犯罪行為を共謀して参加したら共同正犯
朝を迎え、私達は修理工場へ向かったが、その車内において吉保は私に精悍な横顔を見せていた。
不機嫌な顔ともいうが。
私はライブの為に、そして私を守る鎧として、祖父宅に置いていたバッグから真っ黒のドレスを引き出してそれを着込んでいるのだ。
もちろん、ライブな今日の私は茶色のカツラではなく、銀髪のカツラにして、カラーコンタクトはブラックライトで輝く特製の銀色の奴だ。
吉保が私の姿を見るや四つん這いになって、畜生と呟いたのは言うまでもない。
「これがあたしでこれこそがあたしなんだよ。いい加減に慣れろよ。」
無言の田神にいたたまれなくなった私は、終に私から彼へ声をかけていた。
「服はもういいよ。気に入らねぇが、その服の方が目立って見失いようが無いからな、いいよ。俺が不機嫌さんなのはね、お前の母さんへの台詞だよ。何が弾けちゃいたいから、だ。呑気な母親を連れていたら、襲われやすいお前を守れないだろうが。」
「あ、そっちか。なんだ。そういう時は孝子さんを守ればいいよ。あたしは自分を守れるし。」
「はっ。一番にあたしを守ってくれなきゃ嫌なの~は誰の台詞でしたっけ。」
私は右横の男に拳を入れた。
窓が破れているという理由で、私は助手席に乗せられているのである。
「ば、ばか。危ないだろ。俺は運転中じゃないか。助手席の人は大人しくして。」
「うるさい。ほら、そこを左。まっすぐ行ったら右斜めに大きな建物があるからそこの地下駐車場に車を入れて。」
「あれ、この先は普通にテニスコートもあるスポーツジムしかないだろう。会員制の。」
「あれ、さすが元生活安全課。知っていたんだ。そうだよ、どうやったら会員になれるのか近所の人にはわからないという、超高級スポーツジムがある。」
吉保は左に曲がった後にしばらく車を走らせ、私が言った建物へと進むべくウィンカーを出したが、そこで何かを考えこみだした。
「いくら車の通りが無いからって、車を止めないでよ。」
「あ、ああ。まぁ、お子様にはわからないか。」
吉保は車を発進させ、建物の地下駐車場へと車を進入させた。
「何が。」
「いや、近所の人間が会員じゃないのに、どうやってこの建物を維持できるのかねって。そういった折詰の暗部がお前を危険にしているのではないか?ってさ。」
「いや、普通に、上のスポーツジムが本気でゴルフ会員権並みに秘密裡で高級会員制なだけ。まぁ、暗部っちゃ暗部よね。会員様の車の修理も秘密裡に請け負っちゃうから。」
「おい、それは金持ちの起こした車事故を隠してやっているという事か?いいか、よく聞けよ。犯罪をする意思の表示が無くてもな、暗黙の意思の連絡があれば共謀があったという事だろうが。人身事故を起こしたことを知っていて見逃すのも共謀にあたるだろ。」
「おや、104条の証拠隠滅ではなくて?」
「秘密の修理工場を利用する権利付会員権なんだろ。自分が人身事故でも起こしても罪を隠してくれると認識している会員と、その認識があると知っている上で会員を募集してんだ。共同行為の認識と見ていいだろ。飲酒運転なんかで罪もない人を轢き殺した奴の証拠隠滅をしていたんなら、業務上過失死傷罪の共同正犯を成立させてやりたいね。」
吉保の真っ直ぐさには、彼を揶揄っていた私こそ恥ずかしくなってしまった。




