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第6話 フワリ・ヘッズ・イッチャテルネ

 突然大爆発が起こった頭上の光景に狼狽(うろた)えていた俺は、この現象が微笑み掛けて来る彼女の仕業だと気付くのに少しの時間を要した。

 だって、信じられるか……その変に落ちていたただの石ころが、大爆発を起こして魔獣達を一瞬で撃退してしまった、なんて事を……。


「おいおい、何の冗談だよ……」

「冗談じゃありませんよ。あの爆発を起こしたのは、紛れもなく私です」


 そう言って、手を差し伸べて来る少女。何だ……?

 その行動に、一瞬理解出来なかった俺は視線をきょろきょろさせた。

 右、左、上、下……あ、そういう事か。

 大爆発に腰を抜かした俺は、地面に尻餅を付いた状態のままで居たらしい。

 恥ずかしい……穴があったら入りたい……そして、埋めてくれ……。


「……すまん」


 恥ずかしさを紛らわすように少女の手を取り、慌てて立ち上がる俺。

 立ち上がった俺は、衣服に付いている砂を手で払いながら少女に向き直る。

 その姿を見ていた少女は「あ、そういえば……」と、何かを思い出したように口を開いた。


「自己紹介がまだでしたね。私の名前はフワリ・ヘッズ・イッチャテルネと言います。この近くにある『リーブ村』という小さな村で暮らしています。気軽にフワリと呼んでください」

「ああ、分かった……」


 と、普通に返事をしようとした俺は馬鹿なのか?


「――って、ちょっと待てッ!!」


 俺は前のめりになってツッコんだ。

 いやいや、待て待て、おかしいだろ……なんだよ、その名前は?

 フワリ……は、許そう。異世界なんだから、そんなキラキラネームの奴だって居てもおかしくない。

 だが、ヘッズ・イッチャテルネ……これはダメだろッ!! 今すぐ責任者呼んで来い!! お兄さんが説教してやるッ!!


「ど、どうしたんですか!? 急に大声を出して……?」

「どうしたじゃない! おかしいだろ、その名前!!」

「え~、そうですか?」


 俺の指摘にも、まったく意に介さないフワリ。

 いや、どう考えてもおかしいよな。俺、何か間違えた事言ってるか?

 フワリと話していると、こちらまでおかしくなってしまいそうで心配になる。大丈夫だよな……俺は正しいよな……何も間違っていないよな。

 そう自分に言い聞かせて、フワリの名前がおかしいという事を再度指摘してやった。


「いや、絶対におかしい。百歩譲ってフワリは許そう……だが、ヘッズ・イッチャテルネは絶対におかしいッ!! そんな名前の人間、居てたまるかッ!!」

「そう言われましても、これが私の本名なんで……」


 俺の再度の指摘にも、困ったような表情を浮かべるだけで、おかしいという事実を受け入れようとしないフワリ。

 これだけ言ってもダメなんだから、どうやらこの世界では、ヘッズ・イッチャテルネは普通の名前なのかもしれない。妙な世界に転生しちまったもんだ……。

 自分が元居た世界と異世界の違いに軽いカルチャーショックを受けていると、フワリから当然のようにある質問をされた。


「そういうあなたは、どういうお名前なんですか?」

「ああ、そう言えばまだ名乗ってなかったな。俺の名前は桐ケ谷刀也(きりがやとうや)だ」


 変な名前に気を取られていて、自分の名前を伝えるのをすっかり忘れていた。

 相手は名乗っているのに、自分は名乗らない訳にはいかない。異世界だろうとそれは変わらない。


「……きり、がや……とう……や……? あなたの方こそ、よっぽどおかしな名前をしていますね」

「な、何だと!! そんな訳ないだろッ! 俺の名前は至って普通だ……」


 フワリの言った言葉が信じられず、つい声を荒げてしまった。ヘッズ・イッチャテルネとかいうヤバい名前の奴に言われるとか、とんだ屈辱だ。

 俺が不服そうな態度を取っている事に対して、フワリは平然とした態度で言葉を返して来る。


「よく分かりませんが、もしかすると、お互い変な名前の持ち主なのかもしれませんね。私もリーブ村に住む人達の名前しか知りませんから」

「ああ、そうですか……」


 それは何か、俺の名前がヘッズ・イッチャテルネと同じだと言いたいのか……異世界って本当に訳が分からん。

 もう名前論争は疲れた。今後、名前の事でとやかく言うのは止めよう。不毛な争いを生むだけだ。

 そんな事より、彼女にどうしても聞かなくてはいけない事があるだろう。


「もう、名前の話しは終わりにしよう。それよりも、あの大爆発について説明してくれ」


 ただの石ころだった筈のモノが、一瞬でただのウルフ達を黒焦げにしてしまう程の大爆発を起こした理由。それをまだ、俺は聞いていなかった。


「ああ、そう言えばまだ説明していませんでしたね。でも、もう直ぐ日が暮れる頃です。夜になると魔獣達が活発化して危険なんです。見たところ、トウヤさんは……旅人、ですよね?」

「あ、ああ、まあそんなところだ……」


 俺の服装を見て適当に判断したみたいだな。まあ、そう思ってもらった方が都合が良いか。

 異世界から転生されて来ました、なんて言っても鼻で笑われるだけだろうしな。

 案外、フワリなら疑わずに信じてくれるかもしれないが……。


「でしたら、リーブ村に向かいましょう。その道中、爆発の説明もしますので」

「良いのか、急に押しかけても?」

「大丈夫です。それに、なだ君を見つけてくれたお礼もしていませんから」


 そう言って、自分の足元で丸くなって寝息を立てているマーブル模様のただのウルフを抱きかかえるフワリ。そう言えば居たな、こいつ……。


「そのただのウルフは、お前のペットなのか?」

「……ん? なだ君はただのウルフじゃありませんよ」

「じゃあ、何なんだよ?」

「なだ君は、ただの『犬』です」


 やっぱり、そいつただの犬だったのかよ!

