明日から学校いけないじゃないか! 信用棄損及び業務妨害
さて、大きな買い物袋を抱えてお世話になりますと向かった加藤の家の玄関先で、どうぞとにこやかに出迎えた若い女性がおり、彼女は加藤と伊藤との間にできた子供二人の内の下の方である。
「びぃちゃんは亜紀姉さんの部屋を使って。困ったことがあったら、私に何でも聞いてね。ママとパパに聞いていた通り、びぃちゃんって人形みたいに可愛いのね。なんだか妹ができたみたいでうれしいわ。」
私を案内してにっこりと微笑んだ大学院生である加藤真紀は、母親ゆずりの長身と美貌を持つ気さくな女性であった。
10近く年は離れているが、寛二郎や七人の小人にすれば彼女は私の同世代といえるのだろう。
「ありがとうございます。真紀さんも加藤さんそっくりな綺麗な人でびっくりです。」
「ふふ。亜紀姉さんはパパそっくりなの。でもね、そっちの方が綺麗なの。不思議でしょう?パパってあんなにもくたびれているのにね。」
私は娘の酷い言葉に、ハハハと笑い声を上げて応えるしかなかった。
可哀相な伊藤。
「ねぇ、それでね。噂の社長について教えてくれる?彼って凄い素敵な人なんでしょう。ママもパパも褒めちぎりだもの。」
彼女は私を部屋に案内してお終いではなく、私と共に亜紀の部屋にずずいと乗り込み、気がつけば私は亜紀が使用していたであろうベッドに真紀と腰掛けていた。
姉妹ってうざいものかも。
「ふつうのオジサンですよ。」
「そこが知りたいの。だって、テレビに映る彼は素敵でしょう。」
「え?テレビに映っているの?嘘。知らない。」
我が家にはテレビがあるが、それはゲームかパソコンの私専用モニターに落ちぶれている。
モーションキャプチャーで遊べるゲームは、大きな画面でなければつまらない。
ところで、寛二郎がテレビに出ていた事を知って私は本気で驚いてしまったが、そんな私が面白かったのか、真紀はにんまりとした笑顔を見せた。
それだけでなく、ぎゅっと私の手を引いて立たせると、せっかく案内してくれた部屋から居間へと私を移動させたのである。
「録画してあるから!見る?見ようよ!私の憧れなのよ。折詰寛二郎さんて!」
経済学部の院生ならば、見誤っていた英雄である寛二郎の動向は知りたいだろう。
私生活の異性交遊的な場所は、見誤ってしまった方がいい男であるが。
さて、私はしぶしぶと居間のソファに座り、彼女の操作して現れた動画を鑑賞するに当たって、療養中だろうが寛二郎を殴り飛ばしたい気持ちで一杯になった。
「あの野郎。ぶち殺す。」
番組はよくある有名企業の歴史や挫折と成功をドラマ仕立ての映像で流すだけのものであり、寛二郎は若きトップとしてコメンテーターとその映像の中の出来事について気さくそうに話しているのだけだったが、余計なものが画面に映りこんでいるのである。
幼い頃の私を抱く自分をバックスクリーンにするとは何事か。
刑法233条の信用棄損及び業務妨害の業務妨害だ!
「畜生。個人情報が駄々漏れだろうが!あん畜生が!」
私の寛二郎ゆずりの喋り方が恐ろしかったのか、真紀は言葉を失った上に大きな目を見開いて私を注視しているようだが、ここが人様の家の居間だろうが、私には自分の憤りを隠しておくことができないほどなのだ。
「あの馬鹿があたしをライブに行かせたくないのはこれが原因か!」
幼い頃から外見がそれほど変わっていない私である。
学校で私が寛二郎の姪だというのは知られても大した事がなくとも、全国的に知られては問題があるだろう。
私が心配だと最近私の警護が厳重になったのも、車通学禁止の学校へ車通学しているのも、全て寛二郎の責任だったのだ。
私の面が割れた。
私は寛二郎が自分で苛性ソーダを飲んだのかもしれないとまで邪推しながら、モニターの中で馬鹿有頂天で姪のことまで語る間抜けをどうしてやろうかと考え込んでいた。