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ニュー・フェイス  作者: イエロースリープ
7/7

始まり

カフェの駐車場で、エドと黒コートの二度目の対面が起きた。

その周りには多くの野次馬が寄ってきて、まるでプロレスリングの試合のようだった。

ダリルは警察に通報しようと思ったが、すぐにやめた。

一人の男が公衆電話のほうに向かった瞬間、ダリルは多くの野次馬に声が聴こえるように叫んだ。


「警察を呼ぶな。今、僕たちが目撃しているのは新たな発見だ。」


それを合図に、エドと黒コートは戦い始めた。

殴る蹴るではなく、相手を突き飛ばしあい、その際に何度もさまざまな場所にぶつかった。

車たちのボンネットやドアは凹み、ベンチは壊れて、カフェ店の壁にはたくさんのヒビが入るほどの大激戦へと変化していく。

戦いが激しくなるにつれ、周りの野次馬は被害に遭うのを怖がり、観戦し続けているものの、ゆっくりと離れていった。

戦いの最中、エドは黒コートの首を両手で絞めた。

黒コートは腹を殴って抵抗しようとするが、抵抗しようとする前に、エドは黒コートの首から両手を離し、黒コートを蹴っ飛ばした。

エドは、体の疲れなのかは知らないが、黒コートの首を絞めると同時に呼吸がうまくできなかった。


そのあと、エドと黒コートが戦う前に、黒コートにやられた男たちがなんとか立ち上がり逃げようとした。

ダリルは、その逃げようとしている二人の男を見た瞬間に黒コートの目的がわかった。

片方の男たちが逃げようとしたとき、ズボンのポケットから大麻を落とすが拾うこともせず、拳銃を構えていた。

その男が発砲した銃弾は、黒コートの腹に当たった。

弾は腹を貫通どころか、傷すら与えることがなかったが、黒コートはさすがに痛みを感じたのか、うめき声をあげて倒れこんだ。

しかし、うめき声をあげて倒れこんだのは黒コートだけでなかった。エドもだ。

エドも、腹に激痛が走って座りこんだ。

周りの野次馬は、『いったいどういうことだ』と言わんばかりにざわつき始めた。

しかしそれは、二つの真実に対してのざわつきだった。

ひとつは、同時に倒れこんだこと。

もうひとつは、黒コートが倒れた際に、被っていたフードが脱げたときに判明した。

黒コートは、エドの瓜二つどころか、エドそのものだった。

野次馬に紛れていたダリルにはあることが頭をよぎった。


(そうか。特別な存在はこの世にたったの一人だ。エドが戦っている相手は、もうひとりのエド)


エドと黒コートは同時に立ち上がるが、戦わず、互いに顔を見た。

野次馬だけが騒いでいるとき、二人の女性がエドと黒コートのほうにやってきた。

その女性たちは、エドが夜、公園に向かっているときに遭遇した、下着姿の女性だった。

その女性は言った。


「黒いコートの人は私たちを助けてくれた。男たちに強姦されかけていたところを助けてくれた。

 その黒いコートの人にやられてるヤツらは、悪党だけよ。」


黒コートが今までやっつけた者たちは、皆、悪い者だけという真実が、エドやダリル、周りの野次馬に伝わった。

ダリルは、カフェ店に置いてきたままだったコミックブックを思い出すと同時に、もう一度声をあげた。


「この戦いは、ヒーロー同士の戦いになっていた。今すぐこの戦いをやめろ。」


エドはこの状況が理解できず、口から真実がこぼれた。


「バカいうな、俺はヒーローにはなれない。」


もし、エドがヒーローになれなかったとしたら、この戦いに意味があるのだろうか。

ダリルはひたすらエドに、自分の力や、もうひとりの自分の存在を認めるように説得するものの、彼はずっと否定し続けたままだ。

ダリルは、エドが否定し続けることの理由がわからなかった。

その瞬間、野次馬の大群を押し倒し、エドと黒コートに向かっていく女性が現れた。

野次馬たちのざわつきは、一瞬にして悲鳴になった。

そこには、右手に血のついた包丁、左手にはホコリが被った白い仮面を持った女性が現れた。

エドはその女性を見た瞬間、すべてが終わったかのような顔になった。

その女性は、妻であるステイシーだった。

十二歳の子供を刺して、すぐに家に帰った後、近所から噂を耳にし、ここまで来たのだ。

ステイシーはエドや、その周りの人々に聴こえるように、大きな声で打ち明けた。


「私は、今起きている通り魔刺殺事件の犯人よ。夫であるエドは去年の大量刺殺事件の犯人。

 当時から、犯人がエドであることを知っていたわ。」


去年の大量刺殺事件の犯人がつけていた白い仮面は、エドが引き出しに隠していた。

エドは、自分が去年の大量刺殺事件の犯人であるということが知られてしまったことと、ステイシーが連続通り魔刺殺事件の犯人であるということに、動揺を隠しきれなかった。

ステイシーはその後、エドに近づいて、彼だけにしか聴こえないように話した。


「全く相手をしてくれない夫といるなんか、普通の女性はすぐ別れるわ。じゃあなぜ、今まで一緒に暮らしてたか。それは、私とあなたは同じだからなの。意味がわかったかしら。」


ステイシーは、エドと自分は初めて会ったときから、同じ存在であると打ち明けた。

その瞬間、エドは思い出したくない思い出を思い出した。

高校生のころだ。

暴力。狂っている愛情。荒れた生活。追い込んでは追い込まれるエドとステイシー。

エドはそのとき、今のステイシーの気持ちと、自分の今の立場を理解した。

エドは、黒コートという名のもうひとりの自分に言った。


「俺とは真逆の存在でいてくれ。」


その瞬間、腹に走っていた痛みがなくなった。

それを聴いた黒コートはフードを被り、発砲してきた男のほうへ向かった。

その男はポケットから落とした大麻からわかるように、麻薬の売人だ。

その男はもう一発撃とうかと思っても、手足が震えていたため撃てなかった。


しかし、何発も発砲された。

発砲したのは、その男ではなく、駆け付けてきた警察だった。

弾は2発、周りの野次馬に流れ弾が当たらず、エドとステイシーに、一発ずつ命中した。

エドは痛みが走るものの無傷だったが、ステイシーは胸に命中して倒れた。

エドは、倒れたステイシーを抱えて、無事かどうかを何度も確認した。

しかし、ステイシーの肌はだんだんと冷たくなっていく。

エドは涙を目に浮かばせていた。


「ステイシー、頼む生きててくれ。こんな終わり方はイヤだ。」


涙をこらえることはできず、愛を表現しているかのように、ひたすらこぼれた。

ステイシーは、肌が完全に冷たくなる直前につぶやいた。


「いいえ。まだ始まったばかりよ。物語はこれからなの。こんなつまんない私との日々は、ほんの一部に過ぎない。」


そう言って、ステイシーは完全に死んだ。

その後エドは怒りを隠しきらず、ステイシーを殺した警察を突き飛ばしたあと、彼女を抱えて姿を消した。




出来事が一気に起きたあと、人々は、黒コートも姿を消していることに気づいた。

いったいどういうことなのか、ダリルは全てを理解した。

エドはステイシーをなくし、ダリルは、エドの正体を知った。

エドとダリルと黒コートはそれぞれ、孤独になった。

それぞれの特別な存在。それは、孤独によって生まれ、孤独によって知る。

ダリルは、この後のことが予想できた。




これから、物語が始まるということを。











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