襲撃
連載再開します。
翌日。私たちは帝都に向かって出発した。
スパルナを輸送するから、ここに来た時より、ゆっくりだ。
「帝都につくのは夕刻になるな」
アルバートが呟く。
普通なら、昼には着くけれど、やはり生体の輸送は時間がかかる。
もっとも、式典など行事ごとはすべて明日の予定なので、今日は帝都に入ったら、夕食会こそあるものの、そこまで大きな行事日程は組まれていない。
何しろ、スパルナがベリテタ王国以外で飼育されるのは初めてのことだから、使節団も帝国も慎重だ。
森に入ると、道が少し悪くなるので、よりゆっくりと進むことになった。
とてものどかな光景だけれど、騎士団のメンバーは緊張している。
森は視線が通りにくい。
小回りの利かないスパルナのゲージをのせた馬車は、目立つ。
もし本当に、グリスル帝国が襲撃を試みるとしたら、一番可能性が高いのはこのあたりだ。
私はアルバートのすぐ隣でスパルナのゲージの前の位置だ。
つまり、一番護られている場所。
私は騎士に守ってもらう必要はないけれど、騎士より強いかと言われれば強くない。足手まといになる可能性が高いからこの位置なのだろう。それに、鎧を着ていないから、装甲がゼロだというのもあるだろう。
「襲ってくるでしょうか?」
「うーん。どうかな」
アルバートは首を傾げる。
「フィリアならどこで狙う?」
「私なら、この先の上り坂で矢か魔術で攻撃します」
この先にある緩い上り坂は、ややカーブしているために、先が見えにくい。
木の上に潜んで、上から攻撃する。
前後左右は鉄壁の守りだが、上からの攻撃には弱い。
もちろんスパルナの檻の天井部分は板で覆われているけれど。
「そうだね」
アルバートは頷く。
その時、一瞬だったけど、木々の隙間から銀の光が見えた。森の中には、あんな風に光を反射する者はないはず。おそらく矢じりが太陽の光を反射したのだ。
そして、一本の矢が放たれた。それを合図にばらばらと矢が降ってくる。
「あたりだな。全員、戦闘態勢をとれ」
「殿下、私に任せてもらえませんか?」
「どうするんだい?」
「吹き飛ばします」
「わかった」
アルバートの許可をもらったので、私は風の魔術の詠唱を始める。
うちの兄弟で、一番魔術が得意なのは、三番目の兄であるマルスだ。その次は私。
兄より劣るとはいえ、ちょっとした術なら問題なく使える。
「風よ!」
私は隊の先頭まで馬を走らせると、前方に向けて強風を吹かせた。
嵐並みの風に、さすがに矢は勢いを無くし、木々はゆれ、木の葉が舞う。
やがて、矢がとんでこなくなった。
「おい。フィリア、さすがにもうやめとけ」
ハワードが私の肩をポンと叩く。
「人が吹っ飛んでいる」
「へ?」
びっくりして術を止める。
見ると、なんか木とか人とか、倒れていた。嵐が去った後のようだ。
まあ、嵐並みの風を吹かせたから当然と言えば当然だけれど。
「潜んでいる奴がいないか、あたりを捜索しろ。倒れている奴は拘束するんだ」
アルバートの声が飛び、騎士たちが前に走っていく。
もう矢も魔術も飛んでこない。
潜んでいた者もいたことはいたが、すでに戦意を喪失していた。
「相変わらず、規格外だなあ、フィリアは」
アルバートの声はどこか呆れたような響きがある。
「マルスお兄さまなら、地形が変わってました。私なんてまだまだです」
手加減することもできたけれど、どの程度やればいいのかがわからない。
「そうだな。マルスなら、森の木が全部ふっとんだな。フィリアの術はまだまだ可愛い」
ハワードがそう言って、私の頭をなでた。
「つくづく、カルニス家を敵にしたくはないな」
アルバートが苦笑する。
「私は、殿下の敵にはなりませんよ?」
思わずそう言うと。
「うん。そうだな」
アルバートはなぜか嬉しそうに微笑んだ。