晩餐会 2
陛下への挨拶が終わると、グルナと一緒に招待客と話しはじめたので、私は他の使節団の人たちのところへむかった。
グルナに通訳は必要ない。
本当に必要な人たちは、別にいる。
もっとも、話せないといっても、片言なら会話可能で、意思疎通が全くできないレベルの人はいないのだけれど。
『こちらが、キノコの蒸し物になります』
立食なので、すでに並べられた料理を一つ一つ説明していく。
ベリテタとランデールでは食文化が違う。
どちらの料理もおいしいけれど、食べなれていない料理はなかなか手が伸ばせないものだ。
『赤の小魔術師どの、こちらは』
使節団の一人、ヴァーナスが指をさす。
最初は、カルナス嬢だったのに、いつの間にか、私の呼称が母の二つ名に似たものになっている。
兄のマルスの赤い髪の魔術師なのだから、母の名を継ぐなら、兄の方がふさわしいと思うのだけれど。
『そちらは、ローストした山鳥です。あちらは旬の野菜のスープでございます』
ほとんど料理の説明しかしていないけれど、この役目をもらってから一番『通訳』している気がする。
よかった。少し仕事ができて。
『おおっ、これはベリテタのおにぎりですね』
『はい』
おにぎりはおもてなしの料理とは違うけど、立食形式の場合、とても食べやすいということで選ばれた。
それに遠い異国の地に来たのだから、気取らない母国の味でほっとしてもらえたら、嬉しい。
「フィリア、頑張っているわね」
「エイミーさま」
声をかけてきたのは、エイミー。
今日は大人っぽい黒のドレスを着ている。
隣にいるのは、やはり黒のフロックコートのジニアス。
相変わらず仲がいい。でも、なんだろう。
前より、雰囲気が甘い?
ジニアスはエイミーを恋人みたいな距離でエスコートしている。
エイミーとアルバートが一緒にいた時よりずっと近い。
「元気そうでほっとしたわ。倒れたと聞いて心配していたの。顔を見に行きたかったのだけれど、ちょっといろいろあって」
「ありがとうございます。ご心配をおかけいたしました」
「でも、無理しないでね。フィリアは頑張りすぎるから、心配よ」
エイミーが私の頬に手を当てる。
「先ほど、カルニス主席宮廷魔術師にお会いしましたが、大変心配しておられました」
「マルス兄さまが?」
「はい。それから、カルニス嬢の対応をとても褒めておいででした」
「……なんかすみません」
ジニアスの言葉に、私は思わず恥ずかしくなる。
我が兄たちは、身びいきが激しい。
心配はともかく、他人に『妹偉い』のアピールは、控えめにしてほしいものだ。
主席宮廷魔術師であるマルスが褒めたら、私がものすごい魔術師みたいに思われてしまうし、世間に兄バカだと宣伝しているだけの気がする。
まあ、カルニス家の三人の兄たちが、私に甘いのは既に有名だから、みんな話半分に聞くだろうけれど。
「フィリアは、褒められることにもっと慣れたほうがいいわ」
エイミーがため息をつく。
「そうですね。カルニス嬢は自分が規格外だということを自覚すべきです」
「本当だよ」
いつのまにか私の横にアルバートが立っていた。
「聖獣を力で圧倒できる魔術師なんて、この国にいったい何人いると思っている?」
「そこそこいると思うのですが」
少なくとも、マルスや母なら、私より簡単に制圧できただろう。
「カルニス家では普通でも、世間では普通じゃないのよ?」
エイミーが苦笑する。
「カルニス家の面々が、国の要職に就いているのには理由があります。カルニス嬢が望めば、宮廷魔術師になることは簡単ですよ」
「あら、フィリアはお勉強もできるのよ。官吏になることだってできるわ」
なんだろう。これって、噂に聞く褒め殺し?
ここで有頂天になったら、すべて台無しになるってやつではないだろうか。
「私には向いていないって言われてますので」
家族の本音を言えば、私を辺境領から出したくなかったのではないかと思う。
エイミーの相談役という、友人のような仕事だから、両親は私が帝都に行くことを許してくれた。
「フィリアは自分が思っている以上に、素晴らしい力を持っているのよ。信じて」
エイミーは私の手を取って、私を見つめる。
「だから……恐れないで。そして……私を許して」
「え?」
どういう意味かわからず、思わず聞き返したけれど、エイミーは微笑むだけで、それ以上何も言わなかった。




