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5 『輝かしき朝日、新たな名の目覚め』

 ……ん。

 んん……っ。

 温かい……。

 気持ちいい……。


「……ふわあ」


 ああ、我ながら、情けないあくびが漏れてしまった。

 でもこんなに気持ちいいもの、お花のベッドは――


 あれ? お花じゃ、ない?

 これ、毛布だ。私、毛布に包まれてる。

 あと、毛布の上から、何か……。


 ――モフモフだ。

 モフモフの大きい腕だ。その腕で、モフモフの大きい体に抱き寄せられてる。

 この腕……やっぱり、あの猫さん!


 斜光が差してる。私が眠ってるうちに、朝になったんだ。

 木製の床、布の丸い天井、電車みたいに移動してる感覚――馬車の中?

 それじゃあ、猫さんは……凍えた私を馬車に乗せて、朝までずっと温めてくれたってこと?


 ……ありがとう。

 ありがとう、ございます。

 初めてあってそんなに時間の立ってない私を、最初に警戒していた私を、見ず知らずの私を……っ。

 なんて……なんて、優しい人なんだろう……。


「――起きたか」


 感謝の念が湧き上がる中で見上げていたら、優しい猫さんが話しかけてきた。

 夜の時の警戒してる目と違って、私のことを心配している目だ。

 早速、お礼を言わないと。


「……あっ、オイ!?」


 私は猫さんの腕の中から抜け出して、正面に立って向き合う。

 私の立った時の身長と、猫さんの座ってる時の高さがそんなに変わらなくて、本当に大きい人だ。

 困惑する猫さんに申し訳なく思いつつ、私は深々と頭を下げる。


「私を助けていただき、本当にありがとうございます。このご恩はいつか必ず返します」


 私が頭を上げると、猫さんが呆気にとられてるのが見えた。

 そして、目線を私から外して、頬をポリポリとかいて、


「チッ、んだよ……しっかりしやがって、ガキらしく雑な言葉で話してろィ……」


 ええ、そんな!? 謝り方がまずかった!? 嫌われちゃった!?


