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晩餐会 3

 しばらくして、音楽隊が音楽を奏で始め、ダンスが始まった。

 いつもなら私は、兄の誰かと踊るのだけれど、今日のファーストダンスは、主賓のグルナ。

 そんな要人となぜとも思うけど、私はベリテタの英雄の娘で、両国の友好の証でもある。

「一曲お願いいたしますね」

「喜んで」 

 グルナの差し出す手に手をのせ、私はダンスの輪に入っていく。

 一礼をして、ダンスを始める。

 ブロウ・グルナ公爵は、ベリテタの王弟でもあるせいか、エスコートがとてつもなく気品があって、丁寧だ。そして、ダンスもうまい。

「お上手ですね」

「フィリアさまがお上手なのですよ」

 にこりと笑うグルナ。グルナは、決して美形ではないのだけれども、素敵な笑顔で、何とも思っていないのに、思わずどきりとする。

 グルナは妻子持ちで、愛妻家で有名だけど、ベリテタの社交界で、絶大な人気をもつらしい。しかも男女を問わずだ。

 なんとなくわかった。いわゆる人たらしってやつだろう。

 一曲踊り終えると、私達は、そのまま輪から外れ、グルナは再び、他の人と話し始めた。

 私はしばらく休んでいいみたいなので、果実水をもらって、ダンスの輪を眺める。

「あれ?」

 エイミーとジニアスが踊っていた。

 二人が踊ることは珍しいわけではないけれど、エイミーはたいていアルバートとファーストダンスを踊ることが多かった。

 エイミーもジニアスもダンスがとてもうまくて、うっとりしてしまうほど素敵だけれど、どうしてアルバートではないのだろう。

 そういえば、今日のエイミーのエスコートはジニアスだった。

「フィリア、ちょっといいかな」

「アルバートさま?」

 後ろから突然声をかけられて、私はびっくりした。

「ええと、でも」

 エイミーと踊っていないのに、私と踊るのは問題だ。

「ダンスじゃない。父上との面談の前に、少し話がある」

 スパルナの雛を助けたことの『褒美』の話だろうか。

「はい」

 事前に何か話を聞いておかなければいけないことがあるのかもしれない。

 陛下と会って話す作法についてとか?

 そもそも私は、辺境生まれの辺境育ち。教育は受けてはいるけれど、田舎者には違いない。

「こっちだ。大丈夫、オラクも呼んでいる」

「はい」

 つまり二人っきりではないってことだ。長兄のオラクが一緒ってことは、保護者枠かな?

 アルバートの後について、私は会場の外にある休憩室の一つに入った。

 部屋には、ソファがあり、そこに兄のオラクと、デリンド公爵が座っていた。

「フィリアは、そこに」

「フィリア、こっちだ」

 兄のオラクが立ち上がり、アルバートのさした場所ではなく、私を自分の傍に招く。

 正直、迷ったが、この場合、兄の言うことを聞いておく方が経験上良いのだ。皇太子の意に反するのは不敬ではあるのだけれど。

「……相変わらずだな」

 アルバートは過保護な兄の様子に苦笑する。

「それで、いったい何の用ですか?」

 オラクが不満げに、皇太子に問いかけた。

「単刀直入に言うと、実は、エイミーとの婚約が解消になったのだ」

「え?」

 私と兄は驚きの声を上げる。

「そうだな。デリンド公爵」

「はい。我が娘エイミーは、義理の息子であるジニアスと婚姻を結びたいと言い出しまして」

 デリンド公爵は申し訳なさそうに頭を下げた。

「もともとは、政治を安定させるために結ばれたものでしたが、昨今、そのような政治的な婚姻をせずともよい状況になりました。国内を安定させるための婚姻より、国際的な意味のある婚姻の方が良くなってまいりましたので、娘のわがままではありますが、解消を申し出ることにいたしました」

「エイミーさまが婚約の解消……」

 衝撃的過ぎて頭がぐるぐるする。

「俺とエイミーの間には友情はあるけれど、それだけだった。情勢が変わったのだから、エイミーは自分の好きな相手と結ばれるべきだ」

「……それは、そうかもですが」

 でも。

 アルバートとエイミーは誰が見てもお似合いだった。

 それが、どうして。

「実は俺も何年も前から焦がれる相手がいて、心はエイミーを裏切っていた」

「殿下!」

 オラクが鋭い声を上げる。

「宿題を片付けたからいいという問題ではありません」

「宿題?」

 なんの話をしているのだろう。

「俺は何年も前から、フィリア、君と婚約したいとカルニス伯爵に申し込んでいた」

「え?」

「父は、カルニス伯爵が良しというまで、エイミーとの婚約は解消できないと言っていて、伯爵は、俺の婚約が解消されない限り駄目だと言い張り、長年堂々巡りを続けていたのだ」

 アルバートの目は真剣で、嘘を言っているようには見えない。

「……でも」

 アルバートは立ち上がり、私の前に座って私の手を取る。

「フィリア。六年前、辺境領で君に会った時から、君が好きだった」

 その瞳に私の姿が映る。

 どうしたらいいのかわからない。

 アルバートのことは好きか嫌いかと言えば、好きだ。

 でも、これまで、絶対に好きになってはいけない人だと思っていた。

 エイミーの婚約者だったのに、私に求婚していたとか、好きだったとか言われてもよくわからない。

「……少し時間をください」

 ようやく言えたのは、それだけだった。



 

 

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