有志による会社には社員にも責任がある
「亜紀の失敗は従業員の金の横領によるものだからね。給料未払いもそこが理由じゃないのか?会社の形態がお前の経営するバンシースキームと一緒だよ。有志による会社設立という持ち分会社だ。会社法第580条の持ち分会社の債務を連帯して社員は弁済しなければならないって奴だよ。結局は亜紀が全部被ったんだろうがね、あの性格の亜紀には悔しかっただろうな。それなのに、お前が自分を失敗させた奴らを上手に動かしているんだ。悔しい事この上ないだろうな。」
「まあ、それで亜紀が私を恨んでそうで怖いって事はわかったけど、おじいちゃんと結婚したのは六年前じゃない。その時から付き合うな、でしょう。」
寛二郎はあからさまに私と吉保から顔を背けた。
「かんちゃんは亜紀と本当は何があったの。」
「社長。人が死んでますので。」
寛二郎は大きく息を吐くと、亜紀の潰れた夢はもう一個あったんだと遠い眼で呟いた。
私ははっとして、その先を聞く前に耳を塞いでしまった。
「どうした!ビオ!社長はまだ何も言ってないだろ。」
「聞きたくない、聞きたくない。あたしの姫甘味は六年前の設立だ!」
「しゃちょう!」
「だってさぁ、アイディアは良かったんだよ。でもねぇ、スタンド販売の洋菓子じゃあ個性と知名度も必要だろ。だからさ、折鶴監修って美津子の洋風和菓子屋も作ってだな、姉妹店風にバックアップしてやったつもりが、潰れちゃったんだよね亜紀の方だけ。」
「しゃちょう。」
亜紀の店の名前は「秋姫菓」という、ネーミングから言って微妙ではあった。
「では、亜紀が犯人だったら確実に美緒さんを狙うから亜紀の方が危険という事ですね。」
「そうだね、俺が思うだけだからね。さて、田神君。君を振ったという真鍋の危険性は俺にはわからないけれど、君ならわかるよね。教えてくれるかな。」
田神は軽く頭を振ると、無理ですね、と情けなさそうに呟いた。
「えぇ、よくわからないのに結婚しようとしたんだ!」
素性の知れない女詐欺師に騙されたばかりの男は嬉しそうな声をあげた。
しかし、田神はそんな揶揄いに怒り出すどころか、情けなさそうに眉尻を下げてはははと情けなく笑い声を立てた。
「わからなくなったから、婚約破棄ですよ。」
「じゃあ、わかる真鍋とわからない真鍋の違いを言ってみて。」