「団長さん、子どもには愛想よく接しましょうよ。――お嬢さん、大丈夫だよ。このおじさんは、照れ隠しして言葉が汚くなってるだけで、本当はすっごく優しい人だから」


「っ、テメェふざけんな!!」


 照れ隠し……そうかも。本当に口が悪いだけの人なら、こんなに優しい行動はしない。

 何だか、この猫のおじさん、とってもイケてる。

 イケおじだ。


「ところで、まだ体冷えてないかい? もし良ければ果実湯があるんだけど、飲んでもいいよ」


「え……いいんですか!?」


 果実湯……フルーツの果汁をお湯に混ぜた飲み物かな? レモンティーみたいな。

 冷えこんだ朝、温かい飲み物が飲めるなら飲んでおきたい。

 馬車を運転してるらしいお兄さんも、優しい人だ。


「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて……えっと」


「こっちだ」


 果実湯なるものを探していると、猫さんが円筒形の入れ物みたいなのを片手にしていた。


「あ……どうも」


「こっちこいって言ってんだ」


「は、はい!」


 猫さんが少し不機嫌な感じで手招きしてきたので、これ以上機嫌を損ねないように私は猫さんのそばに寄る。

 すると、猫さんはまた毛布の上から私をギュッと抱きかかえてきた。

 腰回りをガッチリ掴まれて、今度はうまく抜け出せそうにない。


「……ったく、毛布だけじゃ冷えんだろうが。また熱出したら、元も子もねェ」


「あ、はい。すみません」


 すると、猫さんは私を左腕で抱きかかえたまま、右腕に持った円筒容器を目の前に置いた。

 何か、断熱水筒みたいだ。

 その蓋を猫さんは器用に片手で取り外し、コップとして湯気の立つ容器の中身を注いだ。

 水筒にそっくりだけど、蓋の断面は見覚えのある回転式のものじゃなく、ツルツルの木だった。

 逆さにしたら溢れちゃうね、気を付けないと。


「ほらよ」


「……ありがとうございます。いただきます」


 円筒容器の蓋のコップは木の内殻の周りに布が貼り付けてある仕様で、触り心地がいい。

 腰から上はフリーになっているので、両手でコップを丁寧に持って、お言葉に甘えて飲むことにする。


「……おいしい」


 果実の香りがほんのりとする中、温かいお湯が体全体に染み渡る感覚。

 甘酸っぱい味は、みかんかレモンか、その真ん中といったもの。少し薄いけど、それがいい。

 猫のおじさんの体でも温められて、私の体で凍えたところはほとんどなくなっていた。


「ごく、ごく……はう、美味しかったです。ありがとうございます」


 喉も乾いていたんだろうか、コップになみなみと注がれていた果実湯をもう飲み干してしまった。

 雨の中、根を張って縮こまっていたはずだけど、体調が悪すぎて水分の吸収もままらなかったのだろうか。

 とにかく、今は喉も潤って、体も温まって、最高の状態だ。

 朝日が差してるから、光合成もできるしね。


 ――あと、やっぱり猫のおじさんの腕の中はとても温かい。

 温かいけど、その分私の冷たい体を抱きしめてるってことだよね。

 よく見たら、猫さんも夜の鎧の姿じゃなくて、ジャケットに布のズボンの姿だ。

 濡れたから着替えたんだよね……ごめんなさい。

 好意で温めてくれるのは嬉しいけど、これ以上甘えてられないよ。


「あの……私の体、冷たいですか?」


「自分で分からねェのかよ? ――ああ、俺がどう感じるかか? そりゃまあ、まだ冷てェな」


「えっと……もう大丈夫です。 私、もう温めてもらわなくても、十分元気になりました」


「バカ言ってんじゃねェ、まだ冷えてるつったじゃねェか。まだ温めねェと、風邪がぶり返すぞ」


「で、でも、あなたは冷たい思いをして……」


「ガキが一丁前に大人の心配すんな!! テメェの小さい体が冷てェからって、俺がどうにかなるとでも思うのか、この間抜け!!」


 ……照れ隠し?

 ううん、私が遠慮してるのを押さえ込もうと、強い口調で言ってるんだ。

 絶対にまた凍えさせまいという、強い意志の元に。


 どうして。

 こんなちっぽけな私に。見ず知らずの赤の他人の私に。

 邪魔者だったはずの私に、どうしてここまでしてくれるの?

 どうして、こんなに優しくしてくれるの?


 温かい。


-appassionato-


「う……う……」


「……あ?」


「うわああああああああんん!!! うわああああああああああああんん!!」


「――はァ!? 何でいきなり泣いてんだ!?」


「わっ、わたひっ、わたひにっ、こんなに優しくしてくれてっ、わたひっ、道の邪魔してっ、それなのにぃ、拾ってくれてぇっ……かえっ、返しきれないほどっ、優しさをもらえてぇ……」


「あァ、めんどくせえな!!」


「あーあ。団長さんが、女の子を泣かせちゃいましたねえ」


「オイ、人聞きの悪いこというんじゃねェ!! ――チッ、さっさと鳴き止め!!」


「はうっ、うぐっ……ごっ、ごめんなさあああああああああいい!! 涙が止まりませええええええええええええんん!!」


「ふざけんな!! くっ、てめっ、このっ……クソがァ!!」


♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪


「……落ち着いたか?」


「はい」


 人間、一度涙が流れてしまえば、簡単には止まらなくなるものである。今の私は植物だけど。

 涙は止まらなくなるということを私は知っていて――記憶にないけど、きっと私が人間だった時に1度か2度くらい、大泣きした時があったと思う。

 きっと大切な思い出だったのだろうけど、それを忘れて泣くことだけを覚えてるなんて……。

 寂しいなあ。


「そうか。ならよォ」


「はい」


「お前にいくつか質問がある」


「……はい、わかる範囲で答えます」


 質問……そうだよね、いくら優しくされても、猫さんたちにとっては私は素性の知らない不審な存在。

 一応保護したけど、このまま何も知らずに連れて行くわけにはいかない、というところかな。


「――お前は、何者だ?」


 ……私が、何者か。


 この世界に来てから、そこがよくわからなくなってきた。

 心は人間のままだけど、体は人間じゃないし、女の子だけど、それを証明するモノは無いし、一般高校生だけど、もう学校には通ってないし、家族も友人もいたけど、顔と名前を思い出せないし――自分の名前だって忘れたし。


 私って、何者なんだろう?


