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コンプレックス

 今日案内するのは、ドーナス・テセロ騎士団長と、ジョン・デンク書記官、それからマルゼル・ドナード騎士だ。

 デンク書記官はランデール語の文章を書いたり読んだりすることはできるのだけれど、『聞く』『話す』のは苦手らしい。本人曰く、『本を読んで勉強したから』だそうだ。そしてテセロ騎士団長と、ドナード騎士は片言しか話せない。

 演習場は宮廷から少し離れた場所にあるので、馬で移動する。

「実は今日は模擬戦をすることになってね。青騎士団だけでなく、赤騎士団も参加する」

『──だそうです』

 アルバートの言葉をベリテタ語で繰り返す。

『それは楽しみですね』

 テセロ騎士団長が頷いた。

「フィリアも赤騎士団は初めてか?」

「そうですね」

 アルバートに尋ねられ、私は頷く。

 兄ハワードのいる青騎士団、フォロス団長の黒騎士団には知人も多い。だけれど、赤騎士団とは縁がなかった。

「ニック・スルド団長とはかろうじて面識はありますが、あまりお話したことはないです」

 赤騎士団のスルド団長は、ハワードとほぼ同期。兄より少し年上だそうだけれど。

 兄のハワードが美形に見えなくもないというレベルに対して、ニック・スルド団長は正真正銘の美形だ。しかも侯爵家の次男坊でもある。

 それもあって赤騎士団の演習には令嬢たちがたくさん見学に来るという噂だ。

 今日はベリテタの使節団が見学することになっているから、さすがに観客はいなかった。

「それにしても、急ですね」

 昨日までは黒騎士団の練習を見学するだけと聞いていたのに、突然演習に変わるとは思っていなかった。

「騎士団同士の演習は少なからず観客がくるものだ。人が多いと警備が大変になる」

 つまり、警備の関係で『突然』決まったことになったらしい。

「赤騎士団は人気ありますものね」

 青騎士団と黒騎士団の演習ならそこまでならないような気もする。

「まさか、フィリアもスルドがかっこいいと思っているの?」

「さあ? よく知らないので。顔立ちはお綺麗でいらっしゃいますが」

 騎士のかっこいいは、やっぱり強くてなんぼな気もする。

 年に一度開かれる武闘会では、ハワードかオラクのどちらかが優勝していて、強さではカルニス兄弟のほうが上なのだ。もちろん、団長に必要なのは、個人の強さだけではないけれど。

「まあ、カルニス家に生まれたら、『騎士』だというだけで、かっこいいにはならないよな」

 アルバートは苦笑する。

「そもそもフィリア自身が強いから」

「買い被りです」

 確かに普通の令嬢と違って、剣も魔術も学んだから、少しは『強い』のかもしれない。

 だけれど私は何もかもが中途半端だ。

「フィリアのその自己評価の低さはいったいなぜなんだろう」

 アルバートが大きく息を吐く。

「カルニス家で虐待されていたわけでもないし、周囲の人間だって、フィリアのことが大好きなのに」

「何をやっても家族の誰にも勝てなかったからですよ」

 何となく悔しくて、馬を走らせるスピードをあげた。

 アルバートの言う通り、私は周囲の人間に恵まれている。

 ランデール人には珍しい容姿であるにもかかわらず、そのことで辛い思いをしたことはほとんどない。

 ただ、だからと言って人と違うことを気にせずに生きてきたわけでもなかった。

 兄たちは私が弱いからと言ってバカにしたわけでもない。

 だけど。

 私だって強くなりたかったし、本当は兄たちのように軍や宮廷で働きたかった。

「フィリア、速度を落として」

 アルバートが馬を寄せてきた。

 振り返ると使節団の三人と距離が開いてしまっていた。

「……すみません」

 馬を止めた。

「ごめん。俺が余計なことを言った」

「……殿下のせいではありません」

 アルバートはひどいことを言ったわけではない。

 ただ私の心の底にあるコンプレックスを刺激しただけだ。

 それに今は仕事中。それを忘れてしまうなんて、絶対に許されることではない。

「こういうところが、だめなんですね」

 思わずため息をつく。

「だめとは言っていない」

 アルバートは首を振る。

「三人とも騎馬は巧みだ。心配する必要はなかった。気にするな」

 そう言われても、あっという間に距離を詰めてきた三人の顔を見るのが少し怖かった。

 

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