 なんとなく分かってはいたけどさ……ただのウルフと一緒に現れたんだから、何か珍しいただのウルフだと思うじゃない、普通……思わない?


「それじゃあ、行きましょうか」

「お、おう、そうだな」


 すっかり異世界補正に騙されていた俺は、なだ君と呼ばれる犬を抱えて歩き出したフワリにつられてそのあとを追う。

 これでようやくこの森ともおさらば出来る。早くリーブ村とやらで一息つきたいものだ。

 なんせ、この世界に転生してからというもの、慣れない命のやり取りの連続で、体力的にも精神的にも限界に近い状態になっていた。

 まあ、精神的に追い詰められているのは、フワリのせいでもあるんだがな……。


「それで、あの爆発は何をしたんだ?」

「何をしたと言われましても……私にも分かりません」


 などと、とぼけた様な表情を浮かべるフワリ。


「――何でだよッ!?」


 早速ツッコませて来るフワリに対して、不安しか感じない俺。

 そっちが説明するって言ったのに、なぜその回答が分からない、何だよ!

 どういう教育を受ければ、こんな思考回路が出来上がるって言うんだ!

 呆れて言葉も出ない俺だったが、それでも何かを伝えようとするフワリの気持ちを汲んでやろうと、その声に耳を傾ける事にした。


「私って昔から運が良いんですよ」

「それが何だって言うんだ? まさか、拾った石ころが爆弾だったんです……なんて、馬鹿げた事を言うつもりじゃないだろうな」


 もしそうだとしたら、たまたま誰かが手違いで石ころ型の爆弾を落としてしまって、たまたまその石ころを拾ったのがフワリだったという事になる。

 そんな出来すぎた話し、運が良かっただけ、という理由で片付けられる筈がない。


 だいたい、石ころ型の爆弾なんて……あっ、またこれか。俺の頭にある情報が浮かび上がった。

 今度は『異世界アイテム図鑑』かよ。何とも捻りがないな。まあいい、さっそく確認してみるか……。

 ……へぇ~、『石ころ爆弾』なるモノが本当にあるみたいだ。石ころに『魔力』を込めて作る爆弾で、込められた魔力の量によって威力が変わるらしい……というか、やっぱりあるんだな、魔力……さすが異世界と言ったところか。

 ついでに魔力についても調べておこうと思ったが、今はそれどころではない事を思い出す。

 どうせ、魔力なんてゲームで言うところのMPマジックポイントみたいないものだろうし。

 そんな事より、フワリが拾った石ころ爆弾は、一瞬で魔獣を黒焦げにするくらいの威力だった。つまり、あの石ころ爆弾には相当な魔力が込められていたに違いない。


 そんな危険アイテムが、そう易々と落ちていてたまるか!

 だと言うのに、フワリはまったくブレる事なく、俺の与太話しを肯定するように、


「そのまさかです……なんとなくあの石ころを空に投げれば助かる気がして、試しにやってみたんです。そしたら凄い大爆発が起きて、私もびっくりしちゃいました!」

「びっくりしたじゃないッ! お前、爆弾だって知らずに投げたのかよ!?」


 フワリの常軌を逸した発言に思わずその場で立ち止まり、大きな声で叫んでしまった。

 俺が止まったのを確認したフワリも足を止めて答える。


「そんなの分かる訳ないじゃないですか。私はちょっと運が良いだけの、ただの村娘ですよ」


 そう平然の言ってのけるフワリの神経を疑う。何がちょっと運が良いだけだ……。


「……もう限界だ。この際だからはっきり言わせてもらうぞ……」

「ど、どうしたんですか……急に?」


 俺が豹変した事に、珍しく動揺の色を見せるフワリ。だが、もう止まらない……。



「――いいか、よく聞け! 何処の世界に、拾った石ころが爆弾だと知らずに魔獣を撃退する村娘が居ると言うんだ! そういう奇跡を起こすのは、聖女とか勇者とか、そういった選ばれし存在が起こすモノであって、ただの村娘が「ちょっと運が良いだけ」で起こして良いモノじゃないんだよッ!!」



 ほぼ息継ぎなしの本音をぶちかました俺は、呼吸困難になっていた。

 ぜー、はー、と繰り返す、酸素と二酸化炭素の交換に勤しみながら、フワリの方に顔を向ける。すると――


「……そうなんですね。じゃあ、今後は気を付けます」


 さらっと言ったフワリは、抱きかかえているなだ君に何かを話し掛けながら歩き始めた。

 やっぱり、この少女に何かを伝えるのは難しい……本当に難しい……。

 そう心から思った俺は、乱れた呼吸を整えながら、ゆっくりとフワリの後を追った。

注釈

※『異世界アイテム図鑑』とは、異世界に存在するアイテムに関する事が全て収めれた情報である。

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