「答え方が分かんねェか。じゃ……名前はあるか?」


「……あります」


「そうか、言ってみろ」


「あるん、ですけど……思い出せないんです」


「はァ!? どうしてテメェの名前忘れんだよ!?」


「……す、すみません!! 私もっ、何で忘れたのか分からないんですけど、とにかく思い出せないんです!!」


「……んだよ」


 ああ……自分でも、無茶苦茶な回答だってわかる。

 記憶喪失でも、『名前が無い』って答えるはず。

 『名前があることは確かだけど、それが思い出せない』なんて、納得してもらえるはずがない。

 怪しまれたかな……。


「――しょうがねェな。じゃ、お前の()()は?」


「しゅ、種族?」


「ああ、種族だ」


「ええと……私は植物で……確か離弁花類……」


「っと、そんなんじゃねェ。『人類分類用種族』だ」


「じ、じんる……ごめんなさい、わかりません」


 種族……うーん、地球の生物の分類じゃダメってことだよね。そっちの分類表記の仕方もよくわからないけど。

 どう答えたらいいんだろう?


「――団長さんの方から、種族と名前を名乗ってみては? どう答えればいいか、きっとその子にも伝わるでしょう」


「……その通りだな。まァ、人に名前を聞く時にゃ何とやらだ」


 あ……猫さんが名前を教えてくれる。

 後で聞こうと思ってたけど、こんなにも早くあちらから教えてくれるのは嬉しい。

 どんなカッコいい名前なんだろう……!






「俺は『黒猫族ブラック・ワーキャット』の、カラアゲ・ホワイトノーツだ」


 ……唐揚げ?


 えっ唐揚げ?


 いやあっちの言葉でそのまま『カラアゲ』って言っても何にも訳されないんだけどさ、唐揚げ?


「何だィ、呆けたツラして……本当は名前を聞いたことあんじゃねェのか」


「い、いえ、人名というか、食べ物の名前……」


「あァ!? 何が食べ物だ、コラァ!!」


「ひっ!! す、すみませんすみません、人名で『カラアゲ』を使ってるのは珍しいなと思いまして……すみません!!」


「……んだよ」


 うう……失礼なことを言ってしまった。

 何か私、この人に恩を返すどころか、怒らせてばっかりな気がする。

 どうしよう。このままじゃ、申し訳が立たないよ。


「――じゃあ、僕も名乗っておくよ、お嬢さん。僕は『人間族(ヒューマン)』の、カール=フリードリヒ・マウントフォール。以後お見知り置きを」


「……あ、はい、よろしくお願いします」


「チッ、コイツの名前はおかしくないってのかよ」


「はい」


「……」


「あっすみません! カラアゲさんの名前も、全然おかしくないです!」


「いちいち謝んな、鬱陶しい!!」


「すみません!!」


「クソがァ!!」


 はあ、猫のおじさん――もといカラアゲさん、ますます不機嫌になってる。

 私がコミュニケーションで間違えまくってるせいだ。

 こんなはずじゃなかったのに……どうしたら……。


「――ま、まあまあ。とりあえずお嬢さん、自分の種族とか、こんな感じで言える?」


「え、ええと、私は……ごめんなさい、私の種族、わかりません……」


 この世界にどんな種族が、どのくらいの数いるのか、私は知らない。

 カラアゲさんや御者のお兄さん――もといカールさんの方がずっといろんな種族を知ってるはずなのに、2人が私の姿をみて分からなかったということは、私にも分かるはずない。

 はずないのに。

 分からなくて、私が何者かを言えないのが、とっても悔しい。


「うーん、まあ分からないこともあるか……市長なら知ってるかな?」


「――あァ、あのクソババア、知識だけはあっからな」


 市長? 都市の長ってこと?

