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エッグノッグ

 目を覚ますと、地べたでなく、ベッドの上だった。

 着ていた衣装はそのままで、窓の外を見ると、それほど時間はたっていなさそう。

 自分に与えられた部屋ではなく、客室のようだ。かなり広い部屋で、ベッドから離れた位置で城のメイドが何か作業をしている。

 身体を動かそうとすると、少し頭が痛いのと、体の冷えを感じた。

 急速に魔力を使ったことで、一時的な魔力切れをおこしたのだろう。

 魔力が切れると、意識を失い、体温が低下する。

 たいていの魔力ぎれは、眠ることで解消されるので、大きな問題ではないのだが、例えば戦闘中にやらかすと、周囲に迷惑をかけるし、生命の危機にもなったりするから要注意だ。

 今回はスパルナの魔力が暴走したのを止めただけだったから、そこまで迷惑をかけていないと信じたいが、

やってしまった感がぬぐえない。

「あの」

 私はメイドに声をかけた。

「は、はい! お目覚めになられましたか!」

 突然声をかけたので、メイドは驚いたようだった。

「式典はもう終わったのでしょうか?」

「まだ……じきに終わるでしょう。事件があって、しばらく中断していたようですが」

 騒動が収まった後、片付けや、安全確認などが行われ、そののち、予定通り執り行われているらしい。

 少し気になるものの、私がいてもいなくても、大きな問題にはならないだろう。

 寂しいけれど、それが現実だ。

「何か温かいものをお持ちいたしましょうか?」

「ええ。お願いできますでしょうか?」

 図々しいけれど、体の芯が冷えていて寒い。

 魔力切れのあと、一番手っ取り早いのはアルコールだけれど、温かい飲み物を飲むだけでもずいぶんと楽になる。

「はい。では、ご用意いたします」

 頭を下げ、メイドが部屋から出ていった。

 再会して行われたと言うことは、アルジェナは大丈夫だったのだろう。

 少しほっとする。

 それにしても、あの場面では仕方ないとはいえ、封印するために魔力を使い切ってしまったのは、かなり情けない。

 魔力を使い切ると魔力量が増えるということで、訓練ではやったことは何度もあるけれど、ああいう場面でやってしまうのは、よくない。

 兄のマルスだったら、きっとこんな醜態をさらすようなことはなかったのだろうけれど、近くにいなかった。きっと皇帝たちを守るためにシールドを張っていてそれどころではなかったのだろう。

 なんにしても、自分がまだ未熟で味噌っかすだと思いしらされる。頭がいたいせいか、感情がどんどん下向きになっていく。

「フィリア」

 ノックの音がして、アルバートが入ってきた。

 なんと、お盆を持っている。

 飲み物を頼んだものの、まさか皇太子であるアルバートが運んでくるとは思っていなかった。

「殿下?」

「エッグノッグだ。温まるよ」

 アルバートに差し出されたカップを手に取った。

 とても温かい。

 エッグノッグは、ミルクに卵と砂糖を入れ、少しお酒をたらした冬の飲み物。

 微かにシナモンの香りがする。

「甘くておいしいです」

 冷えていた体が温まっていく。

「マルスが言うには、魔力切れには最強に効く飲み物らしい」

 アルバートが微笑する。

「カルニス家は下戸が多いから、酒をそのまま飲むより、こっちの方がいいらしいね」

「はい」

 兄のマルスの言う通りだ。

 それに、これなら年齢関係なく飲むことができる。

「フィリアのおかげで、アルジェナも無事だった。アルジェナに柑橘類を与えた人間は捕獲した。グリスル帝国の連中とつながっていたようだ」

「ということは、故意に行われたということでしょうか?」

「ああ」

 アルバートが頷く。

「スパルナの魔力暴走がどの程度のものか把握はしていなかったようだが、少なくとも、暴走したスパルナをこちらが殺傷処分にせざるを得ない状況にしたかったのだろう。たとえ事情があっても、そのようなことになれば、ベリテタは不服に思うだろうし。うまくいけば、陛下に傷くらいつけられるかもしれないと考えたのだろう」

「ひどいですね」

 スパルナは神獣と呼ばれるほど、魔力を持っている。

 そんなスパルナが暴走すれば、ただでは済まない。

 けが人だって出るかもしれないし、何よりベリテタとの友好に傷がつく。

「フィリアのおかげだ」

 アルバートはそう言って、私の手に手を重ねる。

「ありがとう」

「そんな。魔力切れで倒れるとか、超カッコ悪いですし……」

 アルバートの手の感触に胸がドキリと音を立て、私は思わず俯いた。


 

 

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