プリンアラモード
食事の会場は、月の間で行わる。
明日の歓迎式典よりも、かなりこじんまりとした会場なのは単純に参加人数が少ないから。
今日は使節団の他は、各騎士団の団長、親衛隊の団長、主席宮廷魔術師と皇太子、宰相、各大臣が参加することになっている。
騎士や魔術師は、明日の歓迎式典では警備に回る。だから顔見世ということらしい。
三男のマルスは、主席宮廷魔術師。つまり私以外の兄達みんなは、普通に参加する要職にある。
今回私が参加する建前は『通訳』。それとベリテタの英雄だった『赤の魔術師』の母にそっくりだからという、ちょっと意味不明な理由だ。
会場に入ると、まだ皇太子であるアルバートはいなかった。
「フィリア、こっちだ」
手を挙げて私を呼んだのは、一番上の兄オラクだ。
「……オレもいるっつうに」
マルスが口を尖らす。
「おまえはあっちだろ?」
オラクが少し離れた椅子を指さす。
どうやら、席次が決まっているらしい。
私の席は、オラクとハワードの間。その隣はフォロス。
ちなみに対面の席は、使節団のブロウ・グルナ公爵。
カルニス家が三人横並びなのは、たぶん、兄達がごねたのだろう。
一人だけ離れたマルスが少しかわいそうだ。今日は私のエスコートはマルスだったはずなのに。
このあたり、兄の力関係なのだろう。
なんといっても、オラクは強い。たぶんカルニス兄弟の中で、一番強いだろう。一対一なら、ひょっとしたら父より強いかもしれない。
騎士団を引きいるのではなく、皇族の警備を行う親衛隊に入ったのは、英雄である父とは違う道を歩きたいからだそうだ。とはいえ、いずれは親衛隊をやめ、辺境伯の爵位を継ぐつもりで入るようだけれど。
外見で言ったら、オラクよりハワードの方が父に似ているけれど、世間の期待は、長兄の方にかかっている。むろん、団長になったハワードも期待されているのだけれど。
マルスも『赤の魔術師』の息子の名に恥じない魔術師だ。
そう考えると、やっぱり私が一番の味噌っかすである。
それにしても、カルニス家が厚遇されすぎだよなあって思う。
ここには、大臣クラスまで呼ばれているから、親子で参加している家もあることはあるのだけれど、カルニス家は四人も参加している。ちょっとした派閥みたいだ。
とはいえ、カルニス家は、脳筋の集まりなので(マルスは魔術師だけど、力至上主義だから似たようなもの)政治的に何かを企んだりとかいうのは、みんな不得手だ。
まあ、だからこそ、重要ポジションにたくさん入っても、あまりみんなに問題視されないのだろう。
やがて、アルバートがエイミーをエスコートして入ってきた。
アルバートは皇族の正装で、白に金糸で刺繍の入った豪奢な服だ。
エイミーは淡い青色のドレス。裾に細かい花が刺繍されている。とてもエレガントだ。そういえば、デリンド家も三人参加だ。エイミーの席はアルバートの隣ではなく、宰相である公爵とジニアスの真ん中。家族でまとまるルールなのかな?
でもマルスは離れた席なのにと考えていると、アルバートの挨拶が始まった。
「……ということで、今日のところはお疲れでしょうから挨拶はこのくらいで」
挨拶が終わるとグラスにお酒が注がれる。ちなみにカルニス家は全員下戸なので、注がれるのは果実水。色めは似ているので、一見わからないように配慮されている。
オラクやハワードが酔って吐いたり暴れたら、さすがに迷惑だ。
乾杯をすると食事が運ばれてきた。
今日のメインはローストチキン。添えられているのは、同じくローストした玉ねぎと人参。
お野菜が本当に甘くて美味しくて、もっと食べたいくらいだった。
最後のデザートは、プリン!
プリンだけじゃなくて、りんごやバナナ、桃にメロンが添えられ、しかも甘いクリームで飾られている。
「美味しい!」
「今日のデザートはプリンアラモードですわ。皆さまが喜んでくださると嬉しいわ」
にこりとエイミーが話すのを聞いて、私もベリテタ語で話す。
「このプリンアラモード、美味しいですね」
グルナが流暢なランデール語で微笑む。
私は本当に必要なのかなと思ってアルバートの方を見ると、何故かアルバートは楽しそうに私を見ていた。
、