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アルジェナは知っている

「フィリア」

 陛下の部屋から退出すると、後ろからアルバートに声をかけられた。

「スパルナの様子を一緒に見に行かないか?」

「あ、はい」

 そういえば、あのあと、まだ様子を一度も見ていない。大丈夫だとは聞いたけれど、やっぱり心配だ。

「フィリア、お前は気まずいとかそういう感情はないのか?」

 呆れたようにオラクが私を見る。

「え?」

 気まずい?

 言われてみれば、アルバートと二人きりは少し気まずいというか、何を話したらいいのかわからない。でも、そんなことより、スパルナの様子の方が気になる。

「まあいい。殿下、私も一緒に行きますので」

「構わない」

 アルバートが頷く。

「その方がフィリアも気楽だろうから。少し残念だけどね」

「そもそも殿下が早急なのがいけない」

 ふうっとオラクがため息をつく。

「求婚は婚約を解消した後ですべきだと父は申しましたが、普通なら間隔をおくべきでしょう。フィリアの心の整理がつかないのは当然です」

「気持ちが急いてしまったんだ」

 アルバートは苦笑する。

「だって、俺はもう何年も前からカルニス家に結婚したいと申し出ていたのだから」

「でも、そんなそぶりは全然感じなかったのですけれど」

 アルバートが何を言っても、エイミーの婚約者だと思っていたからなのか、心当たりは全くない。

 ずっと前から好きだと言われても、本当なのだろうかって思ってしまう。

「俺は婚約していたし、それにカルニス伯爵に婚約が解消できるまで、絶対にフィリアに気づかれるなと言われていた」

「お父さまに?」

「父はフィリアが殿下の気持ちを知ったら、罪悪感を感じるだろうと言っていた」

 オラクが私の頭をそっと撫でる。

「フィリアはデリンド公女のことも崇拝していたから」

「はい」

 エイミーに好きな人がいると聞いても、まだ納得できていない。

 アルバートとエイミーを私が引き裂いた気もしている。

「私……悪女って呼ばれちゃうかもしれませんね」

「悪いのは俺だ。フィリアは悪くない」

「そうです。悪いのは全面的に殿下です」

 オラクがきっぱりと言い放つ。

「内政が落ち着いたから、外交に有利な縁談をという方向にもっていこうとしているのは理解できますが、フィリアはベリテタ人ではありませんからね」

「ベリテタ王国は、カルニス家に敬意を持っている」

 私たちは小屋のある屋外に出た。虫の声が聞こえてくる。

 小屋の前には、衛兵が立っていた。あんなことがあったから、警備が厳重になったのだろう。

「俺は別に政治的な意味なんていらないが、意味を持たせたい人間を説得する必要はあるからな」

 アルバートは言いながら、小屋の扉を開いた。

「アルジェナ」

「ぴっ」

 アルバートの声に反応して、アルジェナが小さくなく。ただ、いつもより力がない。

 この前のように駆け寄ってくるわけではなく、アルジェナは小屋の片隅で小さくうずくまっていた。

 あんなことがあったあとだ。元気がないのだろう。

「フィリア、来て」

 アルバートがアルジェナの頭をなでながら、私を呼ぶ。

 思わずオラクの顔を見上げると、仕方ないなという顔をされた。オラク自身は入り口から動かないみたい。

 そういえば、マルスは、主との絆ができる前に他人が触るのはダメだと言っていた。

 オラクもそう思っているのだろう。

「アルジェナ、元気になってね」

 私が近くに行くと、アルジェナが「ぴっ」と優しくこたえる。

 そして、私に頭をなすりつけてきた。

「アルジェナはフィリアのことが大好きなんだな」

「……すみません」

「いいさ。俺と一緒だ。主に似てくると思えば、不思議ではない」

 優しく微笑まれて、思わず胸がドキリとする。

「ぴぴっ?」

 赤くなったであろう私の顔がふしぎだったのか、アルジェナは少しだけ首を傾げた。

 どうして? と言っているかのような瞳に私が映っている。

「いくら可愛いからって、皇太子のスパルナに懐かれるなんて……逃げ場がますますなくなるぞ。腹黒皇子め」

 オラクがそう言って、何故か頭を抱えていた。






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