解散する時は会社法に従って清算しよう?
「もう君は変な所で口を挟んで!本当に気が利かないね。誰が雇ったんだろう。」
「それはパワハラに当たりますよ。無職になって暇になったら、話題になっているイギリスの事件でも洗い直しましょうか?」
吉保は確実に有言実行する危険人物だと、私は思わずひゃあっと混乱した。
「そ、そうだ、亜紀。さっき田神さんが言っていた亜紀の危険性。ね、ねぇ、かんちゃんはどうして亜紀と私の接触を避けていたの。」
「だって、怖いんだもの。」
「怖いって?」
「亜紀はさ、伊藤仕込みの身体能力と加藤仕込みの頭がある上に物凄い美人だろ。何でもできてどこでも女王様になれたからね、自分が失敗する事が想像できないんだよ。だから人一倍努力する。それは素晴らしい。だけど、やりすぎる。俺のボケ爺を誑かしたのも自分の店を開くためだろ。よくそこまで出来るよねって、怖くなるでしょう。」
女運のない寛二郎のクローンは共感できるらしく、今度は友好的に寛二郎の言葉に対して無言でうんうんと頷いていた。
「で、じいちゃんを誑かしてまで、彼女は何をしたかったの?」
「いろいろ。とにかく女経営者になりたいって奴だろうね。社長って呼ばれる女王様。商売ってそんなんじゃないから、亜紀は一度も商売に成功した事はない。」
「経営者になりたい女性であれば、それでは尚更にビオさんと交友があった方が良かったのでは。美緒さんは現在バンシースキームというお店を出していらっしゃるのでしょう。亜紀さんには良い教材となるのでは?」
寛二郎は吉保の言葉に、はああと厭味ったらしい溜息を吐き出した。
そして、私をちらっと見て、再び大きなため息を吐き出すという仕草だ。
「えっと、あたしが何かした?」
「何か、どころじゃねぇよ。金持ち爺誑かして作った服屋が潰れたまではよくある事だよ。その後にな、お前が亜紀が失敗した店の針子をかっさらってしまった上に、自分に出来なかった成功をしちまったらいい気分じゃねえだろ。」
「え、うそ。針子さん達こそ、給料未払いで放り出されて、皆さんその後は再就職も出来ずにその日暮らしで頑張っている状態だったんだよ。そのうちの一人にライブで出会って、お洋服を作って貰って、意気投合しての皆でバンシースキームを設立よ。かっさらったなんて、人聞きの悪い。」
でも、そこで気が付いた。
どうして従業員である針子達に何の保証も無かったのだろうかと。
折詰の資本が入っている筈では無いのか?
「ねぇ、かんちゃん。店が潰れた始末は誰がしたの?」
彼はうーんと考えて、牧かな、と言った。




