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第4話 ただのウルフはただのウルフ?

 ――現在、俺は迷子になっていた。

 ウサイン・ウルフを撃退したあと、『異世界の歩き方』を確認しながら森を歩いていたのだが、まったく森から抜け出せる気がしなかった。なぜかって……?

 この情報、別に地図機能とかがある訳ではなく、場所の名前などが頭に浮かぶだけで、まったく使えないのだ。

 結局、分かったのはこの森が『アディランスの森』と呼ばれている事だけ。それ以外は何の情報もなし。

 使えない情報をインプットしやがったあのダンディボイスのおっさんには、色々な意味で説教してやりたい気分だ。何が神様だよ、あのボケじじいが……。


「……ああ、疲れた」


 森を彷徨う事一時間弱、ウサイン・ウルフほどではないにせよ、小さな狼型の魔獣に襲われたり、花形の魔獣に捕食されかけたり、散々な目に遭って来た。

 まあ、全てこの忌々しい特技でなんとか撃退出来たが、もういい加減体力の限界を迎えていた。


「……もうダメだ」


 疲れ果てていた俺は、近くにあった大木の根に腰掛けた。

 額から湧き出る汗を袖で拭いながら辺りを見回すが、相変わらず鬱蒼とした森が広がっているだけで、出口のでの字も見当たらない。いい加減、この景色も見飽きて来た。


「よし、休憩がてら情報の整理でもするか……」


 ウサイン・ウルフを撃退して以降、散策に集中していてあまり情報を確認していなかった。使えない情報にも振り回されていたしな……。

 さてと、まずはあのチート特技についてでも整理しておくか。


 まさか前世で俺を苦しめていた特技が、この世界では俺を救う最強の特技に成り代わるとは思わなかった。どんな嫌がらせだよ……。

 俺が手に入れた特技『最強のツッコミ』は、凄まじい威力を発揮して森の守護者、ウサイン・ウルフを撃退した訳だが、こんな力を手に入れてもちっとも嬉しくない。

 俺は剣とか魔法で戦うファンタジー的な要素を期待していたんだ。これじゃあ、クラスメイトが、魔獣に代わっただけではないか。

 こんなファンタジーの欠片もない特技で世界を救うのは御免だ。

 俺がファンタジーな世界を満喫する為にも、一刻も早く冒険者ギルドに辿り着く必要がありそうだ。

 冒険者ギルドに行けば、何らかの職業に就ける筈。そうすれば、こんな意味の分からない特技ともおさらば出来る。

 その為なら、気が進まない事でもやるしかない。素敵なファンタジーライフの為にも……。

 一応、この特技についても詳しい情報があったので確認しておく事にした。

 まったく興味は惹かれないが、これもこの世界で生きて行く上では必要な事だ。


 まずこの特技が使えるのは、この世界で俺ただ一人という事は分かっている。裏技編で確認したから間違いないだろう。

 そして、この特技だがツッコまれたものを確実に倒す事が出来るらしい。

 殺すのではなく、倒す、というところが俺には合ってる気がした……殺された俺が言うんだから間違いない。殺す、良くない。


 ここまでが、実践で感じたこの特技の特性だ。さすが、裏技と呼ばれるだけの事はある。

 どんな相手も一撃で屠れるのだから、魔王だって涙目だろう。まあ、絶対に魔王には使わないけどな。

 俺は実力で魔王を倒して英雄になる。こんなチートで魔王を倒しても、絶対に女の子は寄って来ない。

 本音を言うと、俺は英雄になりたいんじゃない、彼女が欲しいだけなんだ……。

 その為にも、こんな特技の情報を確認するのは止めよう。どうせチートなんだから、これ以上調べても時間の無駄だ。

 そう結論付けた俺はのっそりと立ち上がり、


「さて、そろそろ散策を再開しますかね……」


 衣服に付いた砂を手で払いながら歩き出そうとした。その時――



「グルッ!」「ガウッ!」「バウッ!」



 狼型の魔獣が三匹、草木をかき分け俺の目の前に飛び出して来た。やれやれ、またお前達ですか……って、なんか一匹犬みたいなの混じってるんだが、あれも同じ魔獣なのか?

 俺の目が確かなら、青い毛の狼型魔獣に混じって、一匹白黒のマーブル模様をした不細工な犬? みたいなのが混じっていた。

 こいつらは『ただのウルフ』。ただの『ウルフ』ではなく、『ただのウルフ』というところがミソらしい。

 これも『異世界魔獣図鑑』にあった情報であって、俺が名付けた訳じゃないからな。そこんとこ、よろしく!


