8 『情けは人のためならず』
さて出発――と行きたいところだが、留守番の件はどうしようという話。
垣根も扉も大きく高くてセキュリティは万全そうだけど、鍵を開けたままにしてしまってはそれらは意味をなさなくなる。
鍵閉めて行くべきだけど、当然カラアゲさんは私に鍵なんて渡してないわけで。
――金属製の大きな扉は、鍵がかかってる。カラアゲさんがかけたのだろう。
内側から鍵を開けることはできそう、でも出る時に再度閉めないと意味ないよね。
どうしよう……。
……となるともう、あの扉を開けずに飛び越えるしかない。
飛び越えるとは言っても、2階建てのお家の屋根ぐらい高いし、普通に考えればあんなのバスケの選手だって届くわけない。
でも私、気づいちゃったんだ。
どうやら私の体、前世の人間の体より身体能力が上がってるっぽいんだよね。
昨日の大きな狼からの逃走劇を今でも覚えてるけど、普通に考えて10歳くらいの女の子の脚力で狼を振り切れるわけない。腕立て伏せとかも簡単にできたし、きっとこの直感は正しいはず。
それで、走るスピードが上がってるということは、脚力が上がっているということ。脚力=ジャンプ力!
そんな安直な連想ゲームで、飛び越えられそうな気がするわけだ。
――マントのポッケに手帳が入ってるのを確認、靴ひもがちゃんと締まってるのを確認、
よーし、助走をつけて……
ジャアアアアーーーーーーーンプ!!!
……あっ、くっ、
あーーーーーーっっ、もうちょっと、あと50センチだった!
いやー、それにしても結構飛べた。THE ATHLETE(スポーツ番組、テレビ○日より2035年から不定期放送)に出られたら結構いい線行くんじゃないかな。パーフェクトクリアも狙えるかも。
出られる望みが限りなく0になった番組のことを気にしていてもしょうがない。このそびえ立つ金属の垂直の壁を越えなければどうしようもないのだ。
はあ、もうちょっとなんだけど、もう一度チャレンジしてジャンプ力が届くほど上がるとは思えない。結構全力を尽くしてやったから、これ以上工夫のしようがないというか。
くうう、本当にもうちょっと、ロープか何かでひっかけることができれば……。
……。
……。
ロープあるじゃん。
広葉樹の森の中、空高く伸びる木よりも伸びる触手が。
あれに比べれば、この扉の高さなんて大人に対する幼稚園児のようなもの。
――あ、今私ワンピース着てるんだった。
これでは背中から触手は伸ばせない。せっかくカヌレさんが用意してくれたのに、破くわけにはいかないからね。
うーん、伸ばせれば余裕で届くんだけどなあ。
……背中からしか伸ばせないなんて、誰が決めた?
収まりがいいから背中からにしてるだけで、本当はどこからでも触手を出せるはず。
花畑で根っこを引っこ抜いた時も背中からだけど、根っこは本来は台座からだ。つまりその気になれば触手を出す場所を変えられるんだ。そもそも触手が暴走した時も、体中の至る所から出てたし。
じゃあどこから出そう? 服を破かなくて、ロープのように腕で掴みやすい場所……。
肩口かな? そこから袖伝いに伸ばしていって……でも太さ間違えるとビリビリか……。
……いっそのこと、手のひらから?
うんそれがいい。触手を出した方の手で掴むのは難しいけど、反対側の手でたぐり寄せれば行けるかな。
では、とっくに完結した漫画だけど、
ゴ○ゴ○のォ〜〜〜〜っっ……触手っ!!
……そんなに気合を入れなくても、余裕で扉の上のへりを掴めたよ。
触手の先はツルツルしているように見えて結構摩擦力があって、出っ張りのところをしっかりと掴むことができた。
右手から出したから、左手で掴んで垂直登攀……できるかなあ。
よし、左手でガッチリ掴んで、扉に垂直に脚を突っ張らせて、
全力で引っ張るっ!