 カラアゲさんがババアとか言ってたけど、丁寧に言えば年配の女性の方なのだろう。

 でも、どこの都市の市長なんだろう?


「あの……市長って?」


「ああ、ちょっとこっち来て。――カラアゲさん、少し放してあげてください」


「ッ……戻ってこいよ」


「はい」


 不機嫌になりながらもずっと私を抱きしめて温めてくれたカラアゲさんに少し頭を下げつつ、私は手綱を握るカールさんの元に向かう。

 荷台の仕切り布を暖簾のように押しのけると、カールさんの手綱の先で2頭の馬が躍動しているのが見えた。

 そして、この道の先、私たちが向かう先に――


 壁に囲まれた中に、大小様々な建物が乱立した、巨大な都市の姿があった。

 街の中心ほど大きい建物があって、一番大きいのはあの時計台だろうか。


「大きい街……」


「あれが今僕達の向かっている街、交易都市フルコース。どの国にも属さない、いわば都市国家さ。大陸の中心に位置していて、世界中からお偉いさんや商人が来訪するんだ」


「へえー」


 私の背中側から照らされる光によって、街は淡い橙色に染まっていた。

 その大きさと、色彩でとっても荘厳に感じて、気の抜けた返事しかできなくなってしまった。


「僕は見ての通り、その商人の1人なんだ。3ヶ月前ぐらいからフルコースでずっと商売していたけど、10日前から入用でカラアゲさんを連れて別の国に行ってたんだ」


「そうなんですね」


 荷台には何かを詰め込んでいる感じの木箱が積まれているし、2人のどっちかが商人とか、荷物を運搬する系の人なのかなと思ったけど、カールさんがそうだった。

 じゃあ、カラアゲさんは護衛? でも護衛は雇い主より立場低いと思うけど、カールさんはカラアゲさんに敬語使ってるし。


「それで、君を気に入ってるそこのカラアゲ・ホワイトノーツさんは凄い人なんだ。フルコースの治安を守る自警団『ラーララットの太陽』の団長なんだよ」


「団長!? 凄いですね!」


「……フン」


 自警団の団長さんらしいカラアゲさんは、私が目線を送るとそっぽを向いていた。

 褒められるのって嬉しいけど恥ずかしくもなるから、これも照れ隠しなのだろう。

 カッコよく見えるのと同時に、可愛くも思えてきた。


「『ラーララットの太陽』は、自警団とは呼ばれているけど、実際は都市お抱えの公共警備隊さ。昔の名残で『自警団』と呼ばれているけどね」


「そうなんですか」


「そして、その団長であるカラアゲさんは市長に顔が利く。市長は物知りな方で、『賢人』と呼ばれているから、君の種族も判明するかもしれないよ」


「あ、ありがとうございますカラアゲさん!!」


「……チッ、街見たんならさっさと戻ってこいや!」


「はい!!」


 カラアゲさんは偉い人で、街で一番偉い人に私を紹介しようとしてくれているんだ。

 カラアゲさんが私のこと知りたいだけかもしれないけど、私も自分のことが知りたかったから、嬉しいことだ。

 本当に、感謝してもしきれない。

 再び戻ったカラアゲさんの腕の中で、そんな気持ちは私を温かくしていた。


「気持ち悪くニヤニヤしやがって。――それよりお前、俺のことも、『ラーララットの太陽』のことも、フルコースのことすら知らねェみてェだが……どこから来た?」


「どこから……えーと」


 私の出身は日本の―――県――市です、って言っても通じるわけないよね。

 この世界でのスタート地点を答えておこう。


「森の中にお花畑があって、そこから来ました」


「どこの森だ?」


「えっと、森の名前は分からないんですけど……あの、あそこの道に隣接してる……」


「『オードブルの森』か……あそこに花畑なんかあったか?」


「あそこは未踏の地も多いですから。その子が他の人に見つからない場所で暮らしていたとしても不思議はないですよ、団長さん」


