猫魔道
巨大な眼。牛目。病です。
零れ落ちそうなその眼に、少し愛くるしいと思っちゃったり。
嘘です。大変な病気です。
脳病院にはいろいろな人が来るなあ。
黒板のすみの落書きは世界の秘密を書いている。
学生路の辻道に猫が死んでいる。
猫魔道。
縁起が悪い。
飴玉の烙印は巴紋。葵紋もある。家紋飴か。
そういえば昨日ひろったどんぐりにも、チョコレイトにも謎の家紋。
遠き過去からの難題であるか。
宗教受胎 羊水に浮かぶ蓮華 経血を舐める鬼 水頭症の子供のあたまゆらゆら
しばらく、まどろんでいた。
酩酊とした中で、罪びとの夢に見た、彼岸に睡蓮は浮かぶのか迦陵頻伽は鳴くのか
瓢箪から駒 お寺のおみくじの縁起物に混ざる般若面
金縁の丸眼鏡鈍色に光る 玉音放送の流れるラヂヲ 遠く昏く みな病的に耀き。
黄昏時 「供養に参りました」墓の周りの彼岸花 桜の木の下に埋めて死体 弟を殺して弟切草
血の涙を流す仏様 風鈴の下でゆれる幽霊文字 街灯に記されたうらめし文字 黒々と墨
昔処刑場のあった踏切 その近くの田んぼで蛙のお経 虫の呪詛
生白い女のうなじに幽霊の正体見たり枯れ尾花
ホルマリン漬けの胎児 なにを想ふ 母の羊水か まなこを閉じ
蝉時雨 夏の眩暈 標本室の中 眠る胎児のホルマリン漬け 青い水子 沈黙のまま嗤う
石畳の裏路地 母に背負われ 匂うシャボンの香り 秘密の唄
蝉時雨、母の背中。夢の中。
裏路地の懐古の過去には、送り火にも似た、昔の人を呼ぶなにかがあります。
宿場町の、般若の面の子供たちが、風車を手に風に遊んでいます。憧憬。