ズルッ
……触手が、引っ込んだ。
あれ、もしかして、触手で扉の出っ張り掴んだまま引っ込めれば、簡単に登れる?
本当にゴ○ゴ○じゃん。あっちは縮むヤツで、こっちは引っ込めてるからシステムが違うけど。
ズルズルズル……
わー軽々と登れる、私の体ってめっちゃ軽いー。
気合入れた私がバカみたいだった。
というか異世界生活3日目ともなって、自分の体のことまだ全然知らないじゃん。
今まで余裕のないこと連続だったから……いやあの花畑にずっと居たら余裕バリバリあったよ。結局は根っこを引っ込めて即出発した私の選択次第だったというわけか。
そして今も、カラアゲさんの団員証届けるためにこうして登ってるわけで。いろいろ詳しく調べるのは明日以降になりそう。
さて、無事に扉のてっぺんについたぞ。
――はっ、周りに人は!?
……いない。よかった、カラアゲさんの家から見知らぬ少女が出てきたら大騒ぎだもんね。
というか危なかった。もっと人の気配を確認してから行動するべきだったよね。
高い垣根に囲まれてよく見えてなかったけど、カラアゲさん家の周りにはレンガ造りの集合住宅みたいな建物が乱立していて、住宅街なのだと予想される。本当に人がいなくて助かった。
誰かに見られる前に、素早く降りないと。手のひらからの触手を扉の逆側にかけて、少しずつ伸ばして行く感じで……。
――あっ、滑った!!
ドシャッ
あ……いた、たたあ。背中にきた……。ジンジンする、内臓が揺れたような感覚で少し吐き気がする。
しっかり両足で着地しないと、痛い目見るね。
……よし、大分痛みが引いてきた。すぐにフードを深くかぶって、立ち上がろう。
……冷静に考えて、あの高さから落ちてジンジンするだけで済むというのも変な話だ。良くて骨折、打ち所が悪かったら死んじゃうかも。
植物の体になって、身体能力だけじゃなくて頑丈さも上がってるのかな?
喜ばしいことかもしれないけど、それでもこれ以上の高さから落ちて無事でいられる保証はない。
気をつけて行動しなければ。
――靴OK、マントOK、手帳OK。
今私は石畳の道の上に立ってる。
フルコースの街並みを通る道、カラアゲさんへと続く道だ。
待っててください、カラアゲさん。
貴方の忘れ物、必ず届けます――!
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
繁華街の路地裏の地面はひんやりしていて、寒さすら感じる。
日が結構傾いてきて、日光が指すことはない。
そんな植物には最悪のコンディションの場所で私は、
道に迷っていた。
うん、説明させて欲しい。
どうして私がこんなことになったのかを。
まずカラアゲさん家からしばらく道なりに歩くと大通りに出て、そこにはめまいがするほど多くの人々が歩いていた。
フードを深くかぶってなるべく目立たないようにこそこそ歩いて、カラアゲさんを探して行こうというスタイルだ。
で、カラアゲさんは自警団の団長さんだから、自警団の本部に行くことにした。
と言っても場所わからないし、下手に通行人に聞こうとしたら私の正体がバレちゃうかもしれない。
そこで看板を見ながら場所を把握していって、道案内とかあればそれに頼る方針をたてた。
看板はやはり日本語では書かれてなかったけど、異世界語として『読む』ことができた。転生させられて目的とか教えてもらってないし大切な思い出とかも忘れちゃったしだけど、妙なところで気が利いている。
しかし程なくして重大な問題に気付いてしまった。
この都市、広い。
いや、朝にカールさんの馬車からフルコースの外観見た時からわかってはいたんだけど、見ただけと実際に歩いて道の長さを確かめるのとではまるっきり違う。とにかく歩いても歩いても、景色がほとんど変わらなくて。
一番高くて目立つ時計台を目指して歩いてみても、とてつもなく遠く感じた。
そんな気の遠くなる旅路の間も、かなり多くの人たちから声をかけられた。
ナンパ? なのだろうか、若い大人の男の人からおじさんまで私に声をかけてきて、
「お嬢ちゃん1人? お腹空いてない? 御馳走してあげるよ」
と、孤独な子どもに見える私に優しくしようとしてくれた。
