偽造できる書類は、私文書公文書、そして、診断書だってあるぞ
私と寛二郎の邂逅は、完全にモブとなっていた吉保のお陰でつつがなく終了した。
しかしその後は直ぐに、私にパパと呼ばれて感動に打ち震えていた寛二郎は、当たり前だが冷静になった私に脅される身分に落とされることとなった。
「パパ。全部話そうか。」
「いや、全部話しただろ。」
「あたしはパパが白血病であたしが実の娘だったぐらいしか聞いてないよ。あたしは今夜のライブには絶対に行きたいからね。パパの願い通りに解決ってしてやろうかとね、意気込んでいるわけよ。」
「え、もういいでしょう。それよりも可愛そうなパパの傍に今夜は一緒って無いの?パパはいつ死んでもおかしくない状態なんだよ。そのうち余命宣告を受ける白血病なんだよ。」
白血病と宣告されても余命宣告が無いのはあり得るのかと、私の思考が少々途切れたその時、モブだった灰色の背広がついに動いて口を挟んだ。
「あ、すいません。たった今牧部長からオールクリアの連絡がありました。血液検査の結果、白血病では無かったそうです。安心して二度と胃に穴を開けるなと。」
私と寛二郎は首が折れるくらいの動作で吉保を見返した。
吉保はモブから主役になれた喜びを表現するかのような笑顔を私たちに向け、自分のスマートフォンの画面を私達が読める様に翳した。
小人の巣専用だという老人達が喜びそうな一昔前の近未来的な通信画面に、真実という煌きで牧メールが燦然と輝いていたのである。
まぁ、喜びで噴き出した涙でぼやけてしまった私達の目には。
でも、涙が乾けば真実ははっきりと見通す事が出来るものでもある。
「三島莉子医師による診断取り違えが発覚しました?なんだそれ。」
「本人は看護師によるカルテの不幸な取り違えによる誤診を主張しているそうですが、牧部長は医師本人の、それも悪意のある故意による虚偽の記載だとかなり憤慨されていますね。」
医師がやる偽造は、私文書偽造でも公文書偽造でもなく、刑法第160条の虚偽診断書作成等に該当することになる。
「莉子ちゃんが?うそ、だって。あんなに。」
「パパ?りこちゃんって、だ、あ、れ?」
「牧部長から追記です。美人女医との火遊びはほどほどに、です。」
学校やスポーツクラブ主催の泊りがけ旅行に私を無理矢理参加させるときには、寛二郎自身が出張や泊りがけのお遊びをしていたなと、先程思い出した情報をもう一度私は新たな角度から検証しつつ思い出しながら彼を見上げた。
寛二郎は白血病で無かった喜びよりも、嘘がバレた時の様な脅えをあからさまに見せて、私の感情がどう動くのかとびくびくと伺っていた。
いつもだったら私は彼を殴っていただろう。
けれど、今日だけはと、私は彼を許してもう一度抱きしめた。
今度は両腕を彼の背中に大きく回して。
「単なる悪戯で良かったって喜ぼう。かんちゃんはこのまま爺になって、あたしに介護される未来だって。」
「お前はガサツだから、俺は寝たきりになる前に満身創痍だね。」
寛二郎も私をぎゅっと、それも強く強く抱きしめた。
彼が血を吐いて倒れたのは、演技でもなく本当の体の不調だ。
私を失うと思い悩んで、自分で胃に穴を空けたのは本当なのだ。
「はい、ここまで。社長申し訳ありませんが、今までの過去のお遊びで、真鍋美雪という女性には覚えがありませんか?」
ここにはモブでいることを我慢しない唐変木が、いた。




