秘密のカギ その2
夜が明けた。
昼頃、エドはステイシーに『ダリルに会いに行く。夕方には帰ってくる。』と伝え、病院に向かった。
エドはダリルに伝えたいことがあるが、ダリルもエドに伝えたいことがあるだろうと、新聞の記事を見て確信していた。
昨日の新聞に記載されていた”黒コート“や、”自分の持っている力“。
そして”刺殺事件“。
ダリルは本当に、毎日のように病院にいるのだろうか疑問だったが、そうこうしているうちに病院に着いた。
車から降りてダリルを探そうとしたそのとき、ベンチに座ってコミックブックを読んでいるダリルを目撃した。
病院のそばでたった一人でベンチに座り、コミックブックを読んでいる姿は、まさに”孤独“だった。
ダリルは毎日のように病院に来ていたが、それは特別な病気だからではなく、他の理由があったのだ。
エドは片手に新聞を持ち、ダリルのほうへと向かった。
ダリルの視線はコミックブックからエドのほうへと、新聞のほうへと向いた後に微笑んだ。
彼もエドの目的を知っていて、ダリルにも目的があった。
エドは、ダリルの隣に座った。
こっそり隣からコミックブックを読もうとしたとき、ダリルが片手で、エドの私立探偵事務所の名刺を持っていることに気づいた。
エドは、ダリルと初めて会ったとき、いつもズボンのポケットに入れている名刺を落としたことに気づいていなかったのだ。
なぜ、ダリルが警察ではなく、私立探偵事務所に電話をしてきたかわかった。
ダリルも、今までの出来事は運命であると先に気づいていたからだ。
エドは昨日の新聞を開き、ダリルに言った。
「ダリル。君の言っていたことは正しかった。」
その発言は、刺殺事件解決の一歩という意味で物語の終わりでもあり、今までの出来事がひとつにまとまり、物語の始まりでもあった。
しかし、昨日起きた刺殺事件の犯人がわかったとしても、黒コートや、去年の刺殺事件の犯人はわからない。
エドはダリルに質問をした。
「この事件だけ解決できても、他のことは解決できないのでは。」
ダリルから返ってきた言葉は、意外なものだった。
「もしこれが運命ならば、複数の出来事が一気に動くはずさ。まずは昨日の刺殺事件を深く見てみよう。」
エドは自分の知恵を振り絞ろうとした。
刺された場所は同じ。昼頃。被害者はどちらとも女性。
エドのあっさりとした考え方は、直感によるものだった。
「最初の犯行時間が昼ということは、犯人は殺人に慣れてないな。ふつうは深夜を狙うはずだ。」
人が多い時間帯に通り魔を起こすのはおかしいというのが、エドのシンプルな考えだ。
その考えを聞いたダリルは、十四歳とは思えない考えがついた。
それは、あえて昼であるということであったのだ。
その考えをダリルは言った。
「昼である必要があるかもしれない。昼にしか動けなかったりね。」
それからもいろんな考えを交換したが、犯人の特徴を掴めるものがなかなか見当たらなかった。
昼頃に会っていろいろな話をして三十分ほど経った。
エドとダリルは昼飯をまだ食べていなかったというより、食べることを忘れていた。
エドはダリルをカフェに誘うことにした。
「仕方ない。俺が奢るからカフェで昼食にしよう。」
カフェで昼食をとっているとき、エドは黒いコートの男のことを話した。
新聞の記事には『黒コート』というあだ名がつけられていたため、エドもそのまま、『黒コート』と言った。
「あの黒コートは俺と同じ存在だ。対決はしたが、対決という感じが全くしなかった。俺はそのとき、”真実“を恐れていたのかも。顔を見ようとしても、見ることができなかった。」
ダリルは、コミックブックに描かれているヒーローと、エドを照らし合わせながら話を聞いていた。
エドはヒーローかもしれないという妄想がなくなっていなかった。
エドのこの発言は変な発言だが、ダリルはそれを超えるような発言をした。
「物語には必ず誕生がつきものさ。去年の刺殺事件をきっかけに今の僕が誕生して、車を凹ませたことをきっかけに今のエドがいる。黒コートや、今起きている刺殺事件が僕らを繋げていくかも。」
コミックオタクのような考えを持っていた。
何かしらをきっかけにキャラクターが誕生し、近いうちに目撃するものは”はじまり“であるということだった。
ダリルは、エドを特別な存在であると思っていたが、エド自身はその力のことを重要視していなく、事件を解決することにしか集中していなかった。
あーだこーだ話していると、周りの客がカフェのテレビを見ながらざわつき始めた。
客の一人が独り言をつぶやいた。
「この近くで子供を刺した女性がいるなんてな。」
ニュースに流れていたのは、この町の近くで十二歳の少年が刺されたということ。
エドはこの情報から、被害者が女性や子供なのは、自分と同じ強さであったり、自分より弱いから狙いやすかったという考えに至った。
それと同時に、カフェの外で騒ぎが起きた。
車が破損する音、ガラスが割れる音。人がぶっ飛ばされた衝撃。
エドは、黒コートと再び対面することになった。