ご好意は大変嬉しかったけど、お言葉に甘えてしまえばやはり私の植物の姿を見られてしまうし、何より私のためにお金を使わせてしまうのが申し訳ない。カラアゲさん――は、もう飲み込んだ。一度助けてもらったし、優しさは全部ありがたく受け取ろうと心に決めたから。
それで申し訳なく思いつつも毎回走って逃げていって、2、3人ぐらいかは心配したのか追いかけてきたんだけど、毎度振り切った。追いかけてきた人は、迷子っぽい子どもの私を今でも心配しているんだろうなと考えると、胸が痛い。
そんなこんなでとりあえず時計台を目指して歩き続けると、ついに時計台を中心とした円形の大広場に出た。
地面の石畳には異世界の数字で1〜12まで書かれていて、きっと広場を大きな時計に見立てたデザインなんだと感心した。
番号がふられているのは広場から伸びる幅の広い12本の道路。そして私が今まで歩いてきたのは7番通りなのだとわかった。
番号がふられている、整理された街ならきっとすぐ自警団本部の場所に行けるはず! と思った私がバカでした。
何番通りにあるか知らない。
案内看板とかもない。地図もない。どうして!? マイホームタウンの――市にはめちゃくちゃあるのに!
おまけに木箱の中に入れられて運ばれてきたから、訪れたはずの市庁舎の場所もわからない。
つまり、この街で私がわかる施設の場所は何一つないということだ。
1番通りからしらみつぶしに探していくにはやはり広すぎるし、どうしようかと思った時に、朝にカラアゲさんと自警団の団員さんたちの会話を思い出す。
『――あっそうだ団長、午後■時に■番通りの広場に来てください』
何番通りだっけ〜〜!! と頭をかいても正確に思い出せなかった。そこにはカラアゲさんが確実に来るというのに。
仕方がないので、時計台の次に大きな建物を目掛けて歩くことにした。
大阪の通天閣タワーを石造りにしたような、展望台みたいな建物のある3番通りを。
自警団本部への手掛かりが全くないまま歩き続けた時、ついに事件が起こった。
太陽が低くなってきたのである。
体感2時間弱は歩き続けて、人間だったらとっくに足が棒になってもいい頃だけどまだまだ歩けるという時に、日の光が赤みを帯びてきた。体の中の元気が、少しずつ少しずつ、薄れていく感覚がした。
疲れを感じにくい体だけど、それはそれで危険だ。ある時ばったりと歩けなくなって、行き倒れてしまうかもしれない。そうなると保護→正体バレに一直線である。
なので適当な路地裏に回って、座って休憩することにした。
しかし路地裏、しかも夕方なんかには、日の光が差すわけない。
さりとて日の差す大通りのところに座り込めば、悪い意味で注目されてしまう。だから人目につかない路地裏に座り込むほかないのだ。
水分補給のための水筒も、お弁当とかもなく、エネルギー補給もできない。
石畳の割れ目から土の地面が見えたので、手から細い根っこを伸ばして水を吸い上げようとするものの、ほのかに感じる渇きの足しにもなりやしない。
もう1時間で日が落ちそうな感じだが、しばらくここで栄養補給しないと歩き続けられない。でも日が落ちたらゲームセット。
そんなほとんど『詰み』の状態で、今に至る。
はあ……昨日と同じだな。
見切り発車で花畑飛び出して、大きな狼に追いかけられて、結局エネルギー切れになって風邪ひいて……。
あの時はたまたまカラアゲさんたちが助けてくれただけなんだ。とっても幸運で、いきなり異世界に放り出された私にようやく運が向いてきたと思ったけど、ただの偶然だったんだ。
今もカラアゲさんを助けるって勇み足で飛び出して、結果路地裏で動けなくなってる。昨日よりはマシな状況かもしれないけど、それでも夜に1人ぼっちになっちゃう。約束を破ってカラアゲさんに見限られて、その後も1人ぼっちだ。
もう誰かが助けてくれるなんて期待しちゃいけない。そもそも他の人にあまり見られてはいけないから。助けてもらえたとしても、正体バレしてまた約束を破ってしまうことになりかねない。
私のミスだ。全部私が、私の考えの足りなさで、私自身を苦しめてるんだ。
あの時、カラアゲさんの団員手帳を見つけなかったら。
団員手帳を届けようなどと思わなかったら。
家を飛び出さなかったら。
カラアゲさんと団員さんたちの会話を覚えていたら。
こんなことには……っ。
「――アンタ、こんなところで何してるんだい?」
……っ、人!?
