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法務部の七人の小人に育てられた姫と警察上がりの護衛官  作者: 蔵前
あたしが守る方なのかよ 労働契約法
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要素の錯誤があれば和解も無効

 女性は三島莉子と名乗った。

 学会と研修仕事で日本に戻って来たばかりの上、身に覚えのない診断書で帰国したその足で病院に呼び出されて査問を受けていた、という不幸な人だった。


 肩まである真っ黒な髪は一つに結ばれ、化粧もしたことがないような地味な外見の人であるが、寛二郎のツボには嵌ったようで、彼は被害者でしかない彼女に最大級の魅力を振りまいていた。

 確かに、三十代半ばと言っても化粧をしないせいか肌は健康的で、化粧する必要は無いだろう整い方をしている固そうな美人だ。


 そして、彼が大好きな「女医さん」なのだ。


 このすけべぇめ。


「本当にすいません。僕はあなたの名前を騙った女性に騙されておりまして。この家の合鍵もその女性から手渡されたものなのです。」


「なんですって。うわ、ここでしたの?その女性と使った家具やファブリックは全て捨てます!弁済をお願いします。室内のクリーニングは絶対です。いえ、自宅に死体があったのですから、自宅の買い取りをしてください。私はここに住めません。住めるわけ無いでしょう。ここは両親と暮らした思い出の家なのに、私はもう気持ちが悪くて住めない!」


 三島はぽろぽろと涙を流し始め、寛二郎は彼女の家のティッシュペーパーで彼女の涙を拭いながら、世界を魅了できると自分で思っている笑顔で答えた。


「あぁ、泣かないで。僕達はお家を探している最中ですからここを買い取ります。ここに住みますから、大事に家を守りますから、どうぞ許してください。」


 げっと言葉が出たのは私だ。


 死体の溢れる家に私こそ住みたくはない。

 哀れな三島莉子の自宅は死体で溢れていたのである。


 まず、リビングに我らが牧様の死体。

 そして、二階クローゼットの中にはビニールに入れられた白骨死体。

 さらに、冷蔵庫の中には血抜きされ、部位に切り分けられてパック詰めされた新鮮な岩崎の死体である。


 さぁ、ここで問題だ。

 岩崎はどこで解体を受けたのか。


 ハハハ、風呂場だよ。


 そんな家に住めるか!


「あたしらこそ犯罪被害者じゃないの!何をとち狂っているの!勝手に錠前を変えられたんじゃなくて、この三島さん本人が、自宅の鍵を気軽に見ず知らずの人に手渡しちゃったってだけでしょうが。」


 三島は自宅の隣に住む老夫婦に、いつものように鍵を預けていたと思っていた。

 ただし、彼女が鍵を渡したのは老夫婦の孫だと自称した駿河に、だ。

 田神が警察と一緒にその夫婦に聞き込みをしたところ、詐欺師の駿河がそこの家のお手伝いとして入り込んでおり、老夫婦に娘がいることは知っていた三島が娘違いをしてしまったという事なのだ。


 三島はうわっと泣き出して、寛二郎は私に対して殺意の籠った目を向けた。


 民法第695条において、和解は当事者が互いに譲歩してその間に存する争いをやめることとあるが、私は死体を解体した風呂場のある生活を受け入れるなどという事に譲歩など絶対にしたくはない。


 ここは知らなかったを通し、さらに出て来た問題を要素の錯誤のあったものとして寛二郎が為そうとする和解の条件を無効にできないだろうか?

 寛二郎と私がこの家に住んで管理する、という点の、私部分だけでも!


「あぁ、もう。こんなの全部警察に任せてしまいましょうよ。かんちゃんにあたしは全部任せた。あたしはライブに行く。行くよ、ヨッシー!」


「ちょっとビオ!」


 寛二郎の叫びなどどうでも良い。

 私は今日やるべきことをやるべきだ。

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