一時の娯楽に供するもの
私はまっすぐな吉保をこれ以上揶揄う事は止め、彼にこの基地の真実を告げることにした。
「ごめん。あたしも轢き逃げ犯なんか隠すよりも突き出したいし、ここの整備士さん達もそんな考え。犯罪を隠すなんて、そんなことはしないよ。暴力攻撃を受けたことを知られたら、同情を受けるどころか暴力組織と繋がりがあるように見られる事情の人だったら、受けた暴力や壊れた車を隠すしかないでしょう。ここはそういう人を助けるとこ。昨夜の私達みたいに襲われた事を内緒にしたい人専用の修理ね。ついでに伊藤のセキュリティーメンバーが安全についてのコンサルトもしてやってあげるという、駆け込み寺。いないでしょ、日本には。本格的なアドバイスや解決が出来る人材が。」
「警察って、なんのために存在していたんだろうね。」
「事が起きた時の後始末のためにでしょう。さぁ、進め、ヨッシー。」
私が命令して指さした駐車場の天井には案内板が吊るしてある。
「進んで、でも、その先で完全停止しろと。」
「そう。丸じゃない四角のテーブルがあるから、上手に車をそこに止めてね。」
「田神様と呼ばせてやるよ。」
暗い駐車場にはターンテーブルがあり、そのターンテーブルに私達の車を乗せあげると吉保は車を案内板通りに停止させた。
すると、車の重量を察知したのかカチリと音が立ち、ゆっくりとだが真横に車が移動し始めたのである。
「うぉ。」
そして移動した先では車のヘッドライトによって、壁ではなく扉であった事を浮き彫りにし、その存在を知られて喜ぶかの如く扉は内側に開いて私たちに道を開けたのだ。
「すごい。本当に秘密基地だ。」
吉保は目を輝かせるとフットブレーキを解除して再び車を動かし、亀の歩みの様なノロノロとだが、新たな道に車が完全に収納されると、ガチャンと後方で先ほどの扉が閉まった重い金属音が起きた。
「すごいよ。俺は転職して良かったと、今初めて思ったね。」
「ふん。」
車が進んだその後は、普通の自動車修理工場と同じ整備士達のいる場所が展開しただけだ。
そこで吉保の小さな冒険は終わった。
「残念?」
「いやいや。で、修理の時間を確認して来るよ。」
吉保は車から降りるとしばし整備士たちと歓談し、私は同年代の整備士たちと初対面でも友人みたいに打ち解けている吉保を眺めていた。
――十分経ったが、私は吉保が楽しそうだからと眺めていた。
もう五分くらい待っている?
「いい加減にしてよ!いいかな!一時間よ!一時間で修理完了よ!よろしくて!」
整備士含む吉保まで一斉に笑い声をあげ、なんと、彼等は吉保にここのアスレチックで使えるチケットを手渡しているではないか!
この人達は私がいつ怒り出すか賭けていたのか!
「賭博行為は五十万以下の罰金または科料に処されるのよ!」
「平気。お祭りチケットみたいな即時娯楽に使えるものなら大丈夫さ。あと、飲み物やランチの代金とかね。直ぐ使える金銭だったら平気です。」
畜生、元マワリめ。
私は吉保の手首をつかむと、一番近くのエレベーターへと有無を言わさずに引っ張った。
「これで、アスレチックジムに行けるのか。」
「そう。一時間遊んでいらっしゃい。」
「いらっしゃいって、お前はどうするんだ。」
「ライブの為に寝だめ。ここさぁ、スタッフ用の仮眠室もあるんだよね。」
「あ、俺もそっちがいい。俺は昨日からお前のせいでクタクタだよ。」
「えー。」