目の前にシワの少し入ったおばさんが立っていて、私に話しかけてきた。
慌ててフードを被って、深く覗き込まれないようにする。
「……カッカッカ、そんなに怖がらなくてもいいさね。とって食いやしないよ!」
高笑いしたおばさんは、私の警戒を解こうと優しい笑顔を浮かべてみせる。
天然パーマの上にラーメン屋のようにタオルを巻いているのが、強く馴染みやすさを覚える。
「あ……す、すみません」
「どうしてアンタが謝るんだい。――それよりアンタ、迷子かい?」
迷子――確かに迷子に見えるかも。
嘘をつくのは好きでも得意でもないけど、ここは迷子ということにしておこう。
「……はい、おじさんと逸れてしまって」
「そうかい……じゃあ探さないといけないねえ。アンタの種族と名前は?」
あっ、やっちゃった!
そうだよ、迷子と言ったらこの人は私を保護者の元に届けようとするし、その流れで名前を聞いてくるのは必然なことなんだ。
異世界の流儀なら、種族名も。
ええっと、私の種族は、『花精族』……
違う違う! これはまだ秘密なヤツ!
ここもまた嘘の種族名を言わないと!
「え、えっと……『人間族』の、ハナコです……」
「……苗字は? 苗字はあるかい?」
……え、苗字!? あっそうだ、苗字も考えないといけないのかな!?
ええっ、でもここで適当な苗字言っても異世界の苗字みたいな感じになるとは思えないし……。
うう、朝の馬車で、苗字も考えとけばよかった……。
「――まあ、苗字がないなら別にいいさね。あたしは『人間族』のキャサリン・ベルウッドだよ」
あ……よかった、苗字がなくてもスルーしてくれた。
このおばさん――キャサリンさんがいい人なのか、はたまたこの世界に苗字がない人もいるのか。
とりあえず、無事に家に帰れたら苗字をちゃんと考えよう。
カラアゲさんにチェックしてもらうんだ。
「普段はここらの酒場をやっていて、今色々と開店準備してたんだけどねえ。ま、とりあえず、自警団の方で保護してもらえれば、おじさんとやらにも会えるさね」
……自警団!
キャサリンさんが案内してくれるの!?
うわー嬉しい、そこでカラアゲさんに会えれば全て解決する。
もうすぐ開店するらしいキャサリンさんのお手を煩わせてしまうのは申し訳ないけど、後でお礼はしっかりやっていくということで。
「さて、ずいぶんくたびれているようだけど、立てるかい?」
「あ……」
喜んだのも束の間、私が今絶賛休憩中であることを思い出す。
地面につけた手から根っこは静かに素早く引っ込められるけど、まだエネルギーは回復されていないし、歩いている内に倒れる可能性は残ってる。
一瞬もフードを取ってはならない状況、そんなことはあってはいけない。
「……すみません、疲れていて」
また運よく、助けてもらったのに。
大人の優しさに助けられてるのに。
体も心も子どもな自分のダメさ加減が、本当に腹立たしい。
「――きっと、お腹が空いてるさね。ちょっと待っとくれ……」
そんな私を見て、キャサリンさんは左手に提げているカゴから何かが詰まった小袋を取り出す。
小袋の中には水晶玉のように透明な球体が入っていて、キャサリンさんは1つを右手に持って私に差し出す。
「ほれ、アメ玉だよ。こんなものしか持ってないけど、お食べ」
「え……い、いいんですか!?」
「いいに決まってるさね。アンタが歩けなかったら、あたしが困るんだよ」
そう言って、キャサリンさんは強引に私の口の中にアメ玉を突っ込んだ。
――甘い。
砂糖以外の味付けはハッカみたいなスースー感だけだけど、かえって甘さが際立ってる。
口の中で転がすたび、ほっぺが柔らかくなるほど甘さに満たされていく。
美味しい……!