「お前達が何匹束になろうと、俺には敵わねぇーよ」


 こういうセリフを剣とか魔法を使ってカッコよく言いたかったのだが、今はあきらるしかない。

 ない物ねだりはしない。お兄さんとの約束だよ。


「――って、俺は歌のお兄さんかよ!」


 こちらに向かって突撃して来る一匹のただのウルフにバシッとツッコミを決める。


「ガウぅぅぅ!!」


 例の如く、俺にツッコまれたただのウルフは木々を薙ぎ払いながら吹き飛んでいく。


「お前はもう、死んでいる……」


 吹き飛んで行くただのウルフを見送りながら呟き、その様子を見て怯えていたもう一匹のただのウルフに駆け寄った俺は、


「――それは、『北斗の剣』だろうがッ!!」


 鮮やかなツッコミを浴びせてぶっ飛ばした。

 残りは一匹……あの犬みたいなただのウルフだな。

 俺はそいつの居るほうに視線を向けた。


「…………」

「な、何て奴だ……」


 周りのただのウルフがやられているというのに、奴は堂々と地面に寝転がって居た。

 強者の風格という奴だろうか。俺をただの『ただのウルフ』だと思ったら大怪我するぜ、という奴なりアピールなのか。

 俺は警戒を厳にして、ゆっくりと奴に近づいて行く……。

 ゆっくり、ゆっくり……あと数センチ……今だ!


「――ただの、ただのって鬱陶しいんだよッ!!!!」


 俺がどれだけ近付いてもピクリともしなかったただのウルフにツッコミを入れてやった。結局ただの『ただのウルフ』だったな。ああ、また鬱陶しい!


「バウッ!」

「……へぇ!?」

「バーウぅ……」

「な、何でお前……吹き飛ばないんだよ……?」


 俺は驚愕した。そんなバナナ……。

 ツッコミを入れてぶっ飛ばしたと思っていたただのウルフが、あくびをしながらこちらを見ていた。


「――この野郎!!」


 ビシッ! バシッ! ベシッ! ボキッ!


「――ぎゃあぁぁぁぁ!!」


 何度ツッコんでもただのウルフは微動だにしない。

 それどころか、ツッコミ過ぎて右手が変な方向に曲がっちまったじゃねぇーか。

 痛めた右手を確認しようとした時、


「何だこれ……?」


 右手の甲に刻まれた妙な刻印に気が付いた。

 こんな刻印、俺は知らないぞ。と、思っていたのだが、急に頭の中にこれに関する情報が浮かび上がって来た。

 ……え~、なになに、この刻印はあなたの固有特技『最強のツッコミ』の回数制限を示すモノです……マジかよ、そんなの聞いてないぞ……って、俺のせいか。

 あの時きちんと確認していれば、こんな事にはならなかったのに……しかも、まだ続きがあるのかよ。

 ……えーっと、刻印は五芒星の形として刻まれ、一度使うと五芒星の一角が消えます。五回使うと特技は発動しなくなりますのでご利用は計画的に……じゃねーよ!

 やっぱり不良品じゃねぇーか、この特技! クーリングオフだ! 今すぐ国民生活センターに繋いでくれ。


「クソッ! どうりで特技が発動しない訳だ……」


 ウサイン・ウルフに一回、ただのウルフに一回、ナゾの花に一回、そしてさっきのただのウルフに二回、合わせて五回……全部使っちまってるじゃねぇーかよ、馬鹿野郎ッ!!

 こんな大事な情報を確認し忘れていたとは、一生の不覚だ……。

 どうしよう、どうしたらこの窮地をしのげる。どうする、アイ〇ル♪


「――って、言ってる場合かッ!!」


 もう自分でも自分が分からない。どうしてこんな事になってしまったんだ。

 どうにもならないこの状況に、俺はただ俯いて立ち尽くすしかなかった。

 そんな半分自暴自棄になりかけていた時である。


「バウッ、バウッ!!」


 ただのウルフが吠えているが、俺の知った事ではない。

 ああ、せっかく転生したって言うのに、短い命だったな……。


「バウッ、バウッ、バウッ!!」


 まあ、この世界には何の未練もないし、死んでもいいかな。

 俺の肉はまずいかも知れないが、殺したらちゃんと食ってくれよ。


「バウッ、バウッ、バウッ、バウッ、バウッ!!」

「――って、うるせぇーよ、馬鹿ッ!! 殺すならさっさと…………はい?」


 俺とマーブル模様のただのウルフは、ありえない数のただのウルフに囲まれていた。

注釈

※『アディランスの森』とは、トウヤが異世界転生で送られた何の変哲もない森である。ただのウルフやナゾの花といった駆け出し冒険者が相手にするには丁度良い魔獣が蔓延(はびこ)っている。ただし、森の守護者、ウサイン・ウルフに遭遇した際は全力で逃げる事をおすすめする。


※『北斗の剣』とは、トウヤの生まれる遥か昔に流行っていたバトル漫画のタイトル。主人公の剣次郎(けんじろう)が悪を成敗していく大ヒット漫画である。決め台詞は「お前はもう、死んでいる……」である。

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