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第2話 おっさんとの邂逅

『……目覚めろ』


 何かめちゃくちゃダンディなおっさんの声が聞こえる。こんなイケボイス、聞いた事がない。俺も将来はこんな声になりたいな……と、思っていたのだが。

 そんなボイスで目覚めろって、イケボイスの無駄遣いだろうがぁ! って、いかんいかん。つい癖でツッコんでしまった。


『……目覚めろ、トウヤ』


 うわー、何か勝手に人の名前呼び出したよ。

 プライバシーとかどうなってる訳? 警察呼ぶよ、本当に……。


『……いいから、目覚めるがいい』


 だから、何回も言わせるなよ。もうあったまきた! 警察に追放っと……確か番号は一一九って――


「それは救急車だろうがッ!!」



 ――シーン。



 俺のノリツッコミだけが寂しく鳴り響いているこの空間。真っ暗で何も見えないと思っていたが、なぜか俺の姿だけは確認出来た。まあ、目覚めたばかりで目が慣れていないだけだろう。そう結論付けた俺は、自分の姿をしっかりと確認した。

 いつもの眼鏡に黒を基調とした制服を着ている。この事から、体育館倉庫の中にでも閉じ込められているのか? と、勝手な推測を立ててみた。


「まったく、どうして俺がこんな目に――」


『見事なノリツッコミだった、トウヤよ……』


「うおッ! いきなり何だッ!?」


 急に聞こえたこの声だが、何処かで聞き覚えがある。さっきまで聞いていたような……あ、思い出した!


「お前か、俺を体育館倉庫に閉じ込めた奴は?」


『……体育館倉庫? お主は何を言っているんだ?』


「とぼけるな! 俺をこんなところに閉じ込めて、何が目的なんだ?」


 こんなイジメを受けたのは、小中高十二年の間でもなかった出来事だ。まさか、卒業式の今日にこんな目に合うとは……やはり、俺の人生はロクでもないモノだ。


『どうやら、自分の置かれている状況を理解していないようだな……』


「ちゃんと理解してるさ。お前が俺をイジメの標的にしてるって事だろう」


『……全然違う。いいから、我の話しを聞け!』


 さっきから俺に話し掛けてくるダンディボイスのおっさんだが、いったい何処から喋ってるんだ?

 ずっと辺りを見回しているのだが、依然として姿が見当たらない。それに、目覚めて結構時間が経つというのに、まったく視界が開けた気がしないのはなぜだ?

 俺は恐怖を感じたので、おっさんに問い掛けた。


「おい、おっさん! 俺が意識を失っている間に何かしやがったのか?」


『お主は何処まで自由奔放なんだ。これでは話しが進まない……』


「話しがしたいなら、まずは俺を開放しろ」


 おっさんと話す趣味はないが、自分の置かれている状況をきちんと把握する必要があると考えた俺は、ひとまずおっさんの話しを聞く事にした。ついでに少しでも自分が有利になるようにと、条件を付け加えてみたのだが、相手はどうでるだろうか。


『……良いだろう。だが、開放するのは我の話しを聞いてからだ』


「全然分かってねぇじゃねぇーかッ! いいから、俺を開放しろッ!!」


 何が「良いだろう」だ! ちょっと良い声してるからって、何でも言う事聞くと思ったら大間違いだからな。可愛い美少女の声だったらヤバかったけど……。


『ああもう、お主面倒くさいわ~。とりあえず、必要な情報は脳に直接インプットするから、あとは適当に世界を救ってくれ。頼んだぞ……』


 急に訳の分からない事を言い出したおっさん。何だよ、脳に直接インプットって……普通に怖いわッ!


「待て待て、世界を救うって何だよッ! 意味分かんねぇーよ!!」


『……だから、その辺りも含めて脳にインプットするって言ってるだろ! 我は忙しんだ。この後も予定が立て込んでいると言うのに……』


 世界を救うより大事な予定って何だよ。このおっさん、絶対ヤバい奴だよ……。


「その脳にインプットっていうのが一番怖いんだよッ!! いいから、俺を開放しろッ!」


『じゃあ、後は頼んだ。我は『めんまのお笑い下克上委員会』を見ないといけないのでな……』


「ちょ、待て――」


 それはお笑い好きのおっさんしか見ないテレビ番組だろうがッ! と、叫ぼうとした時には遅かった。

 おっさんの言った通り、俺の頭にはどんどん知らない情報が送られて来るのを感じた。


「うっ……なんだ、この感じは……」


 物凄い吐き気に襲われた。脳にインプットするって、やっぱりやべぇじゃねぇーか……。

 俺は吐き気に耐えながら、どんどん増えていく情報を確認していく。


「世界を救う……ツッコミ? ロクな情報がないな……魔王や魔獣、まるでアニメやゲームの世界みたいだ……俺が死んだ……って、死んだッ!!」


 走馬灯のように流れてくる情報の中に、俺は信じられないモノが紛れていた事に驚愕する。

 そうか……俺は死んだんだな。

 いや、死んだというより殺された……が正しいか。

 たかが、ツッコまなかったというだけなのに……。

 生前の記憶を完璧に取り戻したところで、俺の意識は途切れた。

注釈

※『メンマのお笑い下克上委員会』とは、日本全国で放送されているお笑い芸人とお笑い好きのおっさんしか見ない。と言われている超コアなバラエティ番組である。MCのメンマがボケれば、ひな壇の芸人は全員でツッコミを入れ、メンマが無茶ぶりをすれば、全力でそれに応えなければいけない。正にお笑い芸人による、お笑い芸人の為のTV番組である。

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