……ずっと。
この世界に来てからずっと。
大人の人は私に優しくしてくれて。
その優しさに甘えることしかできなくて。
「う……う……」
「……ん?」
「う、うわああああああん、うわああああああん……」
「あらあら、泣いちゃって」
「ずみまぜん……っ、こっ、この街の人、みんな優しくてえ……男の人たちとか、私に食事に連れてこうとしてくれてえ……」
「それは誘拐しようとしてるだけさね」
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
泣き止んだ後、アメ玉のエネルギーでいくらか回復したので、キャサリンさんに手を繋がれて歩くことにした。
マントの長袖から緑の手が露出してるけど、何も疑問に持たれずに手を繋いでくれたので、カヌレさんの魔法が効いているということか。
「この街に今日初めて来たのかい! そりゃあこの街は広いから、おじさんとはぐれたり、道に迷ったりするのも無理ないねえ」
「ちょっとはしゃいじゃったら、はぐれてどこかもわからなくなって……」
少しの嘘を交えながら、私はキャサリンさんと会話を重ねる。
本当だったら、ありのままの私で話をしたいけど。
私は元はこの世界の人間じゃなくて、体も植物で……それを隠すために、話を偽って、名前も作って、フードも被ってる。
もどかしいし、うしろめたい。
「……どうして」
「ん?」
「どうして、私を助けてくれるのですか?」
こう言っちゃなんだけど、現代日本の人たちって冷たい人が多い。
冷たいというか、自分のことに手一杯で他人に手が回らないからしょうがないんだけど、他の人に無関心な面があるのだ。
きっと困ってる人がいても、余計なお世話と思われるかもしれなくて、助けの手を伸ばそうとする人はほとんどいない。
それに比べて、この世界の人は。
カラアゲさんも、カールさんも、カヌレさんも、キャサリンさんも。
みんな困ってる私を助けてくれた。
何か、日本の人たちと違いはあるのだろうか?
そんな疑問からでた問いかけだ。
「……そうだねえ、アンタが女の子だから助けたというのもあるけどねえ……まあ、『アントレの慈愛の女王』さね」
「……何ですかそれ?」
「昔々、『アントレ』という王国に1人のお姫様がいてねえ。とっても世話焼きで、困ってる人をみるとついつい助けたくなる人だったのさ。兄や姉がいて継承順位は低かったけど、その日頃の行いが民衆に支持されて、女王様になることができたんだよ」
「へえー、昔にそんなことが」
「ただの御伽噺さね。それより大切なことは、『人にいいことをしたら、それはいつか自分のためになる』ということ。あたしはあたしのためにアンタを助けてるさね」
……ことわざ、か。
日本語にも同じような意味のことわざがある。
『情けは人のためならず』って。
きっとカラアゲさんが私を助けたのも、カールさんやカヌレさんも、究極的には自分のためなのかもしれない。
でも、私は助かってる。
助けられて、嬉しく思ってる。
だから助けることは、間違いなくいいことなんだ。
「……ありがとうございます」
「……? とにかく、まだまだ自警団本部までは遠いさね。頑張って歩くんだよ」
「はい!」
手の甲が赤い陽光に照らされる。
だんだん体の中が温かくなって、足取りが軽くなっていくのを感じた。