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磁石のIF

 戦時中、米国は日本の様々な技術や戦法を改良、拡大して勝利したが磁石もその一つ。


 どういう事かと言うと、日本が’34年に開発したNKS磁石鋼をGEが’38年に改良、43年に生産開始。


 レーダーやB29の銃塔等に使われ、日本もコピーしようとしたが失敗。


 そもそも改良前後で磁力が2割違う上に製法も異なり、回収した頃には材料が入手出来ない為改良前より磁石の性能が落ちていたので当然ではあるが。


 改良後の磁石は材料の頭文字(アルミ、ニッケル、コバルト)と構成元素数からアルニコ5と呼ばれ、戦中は5.5GOeを誇った※1。


 現在最強の磁石、ネオジムの1/9程度である。


 38年の時点で情報封鎖をしていたのか、日立モーターのカタログを見ると35年から55年までの20年間新型モーターは登場していない。


 開発環境を考えると量産配備出来るのは61年開発のストロンチウムフェライト(以下Sr)と70年開発のマンガンアルミカーボン磁石(以下MAC)が限界と思われる。


 それぞれ4、7GOeの磁力を持ち、フェライトの原型OP磁石は33年、MACの原型、マンガンアルミ(以下MA)磁石は55年に日本で発表されている上に戦前の日本の勢力圏で材料が採れる※2ので前倒し可能だろう。


 52年開発のバリウムフェライトは3GOeとSrより低く、MA磁石は6GOeだが品質が不安定で殆ど生産されなかったので除外。


 66年発明のサマリウムコバルト磁石(15GOe)は材料が高価で生産が69年なので間に合わない。


 70年代に入れば30GOeになるのだが……。


 68年生産の白金コバルトも同様(7割が白金、12GOe)


 70年開発、翌年登場の鉄クロムコバルトは改良後のアルニコ磁石とほぼ同じ製法で生産可能で、コバルトがアルニコの半分で済む為より安く作れるが、更に安く軽いMACと磁力が等しい為除外。


 83年開発のネオジムも無理。


 まあフェライト磁石は主な材料が酸化鉄の為全ての磁石の中で最も安く、貴重なニッケルやコバルトを使わない※3上に密度はアルニコ、鉄クロムコバルトの2/3と軽いのは利点。


 ただ低温減磁しやすいので航空機には不向き。


 MAC磁石はタングステンカーバイド(WC)やダイヤモンドでなければ加工が難しいが、アルミが70%を占める為フェライトの8割の重量で済む。


 40年代後半には銅板にダイヤモンドの粉末を吹き付けて回転させ、物体を切断する技術は日本にあったがダイヤその物の研磨技術はまだなかったのでそれも前倒しが必要。


 価格と資材、特性も考えるとSrとMACの住み分けが無難か。


 Sr磁石をモーターに使うと総重量の30%を磁石が占める為、磁力が同じ時MACや高密度のサマコバ以外の金属系磁石と比較して15%軽くなる。


 上記の通りSr磁石の磁力は戦時中のアルニコ5の倍なので重量は米の4割強になるだろう。


 MACに当て嵌めると2割強。


 61年に産業用ロボットが製造された頃は57年に開発されたアルニコ8(6.5GOe)が最強だが、それは実験室レベルの話でロボット登場より後の64年時点で市場に流通しているアルニコ磁石は6.5GOeが普通で越えているのはGEの9GOeだけだった。


 材料が入手しやすいMAC(適切な配合を見付けるのに2年かかっているが)でも代替可能。


 人工磁石開発前と最新式のモーターは性能が同じで大きさは1/13に減った。


 モーターの大きさは磁力の平方根に反比例すると見て良い。


 日本の航空機は出力と燃料の質の低さに泣いたが、例え磁力で並んだとしてもモーターの小ささでは勝てる。


 海に目を向けると、潜水艦蛟竜に搭載された600馬力の発電機重量が2,160㎏。


 33年に開発され、同じ馬力の甲標的より660㎏増えた。


 甲標的用モーターの2/3の大きさで同じ出力を持つ新KS鋼が40年頃から普及し始めていたが、開戦後は材料不足の為出力重量比は却って悪化している。


 蛟龍と同時期に開発された伊200型は5千馬力で出力重量比が同じとして18t。


 シーレーンが保たれていたら12.5tで済むのだが……。


 Srにすると7t未満、MACは5t未満に減る。


 需要を考えるとSrになる。


 伊200型の排水量は1070tなので、10t以上軽くなる。


 静粛性が上がるDD方式は米軍が大戦末期に投入したテンチ級で採用しているので、技術が底上げ出来ていれば実現可能だろう。


 もし前倒し出来たら、松型駆逐艦にモーター出力を従来の10kwから15kwに強化した物が搭載されるまで不評だった八九式高角砲を強化しても、史実の強化前より半分近く軽くなり省スペース化も出来る。


 ※1アルニコ5は42年にオランダで倍の4GOeに改良されたが製品化されるのは戦後。


 53年には7GOeに伸びた。


 ※2ストロンチウム、マンガン、炭素は国内、アルミはパラオで採れる。


 ※3史上初のフェライト磁石であるOP磁石はコバルトを含み、ニッケルは現代でも高周波ノイズフィルターにニッケル=亜鉛系フェライトを使う。


 参考文献


 日本の秘密兵器陸軍編、海軍編、空の技術、艦と人、幻の戦闘機、電子立国日本の自叙伝上


 参考サイト


 日立モーター


 https://www.hitachi-ies.co.jp/products/motor/100th_motor.html


 フェライト磁石とモーターの重量比

 https://www.dempa.co.jp/productnews/trend/h041014_1/h1014_1.html


 各種機関の出力重量比が載ったサイト。


 ガソリンエンジンは信頼性が悪い化物エンジン一種しか載っていないので注意。


 https://turbotrain.net/merit.htm


 磁石の歴史関連


 全般

 https://www.neomag.jp/mag_navi/history/history_20.html


 アルニコ

 https://www.neomag.jp/mag_navi/history/history_21.html


 フェライト

 https://www.neomag.jp/mag_navi/history/history_22.html


 白金コバルト、MA、MAC

 https://www.neomag.jp/mag_navi/history/history_23.html


 サマコバ

 https://www.neomag.jp/mag_navi/history/history_24.html


 wiki


 マンガンアルミ磁石、蛟龍、伊200型潜水艦、八九式高角砲。


 PDF


 永久磁石特集

70年代に実用化された物を採用したくないのは、開発環境の変化だけでなく69年を最後にレシプロ戦闘機が一線から消え、米海軍の機械式計算機がアイオワ級以外戦後の機器に更新される為。


光ファイバーや第二世代産業用ロボットも導入したかったが70年代の為断念。

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