄スラグから回収出来るが、チタンで35%程度と通常の半分近い純度の為平時、戦時を問わないどころか現在に至るまで産業ベースに乗った事はないので自給は不可能。
タングステンの利用例は1904年にフィラメントとして用いられたのが最古。
参考サイト
脱硫技術
https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=32
脱硝技術
https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=33
活性炭脱硫脱硝
(PDF)tex_tp1_02、100086844
バナジウム
https://staff.aist.go.jp/koji-abe/Table/V/V.htm
二酸化チタン
(PDF)66_03_01
wiki
タングステン、パナジウム、砂鉄
SLのD51で8tの石炭、20㎏の硫安が得られるものの事故や戦闘時の被害、煙害を考えるとSLや石炭燃料の軍艦には活性炭一択。