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黒騎士団

 こういうことを言うと、兄が拗ねるかもしれないが、個人的には黒騎士団の鎧の色が一番カッコいい気がしている。

 アルバートと共に訓練所の前を通りながら、そんなことを思う。

 ちなみに現在の辺境伯である父は家を継ぐまでは、黒騎士団の団長をやっていたらしい。

 父はそのことに誇りを持っているらしくて、未だに自分の鎧は黒色で作らせている。

 ただ、兄たちの話によれば、夏のさなかでの黒色の金属鎧は狂気の沙汰でしかないという話だ。黒色鎧の兜で、真夏の盛りには卵が焼けるとかいう話もまんざら嘘でもないとか。

 いや、卵を焼けるというのはジョークであって、それで実際に調理したって話は聞いたことがないけれど。

 さすがに真夏の演習は、皮鎧に変えることもあるって聞いた。防御が落ちるのは痛いけれど、その前に暑さにやられてしまっては、シャレにならない。

「どうした?」

「いえ、黒騎士団の鎧の色、カッコイイですよね」

「フィリアは、黒色が好きなのか?」

 アルバートは少しだけ不服そうだ。

 皇族であるアルバートの鎧は白金色。銀に金の入った豪奢なものだ。非常に目立つ色合いで、あまり実戦的ではない見た目ではあるが、そもそも皇族の場合、実戦で活躍できる状況にならない方がいいとも言う。

「ええと。そうですね。兄達には言わないでください」

 私は苦笑する。

 長兄オラクは白、次兄ハワードは青の鎧を着ているし、三男マルスは紫の魔導士のローブだ。

 兄達に知られたら、いろいろ面倒だ。

「黒。黒かあ。俺の鎧は派手すぎだなあ」

 アルバートがなぜか悔しそうな顔をする。

「ええと。あくまでも騎士団の中での話ですし、私の好みの問題ですし」

 アルバートの鎧が格好悪いなどと思ったことはない。むしろ凛々しく神々しいほどだ。

「夏に暑いという難点はあるが、渋みはあるな」

 ふうっとアルバートが息を吐く。

「今の話は、黒騎士団の連中には言うなよ? フィリアが黒騎士団の鎧が好きだなんて聞いたら、奴ら舞い上がるから」

「そうでしょうか? ファザコン扱いされるのが関の山の気がいたします」

 父が黒騎士団の団長だったのは誰でも知っていることだ。今でも黒の鎧を愛用していることも有名である。

「フィリアの理想が、カルニス辺境伯ってことにしておくのは、悪くないと思う」

「へ?」

「生半可な覚悟がないと、声を掛けにくいだろうから」

 にこりとアルバートが笑う。

 ええと。

「私は別に父を理想と思ってはいないのですが」

 父は英雄で尊敬しているが、理想とは違う。

「父は家にいる時って、全然格好悪いですよ」

 辺境領にいる時は、正装なんてほぼしない。父は軍人上がりということもあって、普段着は兵士と変わらないし、無精ひげを蓄えて、髪はボサボサなんてのはざらだ。

 武術の訓練となれば、子供と言えども容赦はないし、しつけも厳しい方だと思う。

 男性の理想と言われて、父を思い浮かべるほど私は、ファザコンではない。

「ただ……母や家族を大事にしているところは立派だと思いますが」

「カルニス辺境伯は、愛妻家だものな」

 アルバートが頷く。

「両親を見ていると、恋愛をして結婚するって素敵なのだなあと思います」

 父と母は恋愛結婚。

 それも国際結婚だ。二人の結婚は、それなりにたくさんの障害があったと聞いている。

 ベリテタ王国の魔術師であった母がランデ―ル帝国の辺境伯である父に嫁ぐというのは、お互いが英雄なればこその難しさがあったらしい。

「母曰く、恋は障害が多いほど燃えるらしいです」

「それは同感だな」

 アルバートが私の顔を見て頷く。

 あれ? アルバートとエイミーの間に障害とかあっただろうか?

「これは殿下。今日は、おっと、そちらはカルニス嬢ではありませんか?」

 声を掛けてきたのは黒騎士団の団員だろう。さすがに黒騎士団の団員とはあまり面識がないので、名前はわからなかったけれど、私のことは知っていたらしい。

「ジャック。フォロス団長に話がある」

「了解です」

 ジャックと呼ばれた男は軽く敬礼をして、事務所へと案内してくれた。

 ジャック・ローエルという名だそうで、黒騎士団の団員の中では有数の剣の使い手だそうだ。

「団長、殿下がお見えになりました。カルニス嬢もご一緒です」

「やあ、殿下。わざわざのお越し、ありがとうございます。フィリアさまもお久しぶりですな」

 気さくな笑顔で出迎えてくれたのは、フォロス団長。

 フォロス団長は、父の部下だったこともあって、顔見知りだ。小さい時には遊んでもらったこともある。顎髭をもさもさに生やしていて、熊さんのようだ。

 実は童顔なことを気にして、髭を蓄えているらしい。母の話では、髭の下は『可愛らしい』顔をしているそうだ。

「今度の使節団の歓迎式でフィリアが補佐をしてくれることになった。使節団を迎えに行くときも同行する」

「さようでございますか」

 にこやかにフォロス団長が頷く。

「フィリアさまが同行してくださるのなら、うちの団の士気が上がりますね」

「ちょっと待て。俺の護衛だけではそんなに士気が上がらないのか?」

 アルバートが肩をすくめた。

「それとこれとは話が別です。カルニス辺境伯は黒騎士団の誇りですし、何よりフィリアさまはお美しいですからね」

「ありがとうございます」

 後半は社交辞令だけれど、父のことを皆が慕ってくれているのは素直に嬉しい。

「そうそう。フィリアさま、ちょうど家内が焼いたマフィンがありまして、お召し上がりになりますか?」

「まあ。イリスさまのマフィンですか! あ、えっと、いえ、その今日は遠慮させていただきます」

 思わず反応してしまってから、自分がアルバートの臣下としてここに来たことを思い出した。

「いいよ。団長、それは私も貰ってかまわないのだよな?」

「もちろんですよ」

 フォロス団長が頷く。

 結局。

 あれほどマカロンを食べてきたというのに、私はまたマフィンをご馳走になってしまうのだった。


 

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