その後の話 ③ 良い若者が働かないのは軽犯罪法1条の4になる
「おい、泣くなよ!って、痛った!」
私は吉保の脛を蹴っていた。
「泣いてなんかいない。馬鹿な護衛官があたしを捨てたって泣くものか!嘘つき!フェラーリに乗せたらあたしに一生ついてくるんじゃないのかよ!あたしはフェラーリを買うために、大株主の亜紀に頭を下げたりして頑張って稼いでいるっていうのに、お前は気楽な無職かよ!働け!仕事が無いんならウチに戻ってくればいいだろう!」
「嫌だね。」
私は吉保の一言で、自分が完全に失恋したと理解するしかなかった。
ここできっぱり引くのだ。
男の足にしがみつくなんて、そんなの私ではない。
そして私という女は、負けてそれだけではない。
お別れの言葉を言ってやるのだと顎を上げて、吉保がニコニコ顔で私を見下ろしているという現実に出会ってしまった。
「ヨッシー。なんで笑っているんだ。」
「だってさぁ、ビィは本気で俺が好きなんだよね。」
「いや。数秒前はそうだったかもしれないが、この時点で私は切り替えた。さようなら。お元気で。」
私は玄関ドアを開けようと手を伸ばし、やはりというか吉保に遮られた。
彼は自分の背中を玄関扉に押し付けるという格好で、私の前の大きな障害物となって私を怒ったような顔で見下ろしているのである。
「帰りたいんだけど。」
「帰すかよ。話があるんだ。茶ぐらい飲んで行けよ。」
「いや、いい。話なんて無いし。」
「よくないよ。話は俺があるよ。俺はお前にお付き合いしてくださいって言えるようにって、仕事を探してんのによ、何、その、無職ならウチで働きなさいって。君は俺のプライドとか、どうお考えなんですか?」
え?
吉保は私を通すものかと頑張っているが、私はお前は一体何を言ったのだ?という感じだ。
え?
お付き合いって、何?
「あたし、十七、だよ。何を言ってんの?」
26歳のあなたが私を恋愛対象に見てくれていたの?
そう尋ね返そうとしたら、あ、私を通せんぼしていた男がしゃがみ込んだ。
私は小さくなってしまった吉保の肩を揺すった。
「ねぇ、どうしたの?ちょっと、ヨッシーったら。」
「いいよ、帰って。俺はただの勘違いの馬鹿野郎なだけだった。」
「え、本当にあたしとお付き合いって考えていたの?」
「……忘れて。……そんで、帰っていいよ。」
吉保は完全に大きな邪魔な石ころとなった。
帰っていいと言われても、彼が邪魔で玄関を出れないし、そして、何よりも私は帰りたくはない。
こんなにも心が羽ばたき始めたのに、帰るなんてできやしないだろう!




