あなたには故意があるのか
私達は一時間きっかり仮眠をとることにした。
そこで問題となるのだが、私達が同じ部屋を使う事にするかどうか、である。
スタッフ用の仮眠室は三つしかないのに、その二つを私達が占領するのは心苦しい、と吉保が言うのだ。
「それではお前がアスレチックにも行け。占領部屋が一つで済むぞ。」
私が答えるや、吉保は私の腕を掴んで手近な仮眠室にするりと入った。
「わぉ、広いじゃないの。凄い、ちょっとしたビジネスホテル並み。仮眠するだけなら悩むことなく一室で十分だな。」
「寝るだけだからこそ、別々の部屋にするべきじゃない?男と女でしょう。」
「大丈夫だよ。俺はロリコンじゃないから。」
吉保は上着を投げ捨てると、ごろりとベッドの中央に寝転んだ。
「おい、お前がベッドを一人で占領したらあたしはどこに寝るんだよ。」
「はは、一緒に寝るか。お兄さんは構わないよ。」
「そうだね。」
「え。」
私はベッドに乗り上げると、そのまま吉保の左腕に勝手に頭を乗せて横になった。
それだけでなく、彼に顔が見えないようにして彼の脇に体をくっつけもしたのだ。
吉保を揶揄いたい、ただそれだけの理由だった。
だが、しかし、彼は慌てた声を出すどころか私の頭をそっと右手で撫で、俺はお前が大好きだとはっきりと言ったのである。
こいつは何を言っているのかわかっているのか。
刑法第38の三項を知らないとは言わせない。
犯罪は故意が認められなければ罰せられないけれど、三項では、法律を知らなくたって、そのことによって罪を犯す意思が無かったとすることは出来ない、と明記されているじゃないか。
お前!
折詰では私が法律でルールなのだぞ!
情けない程慌てている私にお構いなしに、吉保の落ち着いた声はさらに続いた。
「お前に会った奴は誰もお前を嫌えないよ。お前を殺したい奴なんかね、混乱しちゃった可哀想な奴だけだよ。辛くて、何もわからなくてさ、一番キラキラして可愛いのが目立つからってね、攻撃しちゃっただけだよ。」
彼は優しい男だった、そういえば。
子供のように優しいから、残酷なことも出来る男、だった。