 あの色彩豊かな花畑、他の人には知られていないものらしい。

 知られていたら、あのまま留まっていても誰かに見つけてもらえてたかもしれなかったけど。

 大変なこともあったけど、結果的に花畑の外に出てよかったと思う。


「しかし、名前で呼べないのは不便だなあ……そうだ! 団長さんが、その子に新しい名前をつけてあげたらどうですか!?」


「――はァ!? 何言ってんだテメェ!?」


 えっ、名前つけてもらえるの?

 これからあの街で暮らすことになるかもしれないけど、名前が無いと確かに不便だ。元の名前思い出すのもあてにはできないし。

 それに、カラアゲさんがつけてくれる名前なら何だっていいかな……。


「オイ、何期待したツラしてやがる。テメェの名前ぐらい、テメェで決めろ」


 あら、命名拒否されてしまった。

 そうだよね、私だって急に他人の名前を決めろと言われても、責任感に圧迫されてなかなかつけられないよ。


 でも、私に自分の名前を決める権利をくれた。

 私は言葉も何も分からない赤ちゃんじゃないから、好きな名前を選ぶことができるし、自分で納得できる名前がいいってカラアゲさんも思って私に決めさせてるんだ。

 やっぱり優しい人だなあ。


 ――さて、どんな名前にしよう。

 犬に名前をつけるのとは訳が違う、自分で名乗らなきゃいけない名前だし、奇抜なのは嫌だなあ。

 でもこの世界の普通の名前の基準がよく分からない。

 カールさんみたいな西洋風の名前もあれば、カラアゲさんみたいな料理名? なものもある。

 どんな風な名前にすれば……?


「あのすみません、他の人たちってどんな名前を……」


「参考にすんな!! 自分で決めろ!!」


「ごめんなさい!?」


 この世界の『普通』を探る計画は7秒で断たれてしまった。

 えーじゃあもう、地球の人たちの名前から取ろうかなあ。


 西洋風の名前? サラ、エリザベス、エマ、ジェニファー、テイラー……何か違うな。私は元日本人だから、やっぱり日本の名前じゃないとしっくりこない。

 ええと……家族や友人とか知ってる人の名前は全員忘れちゃったから、有名人……コノハ、リン、マリン、リナ、アイナ、ユイ、キララ……やっぱり何か違う。この中にきっと自分の本当の名前は無くて、違和感がバリバリにあるのだろう。


 うーん、どうしよう。

 いっそ、もうシンプルな名前でいいんじゃないかな。

 本当の名前を取り戻すための、仮の名前ということで。






「――()()()


「ん?」


「私の名前、『ハナコ』にします。どうですか?」


 女の子の汎用の名前と言ったら、花子だよね。

 植物の体になって頭にお花が生えてる今の私にも、ぴったりの名前かも。

 『私はハナコと言います』――うん、想像してみたら結構似合うね。


 問題は、2人の反応。

 この世界基準だと、変な名前になったりしないかな。

 忌み嫌われる名前だったりしないかな。


「……いいと思うよ。『ハナコ』、素敵な名前だね」


「あ……ありがとうございます、カールさん!」


「フン、まあいいんじゃねェか、聞いたこともねェ響きだがな」


「あ、はい、ありがとうございます……」


 2人とも褒めてくれた。よかったよかった。

 でも何かカラアゲさん、私に自分の名前イジられたの気にして反応冷たくなってる。

 ごめんなさい、もうバカにしません。


「それじゃあハナコちゃん、もう30分ぐらいでフルコースにつくよ」


「はい、楽しみです!!」


 新しい名前と共に、私の新しい物語は幕を上げた。


 ゆりかごのように揺れる馬車の中、朝日はなお暖かい。

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