おねしょの青春。前編
姉投稿。番外編もあります。
りこside
『りこは勉強はできるのにねぇ…』
『もう高校生にもなって……』
『ねぇね、あかちゃんみたーーい!』
この家族の言葉はもう嫌になるほど聞いてきた。
私、河内 莉瑚は高校生になってもおねしょが治らない、いわゆる「夜尿症」。この症状は中々周りからは理解して貰えない。甘えてる。とか変だ。とか。
だけど私は幼い頃に夜のおむつも外れていた。
そう。妹の亜瑚が産まれるまでは。
亜瑚が生まれたのは私が丁度中学受験をした4年前。
それまで一人っ子だった私は『姉』になった。
亜瑚が生まれるまでは、両親は私のことを1番に考えてくれていた。叱られたりもしたけど、その分たくさんの愛情だって貰っていた。
もちろん、亜瑚はかわいいし、いい事だって沢山あった。
だけど『妹』ができたことで我慢することが増えた。
そんな時、私は受験のストレスと重なりおねしょを再発した。
私は無事、中高一貫校に合格することが出来た。
けれど私のおねしょは治らなかった。
それは高校2年生のいまでも続いている。
今朝もいつもと変わらなかった。
「りこ、おはよう。今朝はどう?」
「ん…やっちゃった……」
「そっか。お風呂はいっておいで」
「うん。」
脱衣所でパジャマを脱ぐと、『まえ』とかかれた花柄のおむつがあらわになる。
体格が小柄な私はこのおむつでさえ少しゆとりがある。
そこがまた幼稚さをものがたっていて心の傷をえぐる。
サッとシャワーをあび、リビングに行くと両親は家を出ようとしていた。
「りこ、今日もあこの送り迎えよろしくね。」
「うん。わかった。いってらっしゃい!」
「ぱばとままいってらっしゃ〜いっ!」
両親が共働きのうちは私が高校に行く途中で亜瑚を保育園に連れて行っている。
準備を終え、保育園に亜瑚を預けた。
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数学の時間、窓の外を見るとグラウンドで3年生がサッカーをしていた。
その中に私の片思いしている、永井 悠先輩。
すらっとした体にさわやかでクールな顔立ち。
いわゆるイケメンだった。
「り〜こっ!なにみて…あ…悠先輩じゃん!」
「なっ!まい!!ちがっ!」
「も〜今さらはぐらかしたって無駄だからね!」
「うっ…う〜ん……」
「好きなら告白しちゃえばいいのに〜」
「そんなっ!りこなんかが告白できないよ…」
「え〜?まいはりこ可愛いと思うけどな〜」
「いやいや…それにそもそもりこのこと知らないと思うし…」
隣の席の友達の麻衣にからかわれていると先生から注意を受けた。
怒られちゃったねと麻衣と少し微笑んで授業に戻った。
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帰り。亜瑚を迎えに行ったら目を疑った。
そこにいたのは悠先輩だった。
びっくりして固まっていると亜瑚が私を見つけて走ってきた。
「ねぇねっ!あこちゃんね、ごうくんと結婚するの!」
亜瑚のゆびには折り紙で作られた少し不恰好な指輪があった。
悠先輩がいたことを忘れ、よかったね〜と話を続けていると、隣で似たような会話が聞こえてきた。
「にぃちゃん!みて!ごう、あこちゃんと結婚する!」
声のした方を見ると悠先輩の所にいる亜瑚と同じぐらいの子が嬉しそうに話していた。
男の子の様子を見た先輩は私のほうに近づいてきた。
「えっと…東ヶ丘高校の制服だよね?2年生?」
「あ!えっと、はい!」
「俺は3年の永井 悠。よろしくね。」
「2年の河内 莉瑚です!」
「いや〜びっくりした!家、この近く?」
「はい!〜〜の近くです!」
「え!?まじ!?俺ん家もその近く!」
「ねぇね!おうちかえろ〜よ〜」
「にぃちゃん!はやく〜」
思いがけず話が盛り上がり亜瑚たちにそそのかされる。
「ごめんね〜かえろっか!」
途中まで帰り道がおなじだったので4人で帰路につく。
すると同じ住宅街だったことが分かった。
「あこちゃん今日ごうくんのおうちお泊まりする〜!」
「え!?なにいってるの!?だめだよ〜」
「ごうのお家であこちゃんおとまりする!」
「おいおい…永井がめいわくだろ…」
家までもうすぐという信号待ちでいきなり繰り広げられたお泊まりの話。
「やだぁ!あこちゃんごうくんのお家いくもん〜」
「にぃちゃんあこちゃん泣かせたらだめー!!」
「べ、別に俺は泣かせてはないよ…」
「あこ!がまんして!ごうくんのおうちにめいわくだよ!」
「…やぁだぁ…あこちゃんおとまりしゅるもん…」
「んー俺はいいんだけど…永井はどう?」
「えっと…私は……」
正直亜瑚だけ泊まりに行かせることは出来ない。
けれど、私が行くとなったら問題が出てくる。
そう。おねしょだ。
「あっ!ねぇねおねしょするからダメなんでしょ!」
「ちょっとあこ!!!違うから!!」
違うとは言ったけど今の焦り方でバレただろう。
死んでしまいたい。好きな先輩の前でおねしょをばらされたなんて。
「……永井、それ、本当?」
「……」
「ごめん。」
しばらく沈黙が続く。
信号が青になり、私の家の前まで着いた。
「あの、さ。永井ん家じゃ、だめ?」
「え?」
「その…泊まり。」
正直驚いた。
おねしょは多分バレた。だけどそんな人とお泊まりしたいだなんて思っているなんて。
「私は…大丈夫です……」
「よし!決まり!ごう、今日はあこちゃん家にお泊まりだ!」
「やったぁ!ごうたのしみにしてるね!」
「あこも、よかったね〜」
「うん!ごうくん、また後でね!!」
先輩とわかれ、家に入る。
すると一通のメールが届いた。
そこにはそれは両親が残業で今日は帰れないというものだった。
この状況を知っているのか?というようなタイミングだったけど、了解。頑張ってね。とだけ送った。